Lv17 ▼筋トレがしたいのです!!
「今日から君たちと一緒にべんきょーする、ザック・エルドルだ。よろしくな!!」
あの衝撃的な初対面から次の日。ザッくんは、私のクラスに転入してきた。
私は心底ほっとした。
なぜかというと、昨日の魔力属性判定で私が光属性だと判明してから、より注目を浴びるようになってしまったからだ。せっかくお友達をつくろうと意気込んでいたのに、昨日の一件のせいで、このままではぼっち一直線になってしまうところだった。
「ルーちゃんがいる!! よかった、同じクラスになれたな!」
ザッくんが私の席に駆け寄ってきて、にかりと笑う。
私もだよ、ザッくん! お友達との楽しいスクールライフが、やっと始まりそう!
*****
というわけで、クラスメイトに注目されながらも、ザッくんと話したり魔術の勉強に没頭したりで充実した時間を過ごしていたら、あっという間に休日になってしまった。
さて、学校生活が充実しているので忘れていたけれど、休日ってなにもすることないんだよね。王宮での授業は大幅に減らされている現状、私は暇をもて余してしまっていた。
うーん、どうしよう。最近はご無沙汰状態だし、今日は王宮に行ってみようかな。
レオン様ともしばらく会えてなかったし! よし、そうしよう!!
「アン、王宮に行きましょう!!」
「かしこまりましたお嬢様!」
そんな、ノリみたいな感じで決めた王宮行き。しかし到着してみると、レオン様は用事で外出しているそう。それにガモンさんも街に遊びに行っているみたいなので、お勉強もできない。じゃあ、どうしようかなあ……。暇を持て余しながら歩いていると、偶然通りかかった王家の執事さんが声をかけてくれた。
「ルーナ様、殿下が戻られるまで王宮の周辺を散策されてはいかがでしょうか? 今までは図書館か客室くらいしか利用されていないでしょう」
しかも、必要であれば手の空いている使用人さんも手配してくれるらしい。
執事さんナイス! たしかに、ほとんど毎日王宮に通っていたけれど、図書館以外の施設をしっかり見たことなかったよ。ちょっと興味あるし楽しみだな!
「では、王宮自慢の庭園にご案内しましょう」
愛想のよさそうな使用人さんに連れられ、私とアンさんは庭園に向かった。
今までは図書室に一直線に向かっていたから気がつかなかったけれど、王宮って色んな人が働いているんだねえ。文官や騎士の方々、使用人さんの数だって公爵邸のそれとは比べものにならない。みんな、とても忙しそうに行き交っている。
でも、そりゃそうか! こんなに広いんだもんね! なるほど納得!!
「さすが王宮……広さも人員の数も桁違いですね」
アンさんも同じように感じたらしく、使用人さんたちをじいっと眺めている。
「そうかもしれませんが、優秀さでいえば当家も劣りませんよ!」
アンさんに笑顔でハッキリ告げると、アンさんは瞳を潤ませながら「お嬢様あ」とだけ呟いた。本当に、初期のクールビューティー設定はどこにいっちゃったんだろうね。まあ、可愛いアンさんも大好きだけれど!
アンさんと仲良く話しながら進んでいくと、案内係の使用人さんがピタリと立ち止まり私たちの方を振り返った。
「どうぞ。こちらが庭園になります」
「わあ……」
そこには、神花であるリンカーナの花を中心にして、桃色や薄緑、黄色や橙、水色など、春らしい淡い色の花々が咲き乱れていた。リンカーナが日に透けて透明に輝くのに相まって、他の花々の美しさがより際立っている。木々の剪定も芸術の域だ。ひと目で、この庭園は世界一美しいのだと感じてしまった。
「すごいですね」
「ええ。ここは王妃様による直々の指揮の下、造られた庭園ですからね」
使用人さんが嬉しそうに語る。
ふうん、王妃様か。
レオン様との婚約発表の前に初めてお会いしたけれど、私をすごく可愛がってくれた。優しい人だったな。まあ、代わりに婚約発表パーティーの衣装決めの時間が予定の三倍くらいかかったんだよね。王妃様も着せ替えが大好きだったんだ、きっと。
「ぐわぁ!!」
「はあっ! おりゃあ!!」
きょろきょろしながら庭園内を散策していると、男の人たちの叫び声が聞こえたような気がした。恐る恐る庭園の奥へと進んでいく。開けた場所にたどり着いた。目を凝らして見ると、胴当てを着けた男の人たちが木剣を使って訓練をしている最中だった。
おお、これは騎士さんたちだね!? さらにその左側を見ると、そこでは――、
腹筋背筋スクワット。
腕立て伏せに、ダンベルを使ったトレーニング。
筋肉隆々の男たちが軽々とそのノルマを達成している。
なんと、筋トレのプロたちがそこにはおりました。
「あ、あんなに軽々と!! すごいです!」
私は興奮を隠しきれずに拳を振った。私も筋トレしたら、あの人たちみたいにムキムキになれるかな! ムキムキになれたらザッくんと旅に出ることになっても平気だよね!?
私は騎士さんたちのいるところへパタパタと駆け寄り、物陰に隠れて練習風景を見学した。まずは、遠目から筋トレの方法を見て学ぼうという魂胆だ。
ふむふむ。腕立て伏せをする際には、腕を肩幅より広げるんだね。それに、胸が地面につくくらい腕を曲げるんだ!!
見たものをこっそりメモに取っていると、後ろから「お嬢様ー!!」と声がした。アンさんたちを置いてきたのをすっかり忘れていた。心配かけたかな。
「アン! 私はこちらにいます」
アンさんに聞こえるギリギリの声で呼ぶと、アンさんは猛ダッシュでこちらまで走ってきた。お、おお。足速いんだね?
「お嬢様! 心配しましたよ!!」
明らかに、過保護に磨きがかかったアンさん。ぎゅっと抱きしめられたとき、先程まで訓練をしていたはずの騎士さんたちが近づいてくるのが見えた。あれ? なんで?
騎士さんたちの中には、見覚えのある顔がいくつかあった。あれは……あっ!! 課外授業で城下町に行ったとき、ついてきてくれた人たちだ!
顔見知りの騎士さんは私たちに、にこやかに声をかけてくれた。
「ルーナ様、ご無沙汰しております! 本日はどのようなご要件でいらしたのですか?」
騎士さんの一人がそう言うと、他の人たちはビシッと敬礼を決めた。
ほほう。今目の前にいある騎士さんが、この中で一番偉い人なんだろうな。そして騎士さんは、自分の名前をアルバートであると教えてくれた。
「その節はありがとうございました! 今日は、特に用事があるわけではないのです。庭園を拝見しているときに皆様の掛け声が聞こえたものですから、興味がわいてしまって」
そう答えると、アルバートさんはさらに笑みを深めた。
「左様でしたか。それなら、ルーナ様も我々の鍛錬を体験していかれてはどうですか? もちろん、負担にならない程度ですが」
「……っ! 本当ですか!! ではぜひ、そのトレーニングを……」
「だーめ! 君は、何回言えばわかるんだ」
瞳を輝かせて提案に乗ろうとしたところ、背後からの急な声に止められてしまった。
振り返る。そこには、レオン様が呆れ顔で立っていた。くっ! タイミングが悪かった!!
レオン様は私の手を優しく取り、撫でてくる。
「ねえ、君は私の婚約者なんだよね。愛しい婚約者殿は、私にその身を護らせてすらくれないのか?」
「その逆です。婚約者であるがゆえ、レオン様のお手を患わせてはなりません。だから私には鍛錬が必要なのです!!」
私は頑として譲らないという意志を示す。
レオン様の後ろにドラゴンが見えた。だとしたら私の後ろにはきっと、白蛇でもいるんだろうなあ。
両者、一歩も譲らぬまま。ただただ時間だけが過ぎていく。
「……はあ。とりあえず、いったん落ち着いてお話しましょう」
そう仲裁に入ったのはやはり、アンさんだった。
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