Lv7 ▼私と王子の利害は一致?
目まぐるしく終わった転生一日目から、数日が経った。
ルーナがいつもなにをしているのかよくわからなかった私は、とりあえずお友達大作戦を決行していた。
だって、なんにもしないで一日が終わるのはつまらないもん!
まあ、お友達大作戦っていってもただお屋敷の人たちに「仲良くしましょー」って声をかけまくるだけなんだけれど。
でも、最初は怖がっていたアンさん以外の使用人さんたちも、毎日アンさんが私と仲睦まじく(願望)喋っているのを見たからか、わりとすぐに馴染んでくれた。クールビューティ・アンさんの認識は使用人さんたちも共通だったようで、みんなびっくりしていた。
その中でも特に料理長のブリングさんは、アンさんを幼い頃から知っているらしく、
「アンがこんなに笑っているのは久しぶりに見たよ。ありがとうな、お嬢様」
と、豪快に大きな身体を揺らしてお礼を言ってくれた。すごくいい人! 見た目は怖そうだけれども!!
数日経った今では『せんちょーさん』『お嬢』と呼び合うほどの仲良しさんだ。大柄で海賊の船長さんみたいだからね!
せんちょーさんはなんでそう呼ばれているのかわからない様子だったけれど、他の料理人さんたちは頑張って笑うのをこらえていたから、なんとなく理解はしているんだろう。
そして、せんちょーさんと仲良くなってから、厨房に行くとおやつがもらえるようになった。いつもの豪華なものではなく、素朴な焼き菓子だけれど、それがすっごくおいしいんだ! さすがフィーブル公爵家の料理人だね!
そんなこんなで私は、今をすっごくエンジョイしていた。
廊下を歩けば手の空いた使用人さんがお喋りしてくれるし、屋敷を探検するのにアンさんが着いてきてくれるから屋敷の通路や部屋をある程度覚えられたし。
今の生活にほとんど不満はありません!
でも、あえて一つだけ挙げるとするなら……、
そろそろ聖女の勉強をしたい! だけれど、アンさんにあんなことを言った手前、教師を招きたいなんて言えない!! ということ。
使用人さんたちとキャッキャウフフする生活はとても楽しい。でも今はそれ以上に、私になさすぎる知識をどうにかしたい思いの方が強い。だってこの国のちょっとした歴史が知りたいと思って本を開いてもなにも思い出さないのは、転生前の私は知らない情報だってことだもんね。
七歳って、日本なら小学二年生くらいだ。ルーナはまだなにも勉強していなかったんだろうな。アンさんも「お嬢様が勉強なさるのはもう少しあとの予定」って言っていたから間違いないと思う。
そう、今のこの生活に足りないのは知識なのだ!
アンさんから聖女についての話と簡単な作法くらいなら教わったけれど、国とか、世界観については聞いたことがない。勇者伝説にもそんな描写はなかったし。
どういう理由があれば、先生をつけてもらえるかなあ。
廊下をうろうろしながら考えていると、パタパタと急ぐような足音が近づいてきた。
「お嬢様っ! 旦那様がお呼びですので、今すぐ来てくださいませ! 」
なんだか見たことあるぞ、このパターン。
ここ数日はお屋敷に帰ってこなかったお父様が急に帰ってきて私を呼ぶなんて、要件はあれしか……いやいや。そんなことありえないよね!
「お嬢様! ドレスはこのままでいいので、髪型だけどうにかしましょう」
わー、アンさんも来ちゃったー。すごく既視感。
半ば諦めた私は、アンさんたちに担がれる勢いで連れて行かれたのだった。
「いきなりで申し訳ない。今日は予定が空いていたので、ルーナ嬢に会いに来たのです」
「よく来てくださいました。娘もとても喜んでおりますよ」
「…………」
またですか。
また地獄の拘束タイムが始まるんですか。
目の前にいるのは、無駄にきらきらしい男の子。そう、あの王太子殿下ですよ……。
また会いに来るよっていうのは冗談じゃなかったんだね。
嫌だよう、権力者の相手をするのは疲れるんだよお!!
「お会いできて嬉しいです、王太……レオン様」
ああ、私はNOと言えない日本人。心にもないことを言ってしまった。
いや、別に殿下のことが嫌いなわけじゃないんだよ? ただ、殿下の権力が面倒くさいだけなんだよ。
「では、あとはお二人でごゆっくり……」
お父様ー!! 戸惑わないで、逃げないで!!
本当はそこまで嬉しくないんだよおー!
――パタン。無情にも扉は閉められてしまった。もう、逃げられない。
「久しぶりですね、ルーナ嬢。美しいあなたにまた会えるのを楽しみにしていました」
「私もです。レオン様とまたお話できるなんて光栄ですわ」
とりあえずアンさんに習った作法で挨拶をする。これで失礼はないでしょう……多分。
あとは、レオン様の話を「すごいです~~」で受け流せばなんとかなる! はず!!
「先日、私は父についてあなたの領地の――」
「そうなのですね! すごいですわ」
かれこれ三十分ほど、レオン様との会話は続いている。とはいっても、権力者が目の前にいるという緊張で話が耳に入ってこない。
でもすごいね。八歳ってこんなに話が上手なものだっけ? 前世ではだいたい「ねえねえ先生あのねえ!」って支離滅裂な話を延々とするような年齢なんだけれど。これがただの子供と王太子の違いなのかな!?
意外とすごいんだね、レオン様。なんて感心していると――、
「フィーブル公爵には書簡が送られていると思うのですが、私の婚約者として正式にあなたが選ばれたのです」
「そ、そうなのですね。ありがとうございます」
覚悟はしていたものの、やっぱり公爵令嬢の任からは逃れられなかったかあ。
「ですが、婚約者だからといってすぐになにかが変わるわけではないのです。王宮に入る権利が与えられるくらいで、婚約者としての本格的な作法や学の取得は学園に入ってから始めても間に合いますしね」
「そっ……」
それだぁー!!
誰にも怪しまれずに勉強する方法!!
王太子殿下の婚約者として勉強をするっていう体でいけばいいんだ!
「あ、ありがとうございます! レオン様!!」
「ふっ、喜んでくれたのなら私も嬉しいですよ」
そうやって、ちょっと誇らしげにレオン様は笑ったけれど、別にあなたに惚れたわけではないのですよ、ナルシスト殿下?
でも! この婚約には万々歳だ!!
早速、お父様にお願いしにいこう!!
やっとの更新です。遅くなってすみません!
こんな遅筆小説なのにもかかわらず読んで下さり、ポイント評価までして下さり、更にはブックマークもして下さり!!本当に読者様には感謝でいっぱいです!
いつもありがとうございます!励みになっております!!
これからも皆様に楽しんで頂ける小説が書けるように精進してまいりますので、Lv8以降もどうぞよろしくお願いします!