8話 コロッセオ
「そうだね、まだ時間あるけどどうしたい?フミ」
「え?──それでは、街の観光をしたいです!」
「おっけー、今日までは居れるかな」
エルム大陸に急いで行くのももちろん良いが、旅には休息も必要だ。
スケジュールに支障が出ない程度なら観光してもいいだろう。
多分大罪も待ってくれる──はず。こんな勇者が観光だなんて、お父さんなら怒りそうだけどまあ私の自由だしね。
「そうだね、地図にはなんて書いてあるかな……なるほど、この先に女性用の街があるらしいね」
「ではそこに行きましょう!」
体格の差からか、男女で別々に暮らしているらしい。
一体どうやって種族を繁栄させているのかと思うが、実はもう一つ鬼の町がある。
私はそこを創ったから覚えているけど、きっと鬼以外の種族にとっては知り得ないことだろう。一応地面の下、全くしかし、鬼がこんな街を作っていたことには驚いた。
鬼は元々妖怪の中でもモンスター寄りの種族だったはずなのだが時代が変わると私の知らないことまで色々変わっていくものなんだなー。
と、考えながら歩いていると、到着だ。
鬼の女性は、一般的な人間と同じ背丈、たまに規格外はいるけど基本的にはいたって普通だ。
肌の色も人間とは変わらず、ぴょこっと可愛らしいツノが生えているだけ。帽子でも被ればほぼ人間と見た目の区別はつかないだろう。
「わぁ……いいですね、大きさが全然違いますよ!」
「女性用だからね、私たちにとってもちょうど良い大きさだ」
「見ているだけでも楽しいですね……」
天界から見ていた頃は、まるでゲームみたいに見下ろしてたけどやっぱり下に降りてみるのは違うなぁ。
視点を変えることでの新発見だったり、そこでしかわからないことが見えてくる。
少し歩くと、大きな声でビラ配りをしている女性がいた。
「鬼格闘技大会!開催してまーす!よければ見ていってくださーい!」
近くを通り過ぎると、私達もビラをもらった。
こういうのってつい受け取ってしまうんだよな。
フミの方はそれをじぃっと見つめている。気になるのかな?
「フミ、見てみてみたいの?」
「えっ!?い、いえそんなことは、全然!」
と言いながら、羽がパタパタとすごい勢いで揺れている。
こちらまで風圧が……って、すごい隠すのが下手っていうか。
「そう?私は見てみたいなー、折角だから一緒に観てみない?」
「え?うーん、主様が見たいっていうなら、私も付いて行きます」
喜んだ顔をするフミ、正直じゃない子の扱いはそれなりに出来るからね。
しかし、格闘技大会って、フミこういうの好きなのかな……まぁいいか。
「それじゃ行こう」
「はい!」
フミの手を引いて、私達は闘技場の前まで行った。
「うわぁ!すごい大きい」
「本当ですね!」
闘技場は、前兆三百メートルほどの巨大建築物だった。
一体どこにこれだけの技術力が──鬼、まさに恐るべき種族とでも言えばいいのか。
まるで、イタリアの首都ローマにある|フラウィウス円形闘技場を彷彿とさせられる佇まいだ。
入り口から中に入ると、正面に選手入場口、左右に観客席へと続く大階段があった。地下には待機選手の溜まり場があるようだ。
そんな訳で、階段を上がり、観客席へと進む。
「うわあ、すごい人数ですね!」
「本当だね、これは凄いよ──」
闘技場の構造は、半分が男性で半分が女性という感じに分かれている。
席に座るにはチケットが必要だと言われたので、私達は女性側の観客席、一番上で立ち見をすることにした。
闘技場の熱気はこれはまた凄まじいものであり、鬼という種族が戦いを求める種族であるという事実は紛れもない事なのであろうと理解できる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼方此方から歓声という歓声が聞こえる。
そんな会場の雰囲気に威圧されながらも、なぜか目が離せない。
今は丁度試合中のようだ。
鬼の強さは男女関係なく、性別関係なく出場、マッチングされるようである。
今は丁度、小さな子供程の女性の鬼と、大きな男の鬼が戦っている最中だ。
「す、すごいですね」
「うん、鬼にとってはサッカーや野球とかのスポーツみたいな感覚なのかな」
「サッカー?やきう……」
「気にしないで、それにしてもどっちも強いねー、私があそこに飛び込んだら一瞬で負けてしまいそうだよ」
子供鬼は剣、大鬼はモーニングスターで戦っている。
武器はアリなのね、これ死人とか出ないよ……ね?え、出るのかな?
パッと見た感じは大鬼が優勢なのかな?まあ大きさは加味しないとしても子供と大人だから仕方ないのかな。
大鬼がメイス振り下ろすと、それを子鬼は身軽に躱していく。そして反撃するかのようにサッと剣で切りつけて、すぐに離れていく。
「小さい方が優勢ですね」
「そうみたいだね」
大鬼の攻撃は、一向に当たる様子が無い。一方で子鬼は地味ながらも確実にダメージを相手に与えていく。
その繰り返しだ──
やがて、両者疲れ果て、大鬼の体には大量の切り傷、子鬼は無傷。誰の目にも勝敗は明らかであった──
「ぐっ……ふぅ」
「よっしゃ!」
そして遂に、大鬼がダウンした。
「おおおおおぉぉぉぉっ!」
「いいぞいいぞー!」
そして歓声が湧き上がった。
子鬼には賞賛の嵐が贈られる。大鬼も負けはしたがそれに対して非難する者は誰も居なかった。むしろ褒める者が多かった。
鬼は戦いをしたものに対し、賞賛を送る。勝ち負けは関係ない、そういった意味ではとても勝負に関しては真面目だと言えるのだろう。
「勝者、切鬼ーっ!前大会優勝者のオーガ・スターを打ち倒し、最年少にも関わらず、優勝です──!」
「やったー!見てるかみんなー!」
コードネームだろうか。
というか、今の試合が最終試合だったようだ。最年少で優勝──すごいな。
そうして、負けた鬼が立ち上がり、互いに握手をしている。スポーツマンシップか。
「美しいですね、鬼の闘い」
「そうだね、なかなか見られるものじゃないよ」
そうして、試合を見終えた後は、帰る観客たちに押し潰されながら街の方へと戻っていった。
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闘技場を出てすぐ、何処へ行こうと迷っているうちに人の出入りは少なくなり、辺りは暗くなっていた。
「そろそろ宿に行こうか」
「はい、分かりました」
フミは満足そうな顔で答える。うーん可愛い……。
バカなことを考えている内に、ドンッ!と突然何かがぶつかった。
「あ、すまねぇな!じゃ!」
「え、あ。さっきの子だ……」
先程、大会で優勝していた子だ。
こんな時間まで中にいたのか。
「あっ!?主様!大変、大変ですよ!」
「え?どうしたのフ──!?これは!」
後ろを振り返って、私は違和感に気づいた。
なぜ瞬間に気付かなかったのか自分を責める。
私の腰にあった愛刀コヅチが──消えている。




