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RPG!!〜聖女になりたい転生令嬢〜  作者: こんぺい糖**
第二章 外の世界と少年少女
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Lv9 ▼お勉強をしよう

 翌日。私は内心、わっくわくで王宮へ向かった。


 レオン様から入城許可証をもらっていたので、『公爵令嬢が王宮の図書室に来ているよ』という体でなんなく入ることができた。いちおう、王太子の婚約者になるという話はまだ秘密だからね。


 付き添いのアンさんと王宮に入ると、すぐにガモンさんが笑顔で出迎えてくれた。小脇に何冊かの本と筆記具を抱えているけれど、あれが教材なのかな?


「では、参りましょうか」


 ガモンさんに案内されて、図書室に向かう。


 なんだか、前世での高校の移動教室を思い出すなあ。友達と一緒に移動したことなんてなかったけれど、アンさんとお話しながら歩いている今みたいな感じなのかな。


 あれ? 私、友達いなかったんだっけ?


 うーん、思い出せない。でも、花の女子高生なんだから何人かは友達だっているはずだよね。前世の記憶の大部分が欠落しているのって、未練がなくなるという意味ではいいけれど、少し寂しい。


 まあ、いっか! 今世が充実してれば!!


 今日から楽しいお勉強タイムだ!

 なんてくだらないことを考えているうちに、気づけば図書室に着いていた。


 どうやらここは王宮の中でも中枢部分にあるようだ。でもたしかに、資料とか色々置いてあるのは図書室だもん。たくさんの人にとって需要があるんだろうね。私がいることによって、王宮で働く皆さんの迷惑にはならないのだろうか。こういうところにレオン様の圧力を感じる。


 重厚な扉が開かれる。

 図書室に入ると、そこには信じられないような光景が広がっていた。


 人が、一人もいないんですけれど!


 バッと勢いよくガモンさんの方に振り返るが、ガモンさんは私がなにに焦っているのかわからないというふうに、すました顔をするだけ。


 え? 偶然人が少ない時間帯に私たちがここに来たっていうだけ? それなら全然問題ないけれど、私が来たことによって人払いがされているのなら大問題だよ!?


 もはや私はこの国の害だよ!? この国のために働く方々の害虫だよ!?


「あ、あの……王宮の図書室というのは、こんなに利用者が少ないものなのでしょうか」


 恐る恐る、遠回しにガモンさんに訊いてみる。


 するとガモンさんは、にっこりと笑ってこう言った。


「昨日、国王陛下から御触れが出ましてねえ。午後の時間帯は王宮図書館の利用は厳禁だと。でもまあ、大丈夫ですよ。ここの文官たちは有能ですからね、仕事は立ち入り禁止時間以前に終えているはずです」


 はああ、よかったあ……ん?

 いやいや全然よくないよね!? いくら文官の方々が有能だとしても、私がお邪魔になってることには変わりないもんね!?


 うわああ! 申し訳ないことをしてしまいました!


 私は目を白黒させながらうろたえた。だって、子供の興味本位の勉強のためだけにここまでされるとは思っていなかったんだもん!


 王太子の婚約者候補としての権力を甘く見すぎていたなあ。私自身はただの小娘でも、その後ろにある力ははかりしれないわけで。いけない。これからは、身の振り方にもっと気をつけないと。


 そんなふうにしょんぼりと肩を落としていると、アンさんが優しく手を取ってくれた。


「さしでがましいかもしれませんが、『迷惑をかけている』と考えるより、『与えてられたこの時間を有意義に使おう』と考えた方が官僚の方々も嬉しいのではないかと思います。お嬢様はお優しい方です。ですが、せっかく用意された最高の学び場を利用しないなんてもったいないですわ。大丈夫です、お嬢様なら素敵な淑女になれますよ」


「ルーナ様が聖女様に劣らないほどの淑女になれるよう、私どももサポートいたしますので、安心してお勉強なさってくださいませ」


 アンさんに続いて、ガモンさんまで励ましてくれる。不安がつのっていた私にとって、それらの言葉はとても温かく、嬉しいものだった。


「ありがとうございます! 私、精いっぱい頑張ります!!」


 胸の前で、両手の拳をぎゅっと握った。


 図書室はお静かに? でも! これが私の決意表明なんだよ! ……ごめんね! 静かにするね!!

 今度は声は抑えて、しかし、しっかりとした意志をもって二人に告げる。

 背筋を伸ばして、前を真っ直ぐに見据えて。


「あらためまして、これからご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。きっと聖女様のような素敵な淑女になってみせますわ」


 図書館の中が、シーンと静まりかえる。

 アンさんは泣きそうな顔で、ガモンさんは面食らったような顔をして、ただそこに立ち尽くすだけ。


 どうしよう。またやらかしちゃった? やっぱり七歳児はまだこんなこと言わないかな!?


 肝を冷やしていると、ガモンさんは、ふう、と大きく息を吐いた。


「素晴らしいお心構えです。私は少々ルーナ様を過小評価していたようですねえ。大変失礼しました。ルーナ様……いえ、フィーブル公爵令嬢様、私は全力であなたの力になってみせましょう。リンカーナの花を受け取るあなたを見る、その日まで」


 そう言ってガモンさんは、私の前に手を差し出した。先程までの驚いた顔とは裏腹に、とてもいい顔で笑っている。そして相変わらずアンさんはうるうるしている。


「ありがとうございます」


 私はひきつった顔を無理やり笑顔にして、ガモンさんに応えた。すでにさっきの感動も引っこんでいる。

 いや、だって、このおじいちゃん絶対なにか勘づいているよ! 握手といい、私への対応もさっきまでの子供相手のものから少し変わった気がするし。


 本気で聖女を目指しているのがばれちゃったのかなあ。

 うーん、悪い人ではなさそうだし頭もいいだろうから、色々見越して黙っていてくれるといいんだけれど。こればっかりは信じるしかないよね。私の家庭教師をしてくれる人だから、害にはならないだろうし。


「さあ、本日の授業を始めましょうかねえ。ルーナ様はこちらの椅子にお掛け下さい」


 ガモンさんに促されて、ふかふかの椅子に腰掛ける。うわあ、沈んじゃいそうだから浅く腰かけよう。


「それで、今日はなんの授業をされるのですか?」


「本日はまず、リルザント王国について学んでいただこうと思っています。ルーナ様の暮らすこの国のことを知ることは、きっと多様な面で役に立つでしょう

 ガモンさんは大きな本を私の前に置いた。ページをめくるのだけでも大変そうだ。


「これが今回から使う教材です。重いので、お付きの方が持ってさしあげて下さい……あれまあ」


「はいぃ……喜んでお持ちしますぅ」


「アン、まだ泣いていたのですか」


 アンさん、そろそろ泣きやもうね。

お読みいただきありがとうございます!

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