青年たちの密談
今回は前話のザック目線です。
「私がどうかしたのですか、勇者ザック・エルドル殿?」
それは、俺の親友こと公爵令嬢ルーちゃんと、サラという面倒くさい女と一緒にいたときのことだった。
俺の発言に応えたのは、この国の最高権力者に一番近い人物。レオン王太子その人だった。
いつも爽やかすぎるほどの笑顔を浮かべ、周囲の女の子たちを救護室送りにしているというのに、今日の王太子殿下の背からはどす黒いオーラが見える。
多分、俺のさっきの言葉が原因だ。さっきとは、俺がルーちゃんに「好き」だと言ったところ。
王太子殿下の婚約者であるルーちゃんに、友愛の意だとはいえ、「好き」だなんて誤解を招く表現を使ったことが悪かったのだろう。俺にはよくわからないが、王族や貴族はそういった体裁も重視しているようだ。
ルーちゃんは俺と同じ転生者だから、庶民の感覚もわかってくれそうだが、根っからの王子様には理解できないだろうな。
いつもならお偉いさんのことなんて気にせず放っておくのだが、今回だけは命に関わる気がする。俺の第六感がそう警鐘を鳴らしていた。
それほど王太子の纏うオーラは禍々しく、輝くような金糸の髪には縁遠いもののように感じられた。いや、まじで怖い。あのとき倒した魔王なんか比じゃないくらいに怖い。
「あ、え、えーっと」
なにか言い訳をしようと口を開くが、出てくるのは言葉にもなっていないようなものばかりだ。
隣のルーちゃんに助けを求めようと目をやるが、ルーちゃんは事態が把握できていないようで、なぜ王太子が怒っているのかさえわからない様子だ。まあ、ルーちゃんも元日本人だし、まだ貴族の感覚には慣れていないのだろう。
仕方がないので、俺の首を賭けて王太子に仕掛けることにした。一つ間違えればすぐに首が落ちるが、運がよければ俺の首は身体から離れずに済む。
「な、なあ! ちょっと話をしようぜ、殿下!?」
こうなったら直談判だ。ルーちゃんとの仲を誤解させようなんて意図はなかったのだと、真正面から伝えるしかない。というか、俺は前世から小難しいことは苦手なタイプだった。上手な嘘をつくなんてそもそも無理だ。
ルーちゃんから距離を取り、王太子にだけ聞こえる声で話し始める。事情を知らないルーちゃんにわざわざ教える話ではない。
王太子もそれは望んでいないのか、俺のそばに寄って耳を傾けた。
「あのな、殿下。さっきのは誤解で」
「君は、ルナとどういう関係なんだ?」
俺の声にかぶせるように、小声だが怒気が伝わる声音で王太子は質問を投げかけた。
「え?」
「聞こえなかったのか? 君はルナのことをどう思っているのかと訊いている」
いや、うん。言葉の意味はわかるんだが、まさかその質問が来るとは思っていなかったんだよなあ。だから思わず間抜けな声を出してしまった。
「ルーちゃんは俺の友達だよ」
「と、友達? 本当にそれだけか?」
「うん、友達。あっ、俺いちおう勇者の肩書きはあるから貴族と仲良くしても大丈夫なんだろ? 俺だって騎士団長にならなきゃいけないみたいだし」
そう、勇者としての功績をすでに上げてしまった俺は、次の騎士団長になるべく学園に通っている。騎士団長になるにあたって、なにかしらの爵位はもらうはずだから、ルーちゃんと仲良くしても問題はないはずだ。
「いや、私はてっきり……すまない。なにか誤解があったようだ」
王太子はどす黒いオーラを仕舞って、気まずそうに謝罪した。
「まあ、わかってくれるならいいよ……あ」
じゃあなんで王太子は怒っていたのか、わけもわからず謝罪を受け入れていた俺だったが、やがてひとつの結論にたどり着いた。
「殿下、ルーちゃんに惚れているんだな?」
「なっ!? なぜそれを!」
王太子はわかりやすくうろたえたが、よくよく考えれば簡単な話だ。好きな子であるルーちゃんの周りに別の男がいて、そいつと仲良く話して、挙句の果てには「好き」だと言い合う始末。そりゃあ嫉妬するし、確かめたくもなるだろう。
「大丈夫だよ。俺、ルーちゃんのことは大事な友達としか思ってないから。それ以上の感情はねえよ」
「そ、そうか」
王太子はほっと胸を撫で下ろす。その様子が、俺が知っているキラキラしい王子様のイメージとはかけ離れ過ぎていて、なんだか可笑しかった。
「あはっ! 殿下、実は好きな子にとことん弱いタイプなんだな! たしかにルーちゃんはその手のことに鈍そうだ。でも、早くしないと他の男にかっさらわれるぞ?」
「よっ、余計なお世話だ!!」
王太子は心底嫌そうに顔を歪めた。しかし、いつもの王子様スマイルなんかより、よっぽど人間らしくて、俺はその顔に好感が持てた。
「殿下もルーちゃんに好きだって伝えてみればいいじゃん」
「そっ、そんな大事なことはもっときちんとした場で……」
「度胸がねえなあ!」
「君はさっきからすこぶる失礼だな?」
「まあいいじゃんか!」
「全然良くないのだが」
二人で軽口を叩き合いながら、この話は終わりだと言わんばかりにルーちゃんの元へ歩き出す。
「ルーちゃん! お待たせ!! そろそろ教室に行こう。間に合わなくなったら大変だ!」
俺がルーちゃんの元へ駆け寄ろうとすると、王太子に頭を叩かれた。
「いてっ!」
俺はそう言って、仕返しにと王太子のことを小突く。それを見ていたのであろう、ルーちゃんはひどく驚いたような顔をしていたのがまた面白かった。こいつ、好きな子の前でも王子様してるのか。面倒なやつに好かれているなあ、ルーちゃん。
「ルナ、待たせてしまってごめんね。先に戻っていても良かったのに」
王太子がルーちゃんに申し訳なさげに声をかける。
「レオン様はザッくんのこと……」
ルーちゃんが俺の話題を持ち出したので、慌ててその場から退散した。多分、俺にはあまり聞かれたくない話なんだろう。
もうすぐ予鈴が鳴るが、あの王太子のことだ、涼しい顔でルーちゃんを教室まで送っていくことだろう。
「俺も真面目に授業受けるかなあ」
そう呟いて、俺は教室へと向かった。
面倒くさいやつだが王族にも面白い人間がいるんだなあ、なんて考えながら。
ルーちゃんがあいつを選ぶかどうかはわからないが、俺はいつまでもルーちゃんの味方でいようと思う。まあ多分、あいつはルーちゃんのことはとことん大切にするんだろうな。
リーンゴーン、リーンゴーン。
「あ、やべっ! 予鈴鳴った!」
鐘の音に焦り、急いで教室にたどりついたとき、まさか息を切らしたルーちゃんが扉の前に立っているとは思わず、さすがに面食らってしまったのはここだけの話にしておこう。
なんだかんだ、ザック・エルドルとしての今世は楽しくなりそうだ。
お読みいただきありがとうございます!!
先日投稿した前話も、たくさんの方が読んでくださったようでとても嬉しいです!
コメント、評価等もありがとうございます!コメントは遅くなっておりますが、返信させていただいております!!私の大きな励みになっておりますので…いつも本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願い致します!!




