Lv23 ▼囚われないように
「ザッくん、サラちゃん。お尋ねしたいことがあるのですが」
いつものお昼休み、ご飯を食べようと誘いに来てくれたザッくんと、たまたま廊下で見つけたサラちゃんを半ば強引に連れ出して、私は本題を切り出した。
ちなみにいつも一緒にお昼ご飯を食べているレオン様は、最近忙しくなったそうでまともに会えていない。すれ違ったときに挨拶くらいはしているけれど。
レオン様の話は置いといて。
私の顔が緊張であまりにも強ばっていたのか、ザッくんは私の頬に手を伸ばし、むにむにと優しくほぐしながら、にかりと笑った。
「どうしたルーちゃん? そんなに緊張しなくても俺たちの仲だろ。なんでも言ってくれよ」
「はひはほうほはいはふ……」
「なんて?」
ありがとうございます、と言いたかったのだが、ザッくんに頬を揉まれているため、上手く声が出せない。私は腕をバタバタ振ってザッくんに抵抗し、なんとか手を離してもらうことに成功した。
「ぷはあ! ありがとうございますって言いたかったんです」
「あはっ、でもそれはありがとうの表情ではねえな」
半眼になってザッくんを見る私に、ザッくんは快活な笑顔を浮かべた。
「ちょっと! いきなり拉致しておいて、なあに、いちゃついてんのよっ!!」
「あ。すみません、サラちゃん」
私たちが戯れている間、サラちゃんを放置してしまっていた。いきなり連れてきたのになんの説明もなく放っておかれたら、いい気はしないよね。
申し訳ない気持ちで謝る私に、サラちゃんは「こっちはそれどころじゃないのに」と独りごちた。
「で、訊きたいことってなんなんだ?」
ザッくんが話を振ってくれたので、私は本題に入る。
「ゲームの強制力って、感じたことがありますか?」
「ああ、その話かあ」
以前、途中まで話していたザッくんは困ったような笑顔で話の内容を察してくれた。
サラちゃんはどうだろう。私がそちらを見やると、彼女はワナワナと震えていた。
「え、えーと。サラちゃん?」
恐る恐るそう声をかけると、サラちゃんは、ダンッ! と拳を座っていたベンチに叩きつけてからゆらりと立ち上がった。
「ゲームの強制力ですってえ?」
「はっ、はい!」
「ゲームの強制力なんてねえ」
サラちゃんは私の方にいきなり顔を向けると、目を見開いて叫んだ。
「シナリオ通りに進まなさすぎて、そんなものがあるんだったらほしいくらいよっ!!」
「おお、こええ」
サラちゃんは一息で言い終わると、肩でゼーハーと息を整えながら、言葉を続けた。
「なんっで、転入してからだいぶ経つのにレオン様と出会えないのよっ! 私はシナリオ通りに行動しているはずなのにっ!!」
「レオン様?」
サラちゃんの口からとび出た予想外の名前に、私は目を丸くした。
なんでサラちゃんがレオン様を? たしかにこの国の王子様だし、学園でも有名人だけれど普通に廊下を歩いているだけでも見かけるよね?
私がその旨をサラちゃんに伝えると「私は違うのよっ!」と、また怒らせてしまった。
「廊下で見かけるだなんてありきたりなものじゃなくて、もっとお互いが意識するような、運命的な出会いがあるのよっ!! なのにあなたがっ!」
「はーい、そこまで」
なにかを言いかけたサラちゃんの口を、ザッくんは背中に回り込むようにしてやんわりと押さえる。サラちゃんはジタバタと暴れて抵抗したが、現役の勇者であるザッくんに勝てるはずもなく、観念したように俯いた。
ザッくん、意外とサラちゃんには容赦ないよね。私のときはすぐ解放してくれたのに。
「お前はゲームに囚われすぎだ。まあ気持ちはわかんなくもねえが、もっと気楽に生きろよ」
「なっ、だって!!」
「ゲームに囚われている、ですか」
ザッくんがサラちゃんに向けた言葉に、私が納得してしまった。サラちゃんは反論したいことがあるのか、キッとザッくんを睨んでいる。サラちゃんみたいな可愛い系美少女が睨んでも怖くないって本当だったんだなあ。
「ルーちゃん?」
予想外のところからの返答だったのか、ザッくんが少し眉尻を下げて私を見る。
サラちゃんとザッくんが、私の知らない話をしているということは、なんとなくわかった。だから、ザッくんの言う「ゲームに囚われている」という言葉が、私の考えるそれと違うところを指しているのだというのも理解できる。そういうことだから、ザッくんは私が納得した表情を浮かべていることが不思議なのだろう。
たしかに、ザッくんの言いたいこととは違うのかもしれない。でも、私も「ゲームに囚われている」一人だ。聖女になりたいと、ゲームのストーリーに関わろうとしている時点で十分囚われていると言える。
ゲームの強制力うんぬんについての解決策を訊きに来たのだけれど、その前に私は『勇者伝説』に固執するのをやめた方がいいのかもしれない。この世界はゲームであり、私の現実でもある。だからと言ってそこにばかり意識を向けてしまってはだめだ。だって、どうしてもゲームのシナリオが気になってしまうから。昨日は大切な人たちを護りたい気持ちが勝って突っ走りすぎたかも。
ありがたいことに、アンさんやザッくんたちのおかげで私はいくつも大切なことに気付かされている。自分の浅はかで単純な思考回路には少し悲しくなるけれど。
「ザッくん。私もゲームに囚われすぎていたようです。だから、ゲームの中の聖女様ではなく、私なりの聖女様を目指そうと思います」
「ん。よくわかんねえけど、ルーちゃんが元気になったみたいでなによりだ」
「え、元気、なさそうでしたか?」
「いや、なんというか空元気ってやつ?」
ザッくんの思わぬ指摘に私は面食らった。まさか、ザッくんにはそんなふうに見えていたなんて。ということは、多分アンさんたちにもそこを含めて心配されていたんだろうな。
「そう、ですね。ゲームの強制力に悩んでいたのもそうですし、最近全然レオン様に会えていなかったので」
そこまで言って、はたと思い直した。あれ、なんでここでレオン様? たしかに一緒にいた時間は長いけれど、レオン様が学園に通い始めた頃なんてほとんど会っていなかったよね。今更私はなにを考えているんだろう。
「ああー! そうよ、それよっ!!」
私が首を傾げていると、サラちゃんが急に大声を上げた。今日のサラちゃんのテンション、大丈夫かな。
「それ、とはいったいなんなのですか?」
私がサラちゃんにそう訊くと、サラちゃんはいいことを思いついたと言わんばかりのドヤ顔で答えた。
「もちろん、あなたが私とレオン様を引き合わせればいいのよっ!」
「な、なぜです?」
「なぜって、それは私がヒロ……」
「ルーちゃんの婚約者をまだ紹介してもらっていないのが嫌なんだってさ!」
「なるほど!」
たしかに、お友達には自分の婚約者を紹介するべきなのかもしれない。今までレオン様とのことを伝えられるようなお友達がいなかったから、そこまで思い至らなかった。ザッくんは例外だけれど。
「レオン様は最近お忙しそうなので、すぐにとは言えませんが。時間が取れ次第、訊いてみますね」
私のその言葉に、サラちゃんは本当に嬉しそうに笑い「できるだけ早くしなさいよっ」とだけ言うと、スキップをしながら去っていってしまった。
本題についてほとんど話せてないんだよねえ。まあいいか! 私はゲームに囚われないようにしないといけないのだから。
「ルーちゃん、俺たちもご飯を食べよう」
ザッくんにそう言われて、私たちは食堂へと向かう。
うん、サラちゃんは可愛いし、ちょっと毒舌だけれど面白い子だからきっとレオン様とも仲良くなれるよね。レオン様も、私と初めて会ったとき「面白い子だね」と言っていたから、サラちゃんのこともきっと気に入るはず。
帰ったらすぐにレオン様宛に手紙を書こう。紹介するだけだから、少しだけお時間をいただけませんかって。ロルさんに頼めばすぐに届けてくれるだろう。
問題はなにもない、はずなのに。どうしようもなく、胸がざわついて不安になっている私がいた。
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