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塗り潰されたサイドストーリー

 私の存在を一言で表すならば『悪女』。それ以上にぴったりな言葉はないだろう。


 生まれながらに甘やかされて、自分のことばかりのワガママ放題。世界は自分のために動いていると思っている。


 ほしいものはなんでも手に入る。ドレスも宝石も豪華な食事も、王太子の婚約者という地位も。


 それが、他者からの私の評価。


 それ以上なにを求めるのか、みんなはそう言うでしょう。


 でも……でもね、本当はずっと寂しかったの。


 大好きなお父様。仕事ばかりでなかなか会えない。部屋に届けられるプレゼントの数々も、もう嬉しいとは思えなくなってきた。


 優しかったお母様。もう天国に行ってしまわれた。毎日私が摘んだ花を見て喜んでくれていたあなたはもういない。


 お家に沢山いる使用人たち。ユミルにカーナ、ヒューバート、ロル、ケビンにアン、アリスにザイムに……。みんな覚えたのよ。「お嬢様」って呼ばれたときに名前を呼び返せるように。


 でも、彼らはいつもびくびく怯えた顔を隠して笑って私を見るだけ。


 じゃあワガママを言ったら怒るかな? 引きつった笑顔を浮かべるだけ。


 お部屋に置いてあるものを全部ひっくり返したら? 笑って全部片付けちゃう。


 初めて恋をしたあの人だって、愛らしい顔立ちのあの庶民の子しか眼中にないの。


 誰も私を見てくれない。私の周りはたくさんの人であふれているというのに、家柄かこの顔目当ての人しか寄ってこないの。ルーナを見てくれる人は、いない。


 誰か私を叱って? 「ワガママを言うな!」って怒って、そして私を抱き締めてよ。それだけで私は満足なのに。


 お父様、たくさんのプレゼントなんていらないわ。ただ一緒にいてくれればいいの。


 お母様、私の元へ帰ってきて。あなたがいた頃の私が一番幸せだったのよ。


 使用人のみんな、私を怖がらないで。本当は仲良くしたいのよ……と言ってももう遅いのでしょうけれど。


 私が恋焦がれたあなた。私たちはいずれ結婚するのよ。あの女の子しか心にないあなたを、ずっと愛したままで私は生きていかなければならないの?


 誰か、誰か。私に気づいて。私を認めて。誰でもいいの。たった一人でもいいの。


 お願い。


 優しい人が、私に乗り移ってくれないかしら。今の私は、もう戻れないところにまで来てしまっているから。私の心は、奥の奥まで真っ黒に染ってしまっているから。


 ある日突然、善良な私になったのなら、周りのみんなは驚くはずだわ。最初は怖がるかもしれないけれど、きっと私のことを見直してくれるわよね。


 誰か、誰か。私を助けて。周りを不幸にしかできない私を救って。


 そのためなら私、その誰かに身体を差し出すわ。その代わり、この身体を使って私が大切にしたかった人を幸せにしてほしいの。


 お願い。


 こんな最低な私の願いなんて、誰も叶えてはくれないのでしょうけれど。

次回、エピローグです。

明日は、3話まとめて投稿する予定です。

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