Lv20 ▼友情が…芽生えた?
サラさんがなんで私のことをこんなにも知っているのかについては、ひとまず保留にしておこう。もしかしたら、私の知らない勇者伝説に関するなにかを、彼女は知っているのかもしれないし。もちろん、ザッくんも転生者だから例外ではないけれど。
きっと無理やり聞いても濁されちゃうだろうから、教えてくれるまで待とう。大丈夫、聖女天授の儀までは、まだ一年もあるのだから。このゲームの知識は私にも多少ある。今は新しいお友達との出会いを喜ぶことが最優先だよね!
「サラさん。いえ、サラちゃん! お友達兼ライバルとして、これから仲良くしていただけますか?」
「は、はあ? もう! あなたってば、予想外すぎるわ! 私がよろしくするのはライバルとしてだけだからね!? あなたは私の踏み台なの。覚えておいて、ルーナ!」
「はい! ゆくゆくはお友達にもなりましょうね!!」
私がそう言うと、サラちゃんは綺麗なストロベリーブロンドを指でくるくると弄びながら、顔を赤くしたり青くしたりと複雑な表情を浮かべてため息をついた。
「俺、ルーちゃんのそういうとこ好きー」
ザッくんはへにゃりと表情を和らげてそう言ってくれた。私もザッくんのそういうストレートなところ好きだよ。
「えへへ、私もですー」
二人の間にほのぼのとした空気が流れる。さっきの殺伐とした空気が薄れてよかったあ。サラちゃんは十面相をしているけれど、前みたいに怒ってはいなさそうだしね。
「あ、授業開始まであともう少しありますねえ。どうしましょうか、ザッくん」
「そうだねえ」
「え!? 嘘っ! もうすぐで最初のイベントの時間じゃない!?」
私とザッくんが何気なくそう言うと、サラちゃんは十面相をやめて、なにやら大急ぎで髪を整えながら中庭を後にした。
急にどうしたんだろう、サラちゃん。
「イベント……まさか王太子……っ!」
「私がどうかしたのですか、勇者ザック・エルドル殿?」
背後からものすごい圧を感じ、恐る恐る振り返ると、にっこりと笑ったレオン様がそこにはいた。
そっ、外面スマイルだあ。レオン様はかなり怒っているよ! 理由はわからないけれど。
「私のルナとこんな時間までなにをしている?」
「あ、え、えーっと」
いつもはなにがあっても我が道を行くザッくんも、今回ばかりは言葉に詰まっている。しかし、無情にもレオン様は黒い笑顔のままザッくんを中庭の隅まで追い詰めていった。
「な、なあ! ちょっと話をしようぜ、殿下!?」
ザッくんが叫び声を上げて初めて、レオン様はぴたりと止まり、「いいだろう」と言うと中庭の隅でこそこそとなにやら話し始めた。そして一人取り残される私。
うーん、なんの話をしているのだろう。気になるなあ。でも、男同士の積もる話ってやつなんだろうしなあ。
暇つぶしして待っていようかな。
私は、これから公爵家に導入しようと思っている、高タンパクメニューを考えることにした。
「鶏ササミに似たものなら、この前厨房に遊びに行ったときにあることが確認できたから、あとは野菜かな。でもこの世界に鉄分だとかビタミンだとかの概念はないだろうし、プロテインとか、ないだろうな。あ、騎士団長さんに何か筋肉増強にいいものがないか今度訊いてみよう! それから」
一人でぶつぶつ呟きながら、考え込んでいると、
「ルーちゃん、お待たせ! そろそろ教室に行こう。間に合わなくなったら大変だ!」
ザッくんがぶんぶんと手を振りながら駆けてくるのが見えた。レオン様がそんなザッくんの頭を叩き、その後涼しい顔をして隣を歩いている。ザッくんは「いてっ!」と言ってレオン様を小突いていた。
ん!? 小突いていた!?
どうしたのザッくん!? 不敬どころじゃないよ!! 場合によっては首刎ねものだよ、これ!
慌ててレオン様をうかがい見ると、彼はかなり嫌そうな顔はしていた。が、あの作り笑いは貼り付いていなかった──ということは、レオン様はザッくんに素を見せているということになる。腐れ縁の私にさえもほとんど嫌な顔は見せないというのに。
な、仲良くなったのかな?
「ルナ、待たせてしまってごめんね。先に戻っていても良かったのに」
レオン様は私の元へ歩いてくると、先程のしかめ面から、申し訳なさそうな顔になった。
「……レオン様はザッくんのこと、お嫌いなのですか?」
ふと口からこぼれた言葉に、私は戸惑ってしまった。普通は「好きですか?」って訊くところなのに、なぜ私はあえて嫌いなのかと訊いてしまったのだろう。昨日から、胸の奥のもやもやが消えない。
うーん、疲れが溜まっているのかなあ。
「嫌い、ではないよ。たしかに少し苦手なタイプだけれど、悪い人間ではないようだからね」
「そうなのです! ザッくんはとてもいい方なのですよ!」
レオン様の発言に、先程のもやもやとした気持ちは吹き飛んでしまった。
よかったあ!! レオン様もザッくんの誤解を解いてくれたみたい。これから少しずつでも仲良くなってくれたらいいな。将来的にも、大好きなお友達と家族ぐるみの付き合いはしたいもんね! そこはぜひとも婚約者であるレオン様には理解していただきたい。
「ザッくんとは将来、家族ぐるみでお付き合いしたいと思っていたので、レオン様にもわかっていただけてとても嬉しいです!」
私が思ったままのことを素直に伝えると、なぜかレオン様はピシリと固まって動かなくなってしまった。
「レオン様?」
「か、家族ぐるみ……そうか、うん。家族、になるのか……」
レオン様はなにやら一人で呟いていたかと思えば、今度はとても眩しい王子様スマイルになり、流れるような動作で私の手を取った。
「彼、ザックくんとは、家族ぐるみの末永い付き合いができるといいね」
「は、はい! そうですね?」
条件反射でつい返事をしたけれど、今日のレオン様はなんだかよくわからないなあ。怒ったかと思えば、ザッくんに素を見せたり、急に機嫌がよくなったり。
まあ、いいか! みんなが楽しそうなら問題なし!
私もサラちゃんと仲良くなれそうだし、ザッくんには好きって言ってもらえたし、理由はどうであれレオン様はザッくんを認めてくれたし!
わあ、今日はいいことがたくさんあった! これは早く帰って、アンさんにも教えなければ!
って、あれ? なにか大切なことを忘れているような。
リーンゴーン、リーンゴーン。
「「ああっ!!」」
私とレオン様は同時に声を上げた。
しまった。帰るどころか、まだ授業は始まってすらいなかったんだった!
「ルナ! とにかく走るぞっ!」
「は、はい!」
王太子殿下と公爵令嬢が慌てて走っているところなんて、他の貴族の子たちが見たら卒倒することだろう。最高権威に最も近しい者とその婚約者が遅刻だなんて、民のお手本になるどころか、とんだ醜聞だ。
だけれど、なんだかこんな風に友達と騒ぎながら過ごすことが初めてのように感じられて、ちょっと楽しいとさえ思っている私がいた。
「れ、レオ……ンさっ! は、早い」
うん、もっと筋トレ頑張ろう。




