Lv24 ▼メッセージカード
帰宅後、すぐにレオン様に手紙を書くと、翌日の昼頃にはもう返事が届いた。
忙しいのだから、そんなに急いでくれなくてもよかったのに。
レオン様の神対応に、そんなに気を遣って大丈夫なのだろうかと少し心配になったけれど、私のために急いで返事をくれたことは純粋に嬉しかった。
「お嬢様、こちらが王太子殿下からのお手紙になります」
「ありがとうございます、ロル」
ロルさんが笑顔で持ってきてくれたそれは、私が送った手紙よりも厚みがあった。
あれ? 私の手紙、そんなに深い内容じゃなかったよね? この封筒、三倍くらいの厚さがある気がするんだけれど。
私は若干引きつつも、ペーパーナイフで封を開けた。
「わあっ!!」
封筒の中身は二つあった。一つは、レオン様からの手紙。もう一つは、繊細な装飾が施されたメッセージカードだった。
「素敵なカード! よかったですね、お嬢様!」
アンさんは嬉しそうに微笑んだ。私も釣られて口角を上げたが、はたと思い直す。
手紙があるのにメッセージカードを送るのはどうして?
手紙の中に答えがあるかもしれないと、レオン様の手紙を開くと、そこには丁寧な字でこう書かれていた。
『久しぶり。最近はなかなか会う時間をつくれなくて申し訳ない。ルナはすぐ無理をするから、本当は僕も君の傍にいたいのだけれどね。また無茶な鍛錬をしていないか? 頑張る君も好きだが、少しは護られることにも慣れてくれたら嬉しい。僕の代わりと言ってはなんだけれど、建国の王をモチーフにしたカードを見つけたから同封するよ。君が好きな聖女様も描かれていてとても綺麗な作品だったから、ルナにも気に入ってもらえると思うな。君の友人に会う時間は明日の昼休みならつくれるよ。昼食をとる時間は減ってしまうが、それでもよければサロンを借りておくから友人を連れてきてくれ。
――レオン』
い、意外と長文だったなあ。でも、私のことを心配してくれていることは嬉しいな。筋トレは続けるけどね!
そんなことを考えた後、私は先程テーブルに置いたメッセージカードに目を落とす。
精巧な金の細工が表に施された、美しすぎるメッセージカード。中を開くと、そこには文字ではなく、可愛らしく鮮やかに描かれた勇者と聖女が飛び出してきた。まるで飛び出す絵本のように。絵本にしては精巧すぎるけれど。剣を持つ勇者と杖から光魔法を出している聖女。二人は前を見据え、最大の敵に挑もうとしていることがうかがえる。多分、これは魔王との戦いの場面だ。細かい切り絵で二人の背景が表現されており、本当に見ていて飽きない。絵は可愛らしいので子供向けのものかと思ったが、それにしては細かいところの造形まで凝っている。一流の職人が丁寧に仕上げた作品なのだろう。
これはもはやメッセージカードではなく、芸術作品だ。そして聖女様が神々しい。大切に飾って眺めよう。
レオン様の思いがけないプレゼントは、私の一番の宝物になった。忙しいだろうに、こんなに気の利いたプレゼントまでくれるなんて、レオン様はやっぱり気遣いのプロなのだろうか。すごく嬉しいけれど、やっぱり少し心配になる。レオン様、気を遣いすぎて疲れてないといいなあ。
それでももらったカードは本当に嬉しかったから、レオン様にも今度なにかプレゼントしよう。疲れがとれるようなもの、あるかな? この世界にプロテインがあればよかったのになあ。って、いやいや。仮にも婚約者なんだから、もっと可愛らしいものを送ろうよ!? リラックスできる香りとか?
私が独り言を呟いていると、アンさんがとてもいい笑顔で私の顔を覗き込んだ。
「お嬢様、昨夜はなにか思い悩んでいるご様子でしたので、笑顔になってくださって私はとても嬉しいです」
「思い悩む?」
なにか悩んでいたっけ。ゲームには囚われないと決めて、むしろスッキリしているはずなのに。うーん、でも、昨日から胸の辺りがもやもやする感覚はあったかな。あ、今はそれがない。むしろ少し清々しいくらいだ。
ふとアンさんの瞳に映る私を見ると、とても気の抜けた笑顔があった。
「お嬢様は殿下に大切にされているのですね」
「はい。そうですね」
私がなにに悩んでいたのかは、覚えていないからもうわからないけれど、レオン様のおかげでその悩みが吹っ飛んでしまったのは事実だと思う。レオン様は私のことも大切にしてくれる。本当にいい婚約者をもったなあ。初対面のときは面倒くさいとさえ思っていたのに、今はありがたいとさえ思うだなんて。七歳の私に言ったらどんな反応が返ってくるのだろう。
教えてあげたいな、なんて思いながら私はアンさんに便箋を持ってきてもらうように頼んだ。レオン様とサラちゃんに明日のことを連絡しなくてはならない。レオン様には明日会うけれど、お礼の手紙も書いておきたいし。
サラちゃんはたしか、学園指定の寮に入っているんだよね。今すぐ手紙を送れば、今日の夕方頃には届くかな。今日は休日だから、夕方にはサラちゃんも寮にいるよね。
うん、急いで二人に手紙を書こう。
私は急いでペンをとると、まずはレオン様にメッセージカードのお礼と、承知した旨を記した手紙を送った。その後、サラちゃんに明日の昼休みにレオン様に会えることになったということを伝える手紙を。
本当は先にサラちゃんの予定を訊くべきなのだが、サラちゃんはなるべく早くレオン様に会いたいようだったから、多分大丈夫だろう。もしサラちゃんに急用が入るようだったら、私だけ行ってきちんと謝るし、責任もとる。よし、これで大丈夫。
「アン、これをロルに頼んで、それぞれ王宮と学園の寮まで届けてくれますか」
「はい。かしこまりました」
アンさんはすぐに二つの封筒を受け取り、部屋を出ていった。
私は久しぶりに手紙というものを書いたので少し疲れてしまい、ソファにごろんと横になった。貴族令嬢にはあるまじき行動だけれど、今は一人だし、たまにはいいよね。
横になって、レオン様がくれたメッセージカードをもう一度開いた。相変わらず、そこには勇者と聖女の姿がある。ここには魔王は描かれていないので、可愛らしいカードに仕上がっている。
「ふふ、えへへ」
何度も何度もカードを開いたり閉じたりして、私は気の抜けた笑い声をもらした。
本当に素敵なカード。けれども多分、それだけではない。
『君の好きな聖女様も描かれていて』
最近は筋トレばかりしていたから、レオン様に脳筋令嬢だと思われている気がしていたけれど、私がかつて好きだと言ったものをまだ覚えていてくれていたんだ。
そのことがなぜだかとても嬉しくて、くすぐったくて、私は胸の辺りがそわそわするような感覚になった。この頃、私の心臓は不思議な動きばかりするなあ。しかし、先日のような苦しさはなく、むしろ心地よいくらいなのでよしとしよう。
私はアンさんが戻ってくるまでの間、そっとカードを胸に抱いて、とくとくと脈打つ心臓を静かに感じていた。
明日レオン様に会ったら、口頭でもきちんとお礼を言おう。せっかく久しぶりに得られた機会なのだから、私もレオン様と少しだけでも話せたらいいなあ。
しんと静まった部屋で自分の胸の音だけを聴きながら、私は温かい気持ちでそう心に決めた。
メッセージカードは、職人さんが遊び半分から本気になっちゃってできた産物です。




