7話 鬼の街
「よし!これで……」
きっとこの攻撃で鬼は倒れるはずだ。
そうして一撃を食らわせた……
しかしその一撃の後、鬼の首はこちらの方を向き、憤慨しながら私を睨みつけた。
(まずいこのままじゃ!)
咄嗟に鬼から距離を取る。
もしあのまま留まっていたらあの金棒の餌食になっていたのだろうか。
しかしーーそれから鬼は何か攻撃を仕掛けてくる様子がない。
そして、金棒を地面に打ち付け、仁王立ちになる。
「はーっはっは!この儂の首に一撃を与えるとは、お前さん腕が立つようじゃ!」
「へ……勝ちでいいんですか?」
「おう!しかしあの一撃、どういうわけか刀を変えて、刃の背で攻撃しよったのは感心せんな!全力でかかってきた方が嬉しかったんじゃが、まあええわい」
どうやら先ほどの一撃で認めてくれたようだ。
鬼という種族は、好戦的ではあるがしっかりと礼儀を重んじる一族だという。
普通の魔物だったらあのまま逆上されて終わってただろう。
そうだ、こんなところで戦っている場合ではない。エルム大陸に行かねばならないのだ。
「一応認めてくれたようでよかった、ではこれで失礼します!」
「失礼します!」
「おうちょっとまたんかいな、別に急ぎの旅じゃなかろう?折角腕っぷしのある相手と戦えたんじゃ、鬼の街に連れてってやる!」
いや、急ぎの旅なのだが、急がないと最悪世界が滅ぶことになるレベルの旅だが。
でも、こういうの断ったら何されるか分からないし……。
鬼の街か、確かエルム大陸寄りにあったはずだし案外そこまで遠回りでもないのかな。
「フミごめん、ちょっと計画変更するけどいい?」
「え、ええ。構いませんよ」
「よし!そうとなったら善は急げ、じゃ!抱えてやるから振り落とされんようにな!」
という成り行きで、アリナ達は鬼の街に招待されたのであった。
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先程の街道から数十キロの場所に鬼の町はあった。
というか普通に考えたらなんであの街道にこの鬼はいたのか不思議ではあるが考えても答えは出なさそうなので諦めた。
そして鬼の乗り心地は非常に悪い、巨体が跳ねるたび私達もふわっとした感覚に襲われる。三半規管に負担がかかり、リバース……まではいかないが結構危険だ。
そしてなんやかんやで到着した、数時間といったところか、乗り心地を引き換えにした分到着までの時間は早いようだ。
「ここが鬼の街じゃ!」
「初めて見たけど、これはなかなか……」
「お、おっきいですね」
鬼が基準になっているのか、全てが大和國とは規格外だった。向こうにいる妖怪もなんだかんだでほぼ人間サイズくらいだったのでこういうのは初めてだ。
まず正門から入ると、歩く鬼全てが巨大だ。まるで自分たちが小さくなったかのように感じられる。
辺りに並ぶ商店街、そこに置かれている食べ物、並ぶ住居も規格外だ、そして何故か街の雰囲気は中華の街並みだ。
街と言っても、町寄りって感じかな。
そして、女性の鬼は見られない……なんでだろう。
「女性の鬼って、いないのかな?」
「ああ、サイズが違うからな。この街は漢と、女に分かれてるんだ」
「鬼特有の文化ですね……!」
フミが目を輝かせている、こういった観光とか珍しいのが好きなのかな。
もう少しだけゆっくりしていってもいいかもしれない。
「それで、街に来たはいいけど何をすればいいんだろ」
「そうだな……まずはいきなり襲った詫びにうちでゆっくりしてけ!そのあとに観光やら何やらするがいい」
「ではお言葉に甘えて」
鬼に誘われるまま、私達は鬼の家に行くのであった。
「うーん、やっぱり家も大きいよね」
「だろ!まぁ儂にとってはあまり大きくはないんじゃがな」
外の方も大きかったし中も大きいのは当然なのだが、やはり文化の違いをまざまざと見せつけられているような気分だ。
台所の流しが私の顔の位置、あたりに飾ってある小物類も抱えて持てるくらいの大きさだ。
鬼に、ソファに座るよう言われたが、全然足が地につかない。大きいので体を全身気楽に委ねられるのはちょっといいかもしれない。
フミも、あちらこちらを興味深そうに眺めている。
「凄いですね、こんな場所があるなんて」
「うん、噂には聞いたことがあったけど予想以上だよ。あ、イタタ……」
「だ、大丈夫ですか?」
先程金棒が掠った腕はまだ鈍痛がする、流石に骨とかは折れてないと思うのだけど……。
と、それを見て鬼が申し訳なさそうに話しかけてくる。
「鬼の間ではあれくらいの攻撃普通じゃったが、やはり人だと怪我が酷いな。あざができとる。ほら見せろ」
「あ、はい」
そう言うと鬼は私の腕を鷲掴みにした。血管が詰まりそうなくらい圧迫されているが向こうはきっと無自覚なのだろう。
そして、鬼が呪文を唱える。
すると、みるみるとあざは消えて、元どおりの腕になっていた。
色々動かすがもう痛まない。
「回復魔法?鬼も使えるんですね」
「ははっ!この容姿からじゃ想像つかんじゃろうが、一応回復師なんじゃ」
「回復師であの火力って……鬼、恐るべき種族だ」
回復師は少々珍しい、回復の魔法を会得しており、才能は数十人に一人の確率だ。
なので回復魔法を持っているだけでこの世界では手に職、各方面から引っ張り凧だという。実際はどうか知らないが、確かに今の怪我も一瞬で治った、自分で生み出した魔法なのにも関わらず感心する。
「たくさん本がありますね、これも回復師の?」
フミが図鑑より大きい本を見る。
「そうだな、たまに魔法で治せない厄介な病気もあるのじゃが、そういう時は医学が役立つ……というても儂にはさっぱりじゃった!その本はまともに読めてないし実質下級じゃな」
回復師には上級、下級と位が存在する。
魔法を駆使し人々を治癒するのは下級
更に、回復魔法と医学の知識を兼ね備えた者が上級だ。
普通に、医学の心得があり魔法が使えないのは医者だ。
医者=下級回復師<上級回復師 という感じ
因みに回復師という呼び方は大和大陸だけであり、他国だとヒーラー、ハイヒーラーといった呼び名になる。
少々ややこしいが「回復できる人」とざっくり覚えていいだろう。
「さて、料理を作ってやろう。少し待っとれ」
「料理までできるんですか、すごいな……」
料理といえば、私は苦手だな。醤油とつゆを間違えたり、分量を一桁間違えたり、さっぱりだ。
これも才能の違いというやつなのか。
「フミは料理できる?」
「え?いえ、教わったことがないのでちょっと……」
「なるほどー」
両方料理できない、と。
フミは頑張ればできそうではあるけどそもそも私が分からないし、他の人に教えてもらおうにも流石に大罪討伐までそんな悠長なことはしていられないしなあ。
収納の加護でしまってある荷物等は時間が及ばないというビックリ法則をしているので、調理された物をしまって、取り出して食べるというのが現実的か。
そもそも収納の加護自体現実的ではないと言ったらおしまいだが。
そんな考え事をしているうちに、料理が出来上がった。
「おお、インパクトがある料理だ……」
「美味しそうです!」
「ははは!たくさん食べて沢山精をつけろ!鬼伝統の料理だ!」
至ってシンプルで至って豪快、出汁の素となる肉を煮込み、調味料を加えてそのまま頂くというものだ。
この肉はこの付近に居る魔物の肉だという。
肉自体にぎっしりと味が染み込んでいて、煮込むだけで美味しい出汁ができるという。
見た目としては、器の中に巨大な肉がドンと置いてあり、他はスープ。
如何にも鬼という感じの料理だ、完全にイメージなのだけど。
「ああ、美味しい、これ」
「こんな料理久々です……」
まずはスープを戴こうとしたが、溢れそうになったのでまずは肉を食べる。
肉はチャーシューのように一枚一枚大雑把に切られており、その一切れを大きなフォークで刺して食べる。
肉だけでも非常に食べ応えがあり、食べる毎に味が滲み出てくる。
ある程度、肉を食べたらスープを飲む、肉より少し薄味でちょうどいい感じだ。
単調な味だけど、なぜか飽きずに食べ進めることが出来る。
そのまま、完食したのだった。
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「では、そろそろ行きます!」
「まだ居てもいいんじゃが……旅してる途中に悪かったの」
「いえ!ご飯まで食べさせていただいて本当にありがとうございました!」
「エルム大陸行きじゃったな。そこへ行く船は、この街から西に行ったところの町から出てる。そこへ行ってもいいしまだこの街を観光してもいい、それじゃ達者での!」
「「ありがとうございました!!」」
結果的には近道になっていたようだ。
鬼って結構怖い種族かと思っていたけど思った程、というか全然そんなことはなかったな……。
余裕があれば少しこの街を見るのも確かにいいかもしれないよね。




