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RPG!!〜聖女になりたい転生令嬢〜  作者: こんぺい糖**
第四章 ゲームと現実、交錯する想い
29/47

Lv27 ▼わからない感情

「ねえ、あの方が今回の候補なのですってよ」


「この学園からお二方だけの選出なのでしょう? 不思議ですわよね。前回はもっとたくさんの候補者がいたと聞いていたのですが」


「あら、たしか今回は勇者様が現れたから、候補者の選考も厳しくなったと聞いていますわ」


 周囲からの好奇の目も、ざわざわとした校内の廊下を歩くことにももう慣れてしまった。隣を歩くザッくんは、そもそも周囲の目を気にしている様子がないので、多分大丈夫だろう。


「では、次期聖女様はこの学園から出るということになりますのね」


「今のうちに親しくするならルーナ様かしら」


「彼女は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者であられますのよ。聖女の地位を得なくても、いずれそれに匹敵する地位はもらえますわ。本気で目指しているのはサラさんだけなのではないですか?」


 最近、私とサラちゃんについての憶測がご令嬢たちの雑談の話題に上ることが多くなった。それもそのはず、聖女の代変わりの儀式である『聖女天授の儀』は来年行われる予定だ。それに先立って、年頃の少女たちの中から次期聖女が選出される。そしてその次期聖女候補者として選ばれたのが、初代聖女様と同じ珍しい光魔法が使えて、膨大な魔力量を秘めているサラちゃんと、同じく光魔法が使えてそこそこ教養やマナーの習得が済んでいる私なのだ。


 悔しいけれど、サラちゃんの魔力量は群を抜いているらしい。私も多い方ではあるみたいだけれど、異例の転入生として学園に迎え入れられる程のものではない。


 しかし、それで諦めてしまう私ではない。次期聖女として必要なのは、なにも魔力だけではない。その魔力を適切に生かせる知性と民に受け入れられるだけの慈悲深さ、彼らの指標となれる程の作法を身につけていなければいけないのだ。だから、今まで令嬢としての所作も魔法やその他の勉強も怠らずにやってきたのだ。まあ、なにより楽しかったというのが、続けられた大きな理由なんだよね。


 ここがRPGゲームの世界だとわかってから九年間。長いようで短い時間だったけれど、ゲームでは聖女に選ばれる過程は描かれていなかったので、『ゲームの知識で無双!』なんてできるはずもなく、地道にコツコツと努力を続けた毎日だったと思う。その情熱が異常だっただけで。


 それ以外は前世の記憶なんてない、他のご令嬢とそこまで変わらない日々を過ごしていたんじゃないかなあ。いや、ガモンさんとの授業の延長だったとしても、途中から『王太子妃教育』と名を変えたそれは、他の貴族のご令嬢達は受けていないのか。それならちょっと異質だったところもあるのかな。


 改めて私は恵まれた環境にいたのだと思い知らされた。


 そんなふうに今までのことを回顧しながら、自分が話題に上っているひそひそ話を聞き流して歩く。今から食堂に昼食を摂りに行くのだ。ザッくんは私の隣で、お腹をさすりながら「あー、お腹すいたあ」と嘆いている。最強の勇者だとうたわれるザッくんが、頼りなさげにしょぼくれているのが少しだけ面白い。


「今日は授業が少し長引いてしまいましたからねえ」


「だよなあ。まあ授業って言っても最近は俺とルーちゃんとサラの三人で特別授業ばっかりだけどな」


「次期聖女候補が二人とも学園内にいるわけですから、学園としても恥ずかしくないよう指導して下さっているのですよ。ザッくんも巻き込んでしまっていることは申し訳ないですけれど」


「いや、俺がいるってことは、魔王が復活しようとしていたってことだからな。もう倒したとはいえ、念には念を入れておいた方がいいんだろ。勇者と全く息の合わない聖女は戦闘には向かないからなあ」


「その点では私とサラちゃんはいい勝負ですよね!!」


「ルーちゃんのそういうところ、尊敬する」


 ザッくんが半眼で私を見る。うーん、褒められてはないみたいだね!? ザッくんとサラちゃんも息ぴったりなんだけれどなあ。


 半眼のままのザッくんに苦笑いをしてから、また私は思考の海に沈む。


 そうなんだよね。さっきザッくんが言っていた通り、今回の次期聖女選考は前回までとはわけが違う。魔王はザッくんが倒したにしても、『魔』の者たちの影響が出ないとは限らない。だから、教会側の選考者たちもより厳しく候補者を絞ったのだ。


『なにかが起こるだろう』という曖昧な言葉でしか表せないけれど、勇者の出現と魔王の出現は、復活前だったといえ、その根拠として十分な意味を持つ。聖女に求められることもさらに大きくなるはずだ。


 だからさらに筋トレにも力を入れているのだけれど。


 私は、数ヶ月前から全く変わる兆しのない自身の細い腕にふにふにと触る。私の身体に筋肉がつかない現象は今も全く解明されておらず、そもそも私が男装姿で筋トレをしていることがトップシークレットなので、専門家に頼ることもできない。そんな行き詰った状態で次期聖女候補の選考が始まってしまったので、この件は放置になってしまっていた。


 騎士団長のアルバートさんにも最近会えてないなあ。


 次期聖女の選考期間からは、周りの目も厳しくなるし、やらなければいけないことも多かったので、ルアとして動けなかったのだ。だからもっぱら部屋でこっそり自主練習に励むことしかできなかったのだけれど。成果を感じられないので、やった気にはなれなかった。


「……ちゃん。ルーちゃん?」


「は、はい!?」


「またなにか悩んでんなぁ?」


「いっ、いえいえザッくん! そんなことは」


 はっと顔を声のしたほうに向けると、やれやれと困ったように笑うザッくんの顔があった。


 考えごとに没頭しすぎて、心配させてしまったかな。


「あの、どうしたのですか?」


 心配させてしまったことを申し訳なく思いながら、私はザッくんに訊き返す。


「いや、食堂の奥にレオが見えたから。ルーちゃんと声掛けに行こうかなあと思ってな」


「あっレオン様、ですか」


「ルーちゃん、嫌なら無理にとは」


 ザッくんが慌ててそう言い直してくれる。


「嫌なわけではないのです。ですが、次期聖女候補のひとりが王族と懇意にしている様子を見せるのは誤解を生みそうで。ただでさえ婚約者という立場であるのに」


「あ、あーそうだよな。じゃあ今日は二人で食べるか」


「いえ、ザッくんはレオン様と食べてください。レオン様もザッくんが来てくれたら嬉しいと思いますよ!」


 私は努めて笑顔でザッくんにそう言った。レオン様とザッくんはなんだかんだ言って仲がいい。それが私のせいで会えなくなるのは不本意だ。


「そっか」


「はい! ぜひ行ってきてください」


 去っていくザッくんを見送りながら、私は心の中で幾度となく繰り返された懺悔を始めた。

 神様ごめんなさい。私は今だけで嘘をいくつもついてしまいました。


 ザッくんとレオン様の元へ行くことを断ったこと、そしてその理由。全て私の本意ではありません。本当は私もレオン様とお話したいし、みんなで楽しくご飯が食べたいのです。しかし、最近レオン様を見ると胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような感覚に陥って辛くなってしまうのです。特に最近に至っては――。


「ルナっ!!」


「!? あ! レオン様……」


 なんだか久しぶりに聞く気がする、優しくて心地のいい声で自分の愛称が呼ばれ、浮き足立った私は思わず振り返ってしまい、即座に後悔した。


「待ってください! レオン様あ」


「サラ嬢」


 ――最近に至っては、お友達のサラちゃんとレオン様が一緒にいるところを見ると、彼が優しくそのお友達の名前を呼ぶと、泣きたくなるくらいに切なくなって、同時に、お友達に抱いてはいけない黒い感情が溢れてきてしまいそうなのです。


 神様、私は聖女にあるまじき感情を持ってしまっているのでしょうか?

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