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RPG!!〜聖女になりたい転生令嬢〜  作者: こんぺい糖**
最終章 ほしかったもの
42/47

Lv39 ▼懺悔と救済

「ルナっ!!」


 私が静かに目を開くと、そこには涙を浮かべてこちらを見るレオン様の姿があった。


「レオン、様?」


「ああ、よかった! やっと目を覚ましてくれたっ!」


 レオン様は横たわる私を強く抱き締めて、安堵の息を吐く。その様子を横で見ていた創造神様は、やれやれというように口を尖らせる。


「だから言っておっただろう。ただ気を失っておるだけだと」


「気を失うだけだと? 貴様、ルナをこんな目に遭わせておいて!」


 レオン様は創造神様に話しているとは思えない、怒気をはらんだ声を出している。


 私はぼんやりとした視界で、二人のやり取りを眺めていた。


「ルーちゃん! 大丈夫!?」


 ザッくんが私の元へと駆け寄ってくる。サラちゃんもその後ろをついてこちらへと来てくれた。


「ザッくん、サラちゃん」


「創造神様から聞いたよ。この世界は本来、『勇者伝説』になる予定だったって」


「それをうっかり間違えてオトデン……『乙女♡伝説』をベースに世界を創ったらしいわ」


 サラちゃんの説明に私はやっと納得する。創造神様から、転生するのは勇者伝説の世界だと聞かされていたのに、実際は乙女ゲームの世界だったのを疑問に思っていたのだ。


「む……元のげーむが同じなのだから特に問題はなかろう。実際、世界観がげーむなだけで、そこで生きる生物たちはげーむ通りにならないのだから」


「そんなこと言ったって、俺らが主要キャラに転生していたら勘違いするだろ!? しかもルーちゃんのためとか言いつつ、悪役令嬢にするし!」


「庶民の娘より裕福な家の娘の方がいいだろうと思ったのだ」


「庶民の娘で悪かったわね!! って、急にどうしたのよ!?」


 ザッくんたちと創造神様の会話を聞いていると、私の目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちてきた。それを見たサラちゃんがぎょっとし、レオン様が気遣うように私の背中をさすってくれる。


「ルナ!? どうした?」


「ちが、違うんです。やっと全て思い出して。先ほど見た映像は、創造神様が一周目だとおっしゃったようにまぎれもない転生後の私の姿だったのです。あれは、全て私がやっていたことなのです」


「転生……ザックとサラ嬢もそう言うが、つまりルナたちは、僕の知らないどこかからこの世界に生まれ変わった存在ということなんだね?」


「はい」


 私はこくりと頷く。ザッくんもサラちゃんも、私に続いて首肯した。


「でも創造神様。一周目って言うが、それなら二周目もあるってことだよな? その二周目が今の俺らなら、なんでこんなに一周目と違うんだ? それに、なんでもう一度やり直させたんだよ」


 ザッくんが創造神様に疑問をぶつける。それは私もわからないところだった。だって、私が二周目で前世の一部を思い出したのは七歳のとき。一周目では自我が芽生えるとともに全ての記憶を思い出していたのに、今回は前世も一周目の記憶もほとんど思い出せなかったのだから。


「そもそも我は、聖月の魂に興味を抱いたのだ」


 そう言って創造神様が語り始めたのは、思いがけない話だった。


 この世に創造神は複数人おり、いくつもの世界を管理しているということ。その全ての世界には均等に幸福が振り分けられており、その世界にいる生物が多かろうが少なかろうが幸福の上限は変わらないこと。しかし、各世界で母数が違うので、場合によっては幸福をほとんど得られずに人生を終える者も少なくはないこと。


「聖月……前世のルーナも幸福が振り分けられなかった人間の一人だったのだ。それだけならなんら珍しくないのだが、大体の生き物が早くに絶望に沈んでいく中で、お主の魂は死ぬ直前まで希望を絶やさなかった。そんな人間は我の長い人生の中で初めて見たのでな。興味が湧き、もう少しこの魂を観察したくなったのだ」


 だから私を転生させるための世界を創ったのだと、創造神様は言った。


「じゃあ俺らまで転生しているのは」


「たまたま同時期に死んで、聖月と同じ趣味を持っていた者の中から面白そうな人間を適当に選んだまでだ。我から聖月への気遣いというやつだな」


「はあっ!? 私たちはオマケってこと!?」


「まあそうだ。だが、前世の記憶の影響か、転生先で聖月の魂は淀んでしまった。どうにかそれを戻したかったのだが、世界を創り直すとなると、すでに転生している聖月の魂も消滅してしまう。だから時を戻し、魂の淀みの原因となる前世と一周目の記憶を封印したというわけだ」


「なによそれ」


「聖月以外の記憶は別にいじっておらんぞ? だからルーナ以外は一周目となんら変わらん。ルーナが聖女を目指したことによる変化はあったようだがな」


 創造神様の説明はあまりにも異次元のもので、私以外の三人は驚きのあまり無言になっている。けれども私はそのこと以上に、創造神様が何気なく放った一言に衝撃を受けていた。


 ――幸福を振り分けらなかった人間。


 それが私なのだと。それじゃあ、私が前世でお母さんに愛されようと努力し続けたのは無意味だったというの? 努力さえすれば愛されるというのは嘘だった? それなら、一周目に私がみんなにしたことは。


「私は、私はなんて最低なことを! せっかく優しくしてくれたのに、せっかく愛してくれていたのに!!」


 私は流れる涙をぬぐいながら、自身の行いへの後悔の念が止まらなかった。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


「ルナ。なにか、事情があったのだろう?」


 謝り続ける私に、レオン様は優しい声音で私に問う。


「違うんです。そんな大層な理由ではないのです。私は本当に自己中心的な思いであんなことを」


「ルーちゃん、もし嫌じゃなかったら俺たちにも教えて?」


「そっ、そうよ! 私はあなたにいじめられていた張本人よ! 本当にしょうもない理由だったらひっぱたいてあげるわよ!」


 レオン様に続いて、ザッくんとサラちゃんも私をまだ否定しないでいてくれている。三人は本当に優しい人たちだ。でも、そんな優しい人だとしても私の話を聞いたら絶対に「そんなことで?」と思うはず。それをわかって話すのは、すごく怖い。けれども、かつて彼らにひどいことをした贖罪の意味も込めて、私は話さなければならない。


「本当に私はどうしようもない、生きる資格もない人間なのです」


 そう前置きをして、私は前世から転生一周目にかけての人生を洗いざらい話した。みんなは馬鹿にすることもなく、軽蔑することもなく、真剣に話を聞いてくれた。


「それは、ひどいな」


「そう、ですよね。私は本当にひどいことをたくさんしましたし、皆さんを傷つけてしまいました」


 全て話し終えたとき、レオン様がぼそりと呟いた言葉を聞いて、私は胸がぎゅうっと締め付けられるような苦しさを感じた。好きな人に否定されるのは、自業自得とはいえ本当につらい。


「お母さんに愛されなかったからって、この世界で私を優しくしてくれた人たちに当り散らして」


 私がそう言いかけたとき、レオン様が慌てた様子でまくし立てた。


「違う! ひどいのはルナじゃない! 悪いのは前世の君の母親だ! なぜこんなに健気に頑張るルナを否定できるんだ。なぜ、なにも悪くないルナがこんな目に遭うんだ!」


「そうだよ! ルーちゃんが悪いわけないじゃんか!! 頑張って頑張って、それでも親に愛してもらえないなんて、俺だって耐えられないぞ!? しかも転生後に今までの努力を全部否定されてさあ!」


「悪いのはあなたのクソ親と創造神じゃない! なにが『生きる資格がない』よ! そんなわけないじゃない! それで嫌がらせされるんだったら、私だってあなたに真っ向から立ち向かったわよ! 思いっきりぶつかって、あなたの思い込みを叩き直してやったのに!」


 ザッくんもサラちゃんも、私のせいではないと言った。絶対に引かれると思っていたのに、想像もしていなかった言葉の連続で私は動揺が隠せない。


「な、なんで? だって私が愛されなかったのは必然だし、それが理由で人にひどいことをしていい理由には」


「ならないよ。ならないが、ルナが愛されない理由にもならない。ルナが一人で苦しむ必要はないんだよ。今のルナが過去の罪を悔いているのなら、僕はルナを変わらず愛するし、他の皆も同じ気持ちだと思う。大丈夫、君は素敵な女の子だよ」


 レオン様が私を抱き締める。全身を包み込む温かさが切なくなるほど優しくて、私はレオン様の胸に顔を埋め、子供のように泣いた。


「ルーちゃん、俺たちもずっとルーちゃんの味方だから」


「私は、私だって……もういいわ! 他の玉の輿を狙うわよ! それならいいでしょ! 友達と攻略対象かぶりたくないし!?」


「素直じゃねえなあ。サラは」


 私がずっとほしかったもの。初めてそれを得たときは、間違えて手放してしまったけれど。今の私は、もうそんなことはしない。


 無条件に愛してくれる人たち。彼らは私の罪さえも受け入れてくれた。私の苦しみを一緒に感じてくれた。


 そんな人たちの中で、私はこれからも生きていきたい。改めてそう強く思う。


 だから、創造神様には屈しない。どんな手を使ってでも、私も、私の大切な人たちも、全て護ってみせる。

お読みいただきありがとうございます!

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