Lv35 ▼創造神
頭に流れ込んでくる声は私だけに聴こえているわけではないらしく、レオン様もザッくんもサラちゃんも、国王陛下たちも突然のことに驚いている。
ただ一人、マリアナ様だけが静かに口を開いた。
「創造神様、でいらっしゃいますね」
思いがけない言葉に、その場にいた全員がマリアナ様の方を見る。マリアナ様はやけに落ち着いていた。
(いかにも。我こそがこの世界の創造神である)
「お初にお目にかかります。現聖女、マリアナ・シェリアスと申します」
マリアナ様はなにもない空間に向かって淑女の礼をとる。しかし、創造神様がマリアナ様に興味を示す様子はなかった。
(ルーナ、やっと会えたな。もっと近くに来るがよい)
「…………!!」
え、さっきのは聞き間違いじゃなかったの!? 私の名前をなぜか知っているし、しかもやっと会えたってなに!?
一見友好的な声掛けだが、相手はこの世界を滅ぼそうとしている神様だ。なにを仕掛けてくるかわからない。私を指名した意図もわからないし。
私はいつでも魔法を展開できるように、こっそりと魔力を指先へ集め始める。
「そ、創造神様。そうは言ってもお姿が見えないので、どちらに行けばよいのかわからないのです」
(そうだったな。では、降りてくるとしよう)
創造神様がそう言うと、突然強い風が吹き荒び、竜巻の中から黒髪を腰まで伸ばした中性的な美青年が現れた。白いシャツにズボンという市井の人たちが着ていそうな服に身を包んでいるが、その異端さは隠しきれていない。
これが、創造神様の姿。もっといかつい姿を想像していたけれど、ものすごい美形で驚いた。
「さあ、人の姿になったぞ。早くこちらへ来い。ともにこの世界から天界に参るのだ」
創造神様は屈託なく笑う。しかし、私にはその笑顔が恐ろしくて仕方なかった。
「ともに天界へ? なぜなのです、私はご覧の通りただの人間ですよ!?」
私はパニックになりながら答える。
わからない。なんで私に旧知の人のような顔を向けるの? なんで天界に連れて行かれそうになっているの? この世界をどうするつもり?
そんな質問がとめどなく溢れてくる。だけれど情報処理が追いつかず、口をはくはくと動かすことしかできなかった。レオン様といいサラちゃんといい、今日は意味がわからないことばかり起きて、もう頭が働かない。
多分、今まで気にもとめなかったもの、意識して見ようとしていなかったものが急に浮き彫りになってきたのだろう。こんなとき、私はどうすればいいの!?
「お主はたしかに人間だ。だが、この世界においてただの人間ではない。それは勇者とそこの娘にも一部言えることだが、お主はとりわけ特別だ」
「私が、特別?」
「そうだ。なぜなら、この世界は全てお主のために創ったものだからな。だが、ここで生きるお主を見ていたら、実に面白くなって、我の傍に置きたくなったのだ。そうなればここはもう必要ないだろう?」
創造神様は、本当にわけのわからないことばかり言う。私のために創った世界? 私を傍に置きたくなったから要らない世界を滅ぼす? そんな自分勝手理由、神様なら許されるの?
私の腹の底からぐつぐつと煮えたぎる怒りが込み上げてくる。創造神様といえど、これだけは許せない。
「そ、そんな理由で世界を滅ぼすのですか? そのために、私の大切な人たちを消し去ろうとするのですか? そんな理由なら、私は絶対にあなたとともには参りません!」
「行きたくないと?」
「創造神様! 俺らが転生者だから特別だって言いたいのならわかる。でも、ルーちゃんのための世界ってなんだ? この世界はゲームの世界じゃないのか!?」
ザッくんが一歩前に出る。私もこの世界は勇者伝説の世界だと思っていた。でも、ここが私のための世界だとしたら、この世界はなんなの?
「げーむ……そういえば、お主らも好きだったな。だが、そのげーむとやらの世界を創ったのはルーナが好んでいたからに過ぎない」
「でも、この子が好きなのは勇者伝説の方よ!? ここはどう考えても『オトデン』の世界じゃない!!」
今まで黙っていたサラちゃんがいきなり声を上げた。
オトデン? この世界は勇者伝説じゃないゲームの世界ってこと? それは、サラちゃんが言っていた「私が人を傷つけた」という言葉に関係がある?
「どうせ天界へ連れてゆくのだから、まあいいだろう。ルーナ……いや、聖月、全てを思い出させてやろう。この世界の始まりを。そして、一度目の終わりを」
創造神様が言葉を言い終える前に、再び突風が吹き、私の身体が宙に浮く。
「っルナ!! 創造神といえども、ルナを奪うことは許さない! 絶対に取り戻す!!」
レオン様がそう叫び、浮かび上がった私の方へと駆けてくる。しかし、創造神様の放った風魔法によって一瞬にして吹き飛ばされ、壁に打ちつけられてしまう。
「レオン様!!」
私はたまらず叫んだけれど、風の中にいるので声は届かない。
「全てを教えてやると言っているのだ。大人しくそこで見ているがよい。……これで聖月もこの世界への未練を断ち切れるだろう」
創造神様が両手を上にあげる。なにかの呪文を唱えたその瞬間、目の前の景色が真っ暗になり、私の意識はぷっつりと途絶えた。
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