敗者の末路
桜舞う4月の学校。出会いと別れが様々な場所で起こり、大きくその人の人間関係が動く。それを一番早く感じるのは大体高校生だと俺は思う。中学校は大体の人が同じ小学校だろうし、正直それ以下は『みんなが友達』的な感じで、人間関係なんか考えたことないと思う。だから高校デビューをする人の気持ちはよくわかる。新たなステージ?で今までの自分を払拭し、新しい人間関係を構築する絶好の機会だ。むしろここで動かない人間の何割かは確実に社会的に最下層に送られる。でも上手く動ければ人生のトップクラスに楽しい期間となる。俺もそうなるため努力しようと思う。
俺は1人は気楽で好きだ、でも群れるのも普通に好きだ。ただ集団の中の1人というのが嫌いなだけ。というか大体がそうだと思う。教室で1人ぽつんとボッチ気取ってるやつも、同じ趣味の人に話しかけられれば多分嬉しいと思う。多分俺もそう。そうして少しづつ本当に仲のいい人と出会って、それが一生の宝物になるんだと思う。それがきっと正しいんだと思う。
だから俺はきっと間違えたんだと思う。
6月。最近は地球温暖化なんかいって夏が早く来て遅く帰っていく。ブラック企業じゃないんだから定時で来て定時で帰ろうよ。日中もそんな頑張んないでいいから。そんなに暑くなるなよ。まあ俺は冷え性だからこの時期もまだ全然平気なんだが、むしろ暑がりが入れる冷房の方がきつい。エアコンが高校でも実施されるのは嬉しい事だが、それが生徒にも操作できるというのは問題だよな。大体実権握るのはカースト上位の連中だし。
案の定教室に着いた俺はブルッた。寒いときに体がブルッとなるあれだ。決して俺が教室に入った瞬間に向けられた刺すような冷たい視線ではないからな。さて席に座って大人しくしておきますか。
一応勉強の方は今のところ問題なくできている。先生に指されれば答え、「わかる奴いるか?」と言われればそっと目を逸らし勿論手は上げない。これで手を上げられる人を俺は素直に尊敬する。でも憧れはしない。
そうしてお昼になれば各々好きな席に移動し、お弁当なりコンビニで買ったパンなり食べる。...俺?10秒チャージ。いやだって楽じゃん。体に良くはないだろうけど。自覚はあります。で昼休みは机が占拠されるから適当な校舎端で優雅な一時を過ごす。粗茶ですが。
でまた午後の授業を普通に聞いて終わり。そしてここからは放課後なのだが、割とあると思うがこの学校は必ずどこかの部活に入らなければいけない。前に「高校なら軽音!大学ならテニサー!」なんて言われたがそれで夢見て散った奴がごまんといることを知っていたため考え中。この学校は変わっていて歩いて数分で海があるし、何故かお寺と学校が合併している。そしてその後ろには山を背負っている。そして学校自体も広いため様々な部活がある。珍しいとこだと折り紙部、筝曲部、動物部、寺部、受験部、セパタクロー部、パルクール部、祈禱部、カラオケ部などなど。何せ1クラス50人の12クラスの3学年、計1800人くらいが在籍しているんだ。それゆえ野球や陸上なんかは普通に全国レベルが何人もいて、これがまたいい集客に繋がる。選択肢が多いのは良い事この上ないのだが逆にありすぎても困るというもの。俺は都会で投網でもすれば引っ掛かるような、何の才も持ってない一般人だからそういう部活がお似合いかな。
てなわけでそこら辺の適当な部活入って幽霊部員にでもなるか。
「おや、君は誰だい?」
「あ、すみません。実はこの部活に入りたくて本日は窺わせてもらいました。」
精一杯の笑顔を浮かべてそう言う。...まぁ結果なんてたかがしれてるけどな。
「この時期に入部とは珍しい。ああ、転校とかか。ではとりあえず名前を教えてもらってもいいかな 。」
部活に入ることが強制のこの学校は普通5月中には部活に入らないといけない。その例外があるとすれば急な転校、もしくは...。
「狐神彼方です。」
かつて俺の祖先、本当にかなり前の祖先が当時卑しい獣とされた狐を神の使いとして祀っていたとか何とかでこの名前にされたらしい。とはいっても現在では本当に神の使いみたいになってるし、今苗字なんて気にする時代でもないし気にしてはいない。普通に狐可愛いしね。
それから何件か部活を尋ねてみても俺を受け入れてくれるところなんてどこにもなかった。就活でも言われていることだが、かなり大げさに言って世界に否定されているみたいだ。とはいえ先生から今日中に入部しろと言われているので落ち込んでいる暇などない。そんなに世界は優しくはない。きっと無理だろうがせめて帰宅時間ギリギリまで粘っていれば少しは多めに見てくれるのではないだろうか。
......なんて馬鹿みたいな期待をしてみる。