Lv43 ▼未来へ
最終話です。
「ただ今より、聖女返戻の儀及び聖女天授の儀を行う。聖女マリアナ・シェリアス、前へ」
国王陛下の一言で、聖女のヴェールとリンカーナの耳飾りを身につけたマリアナ様が赤い絨毯の上を歩く。ゆっくりと歩を進めるマリアナ様は神々しく、この方が引退してしまうことが残念に思えるほどだった。
国王陛下と王妃殿下の前へと進み出たマリアナ様は、台座に置かれたクッションの上に、耳飾りとヴェールを丁寧に置く。そして祈りの姿勢になり、静かながらよく響く声で宣言した。
「私、マリアナ・シェリアスは、聖女としての任を全うしました。神の思し召すままに、私は聖女としての役割を終え、次代へと引き継いでゆきます。創造神様、次代の聖女達へのご加護をくださいますようお願い申し上げます」
「神よ、我らの願いを叶えたまえ」
「「神よ、我らの願いを叶えたまえ」」
国王陛下の言葉に続き、皆で祈りを捧げる。
創造神様、私たちからもお願いしますよ。加護は別にいいけれど、もう世界を破滅させようとしないでね。
「では、続いて聖女天授の儀を執り行う。今回は神のお告げにより、異例の二名の聖女が誕生する。さあ次期聖女たちよ、前へ」
「「はい」」
ついに私たちの番が来た。サラちゃんとともに国王陛下の言葉に返事をして、絨毯に足を乗せた。二人で並んで、ゆっくりと前へ歩いていく。国王陛下たちの玉座の前に、マリアナ様が立っている。マリアナ様は優しい笑顔を浮かべて、私たちの到着を待ってくれていた。
この十六年、いや、前世や一周目の世界も合わせるともっと長い時間、本当に色々なことがあった。その大半はほの暗い記憶だったけれど、レオン様にザッくんやサラちゃん、お父様やアンさんや使用人のみんな、ガモンさんやマリアナ様……たくさんの人たちに出会い、たくさんの愛を知って、恋を知って、私は今ここに立っている。
今、私の視線の先にはきらきらと輝く未来が見える。それは、今までの出会いや経験、感情達全てからつくられたもの。
つらい経験もたくさんあった。報われない時間も長かった。それでも、多分それも無駄ではなくて。今はまだ受け入れられないけれど、かつての母の思いも少しは理解できたらなと思う。きっと彼女も、悲しい人だったから。
今までの人生をなぞるように、私は前へ前へと進んでいく。この絨毯の先には、大理石の床が広がるのみ。この先の道は、自分たちで新しい絨毯を敷いていかなければならない。
どんな色がいいかな、模様は? 長さは?
それを考えるのは私自身。自分で道を決めるのは少し怖いけれど、私には支えてくれる大切な人たちがいるから大丈夫。
大切な者たちの、幸せな重みを感じながらマリアナ様の前までたどり着く。
「では、新たな二人の聖女に、前聖女よりヴェールと耳飾りを」
「では、ルーナ・フィーブルにはヴェールを、サラには耳飾りを授けます。二人で力を合わせ、この力を民のために役立てて――」
(なんだ、二人分用意しないとはけちくさいな)
「「「!?」」」
私たちがヴェールと耳飾りを受け取ろうとしたとき、頭上から聞き覚えのある声が聞こえ、思わず上を見上げた。来賓の方々はわけがわからない様子で、きょろきょろと周囲を見回している。
「……創造神!?」
「創造神だって?」
「まさか、本当に!?」
サラちゃんが声を上げ、それに続くように来賓たちがざわめき始める。
あちゃあ。創造神様、もう出てきちゃったのかあ。来賓たちが混乱しちゃっているよ。
私が半眼で頭上を見上げると、創造神様の笑い声が響き渡った。
(ははは! ルーナ、サラ、そう拗ねるでない。これは我からの祝いだ。受け取れ、聖女たちよ)
その言葉とともに強風が辺りに吹きすさび、風に乗って新しいヴェールと耳飾りが二対、ゆっくりと落ちて、私とサラちゃんの手の上に着地した。
「新しい……ヴェールと耳飾り?」
(それだけではないぞ、お主らには今、我からの加護を施しておいた。これでお主らに危害を加える者はいないだろう)
「ご加護だと!?」
「魔の者にも絶対的な力を発揮するあのご加護か!?」
だんだんと大きくなるざわめきに、私とサラちゃんは顔を見合せた。
いや、有難いけれども! 目立つからこんな大っぴらにやらないでよ、創造神様!!
(では聖女たちよ、お主らに幸あれ!)
私たちの心の叫びも虚しく、創造神様の声はやけに上機嫌で、風がおさまるとともに去ってしまったようだ。
「おほん! ただ今、神からのご加護を受けた聖女たちに拍手を!」
国王陛下が機転を利かせて、拍手を求めた。まだざわついていた会場だったが、その中でパチパチパチと二人分の拍手の音が聞こえてくる。
音の鳴る方を見ると、レオン様とザッくんが拍手をしてくれていた。それに気づいた来賓も二人にならって拍手をする。
パチパチパチパチ……!!
大きく膨れ上がった音は、新しい聖女の誕生を、そしてこの世界の未来を祝福してくれているようだった。
私とサラちゃんは、ヴェールと耳飾りを身につけて、淑女の礼をとった。
聖女になりたかった少女は、紆余曲折を経て、その夢を掴んだ。
しかし、その夢は彼女の新たな門出の始まりに過ぎない。これからその少女は、自分の過去と向き合い、たくさんの民に寄り添うことができるようになる。治癒魔法だけでなく心にも寄り添うその少女は『癒しの聖女』と呼ばれ、希代の光魔法の使い手となる『光の聖女』とともに、この世界を平和へと導いていく。
そして、リルザント王国の新国王は聖女たちを大切に保護し、独占することもなく、和平のために派遣することもした。その手腕が評価され、彼は賢王として『癒しの聖女』の傍にいることになる。
そんな未来がきっと、いや必ずやってくる。
まだこのときの私たちにはわからないけれど、その輝かしい未来は、満月のように優しく、しかし確実に私たちに光をもたらしていた。
これにて完結となります。
ここまでルーナたちを見守ってくださり、本当にありがとうございました。
皆様の明日も、月のように優しい光で溢れますように。




