1話 針に弱い
「せい!はあっ!とう!」
「はは!やるようになったじゃないか!」
「そりゃ、勇者になるんだからこれくらいはね!」
どうも皆さん、転生後の私だよ。佐々木有菜。
今何をしてるかって?剣術の練習。
何故か転生したら、勇者の家系に生まれていて、私は今日で世界を救う為に旅立つようだ。
ん〜〜〜〜!
わざとやったなあの死神さん!
しかも神だって天界に身バレしてたまに天使たちが私のところへやってくるし!
なぜか加護とか言ってチート能力付与してくるし!
ま、嫌いじゃないと言うか寧ろ好きなんですけどね。一度こういうすごく強い存在、なってみたかったんだ。
そして転生後の私の世界では小さなことから大きな事まで色々あった。
まず私の性格が変わった、この体の人格が反映されているのか分からないけど正義感とか色々無駄に強くなった。
そして創造神(私)がいなくなったことにより、各国が荒れ始めているという。
……これだから自立して欲しかったのだけど、まぁ最初に干渉した私も私だったね。
「神様!どうか我らに知恵を!」とか言われた時に、ひょこっと出てきちゃったんだよ。なんか放って置けないなって。
そして最後、これが今起こっている中で一番の問題。
私が居なくなった事で魔王を抑制する者が居なくなり、魔物達がイキリ始め世界の勢力が魔王軍に傾いてきてるというのだ。
ここは一発、魔王城に凸ってもう一度言い聞かせるしかないよね。勇者だしそういうところは使命通りにすれば良い。
まあ身の上語りはこの辺にしようか。
とりあえずは今、私は旅立ちの時を迎えている。
「さぁ、剣術の稽古も終わったことだ!そろそろお前を送り出さねばな!」
この人は私の父だ、先代勇者で咲舞学だ。というか天界に居た時に戦いを見てたから知ってたんだけど。
そういえば私の名前は何故か相変わらずのアリナだ。咲舞有菜見事漢字も一致だ。
絶対これも死神さんの仕業だな、せっかくだからもっとかっこいい名前に生まれたかったんだけど。
まあ私女だけどさ。
「分かったよ父さん、取り敢えず魔王は私に任せて!必ず言い聞かせるから!」
「ああ、頼りにしてるぞアリナ……なぜかお前は歴代の中でも一番優秀だからな!」
天使の所為なんだけどね、あの子達私が子供の時に少しでも危ない事があれば天使軍を呼び寄せようとしてたくらいだからね、きつく叱ってからはもうそんなことも無いけど。
「見送りは父さん一人?」
「ああ、みんな忙しいからな。すまんな!」
「いいよいいよ、父さんだって忙しいでしょ」
「それでは!幸運を祈るぞ!」
「行ってくるー!」
そんな軽いノリで、私は旅を始めることになったのだ。
「あー最高!勇者の家ってしきたりとか色々きついからね、なんか解放されたって感じ!」
さてさて、ここは倭大陸の大和國!すごく日本ぽい名前だよね、勿論ネーミングソースは私だ。
さて、このヤマトで、まずは何をするか!……何をするか!
思いつかない!
あれ?結構無計画だった?私としては可愛い子を仲間にして一緒に旅したり、なんかこう。イベントが欲しいと思ってたんだけど。
前世の死因が男にフラれて自殺である為、必然的と私の恋愛対象は女性になっていた。
「そうだなー、別の大陸にはエルフとか、フェアリーとか可愛い子がいるし……いやでも!やっぱり最初の仲間は最初の場所で作りたいよね」
そうブツブツと呟きながら歩いていると、ふと目につくものがある。張り紙のようだ。
『冒険者ギルド……ヤマトに展開』
冒険者ギルドか、もしかしたらそこに行けば新しい仲間に会えるかな?
しかし冒険者ギルドも知らない間に大きくなってたんだなぁ、昔は中央大陸のリアレス国にしかない、本当にマイナーな職業だったはずだ。
張り紙に書かれた場所を見る、私の知っている場所だった。
「ああ、ここだったのか!前工事してたって思ってたらそういう事ね、理解した」
私は出会いに飢えて、冒険者ギルドに出向くのであった……。
この国、いやこの大陸は、日本みたいな名前なだけあってその中身は昔の江戸の時代って感じだ。
勿論サクラもあるし、妖怪だっている。なんなら共存している。
でも鎖国とかはしているわけじゃない。
結構外界との交流があるから、独自の伝統を保ち続けている変わった文化の大陸という感じだ。
食事もしっかり日本風!白米だって味噌汁だってあるし、刺身だってある。
何故かは分からないが、そんな説明口調な感じで考え事をし終えた頃にはもうギルドの目の前に来ていた。
「なるほど、ギルド大和支部か。ギルドってどんな所か分かんないけど、とりあえず入っていいんだよね」
流石に元神と言えど人間が作ったものの全てを把握しているわけではない。
一体どんな出会いが待っているのか、アリナは期待を胸に膨らませながらギルドの中へ入っていった。
「なるほど、結構ギルド!って感じの所だね」
中に入ると正面に見えるのはカウンター、そこには綺麗な女性が居る。受付嬢か。
左手には、そこそこ大きいコルクボード。紙が色々と貼り付けられている。右の方には、冒険者達の休憩所だろうか?テーブルと椅子が何組か置かれている。
そして休憩所の更に奥には、食堂のような大きなスペースがあった。何人かが食事をしている最中だ。
「すいません!いいですか?」
取り敢えずは、と受付の女性に声をかけてみることにする。
「はい!冒険者ギルド大和支部へいらっしゃいませ!新規の方ですか?」
「ええと、多分そうです!」
なるほど、と受付嬢は頷くとカウンターの下から書類を取り出した。
きっとこれに個人情報等の記入をするのだろう。
「では、御自身のフルネームのカタカナと年齢、希望役職を書いてください」
「希望職業?一応私にはもうあるんですけど」
「それは失礼致しました、そちらを書いてくださって宜しいですよ」
別に勇者って書いたって、驚かれるくらいで他には何も無いだろう。
あくまで世界を救う勇者が別の職業書いちゃってもあれだし……。
サクマアリナ(18)*勇者*
こんな感じでいいだろう。
「はい、これでいいですかね」
「拝見致しま……は、はい!承りました!確かにこれは、ええ」
驚いた様子をするが、特にこちらに聞く様子もない。
まあ普通の反応なのかな?
「では最後に、魔力検査を行います、チクっとしますが我慢してください」
「え?チクっと……て、ふあああぁぁ!」
受付嬢の手に持つもの!アレはまさしく採血針!
まじか、どうする!やるしか無いのか!?
「はーい、手を差し出してください」
「は、はーいぃ」
チクッ
「!………」
「はい、終わりまし……た?えっ!?気絶して…る?」
ちょんちょん
「おーい?起きてますかー?
「……」
パタッ……!
「た、倒れたーーーっ!?だ、誰か!誰かーーーーー!」
その後、大和國では暫くの間『勇者が死んだ』とか言う噂が広まったとか広まってないとか。
吸血針(吸魔針)の当て字は深夜に考えた衝動的なものなので大目に見ていただけますと幸いです。