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暗夜航路(Dark waters) 3

「科学において独逸(私たち)は優越している。それは、あなたも実感しているでしょう?」

「ええ、それはもう……」


 実際、<宵月>に装備された無線機器や聴音装置、そして魔導機関の演算機などは独逸製で、いずれも高性能だった。ただし儀堂個人としては、手放しで歓迎する気に慣れなかった。


 彼ら日本海軍は自国製か米英から供給された機器に習熟していたためだった。それに如何に独逸といえども、全ての分野に優越しているわけではない。


 電子装置においては英国の方が優越しており、冶金技術においては今は無きソヴィエトロシアが優越していた。そして生産能力と品質管理において、合衆国が優越している。


 ここまで考えたときに、儀堂はあることに気がついた。


――日本(オレたち)は、いずれにおいても後塵を拝している……。


 唯一誇れるとしたら、艦船の建造能力くらいだろうか。ああそうだ。もう一つあった。大和魂というヤツだ。莫迦野郎。精神論だけで勝てるのならば、こんなクソ寒い北太平洋なんぞにいるものか。


 儀堂の感想をよそに、キルケは続けた。それは儀堂の考証を一部否定するものだった。


「唯一、我々があなた達に遅れて(・・・)いるのは魔導と呼ばれる分野よ。こればかりは系譜の無い我が国ではどうしようもならない。私の任務(・・)は、あなた達が扱う魔導という技術(テクノロギー)を持ち帰ることなの」


 六反田がリッテルハイムと交わした取引によるものだった。


 彼女の所属する秘跡調査機関『アーネンエルベ』は日本帝国の最重要機密、魔導機関へアクセスする代わりに、独逸の最新演算機の提供することになった。


 儀堂は唖然とした。この人は自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。あろうことか、自分が他国の技術を盗みに来たと告白しているのだ。


「わからないな。なぜ、オレにそこまで話すのですか?」

「だって、あなたはこの国を守るためじゃなくて、魔獣を殺すために戦っているでしょう?」

「……何を言っている?」

「もし、この国が魔獣との戦いを止めると言い出したら?」

「そんなことはあり得ない」

「そうかしら? この国だけじゃない。人類そのものが魔獣との戦いを放棄するかもしれない」

「何を根拠に……」

「あの子よ。あのネシスが何よりも根拠になるでしょう」

「それは……」


 どういう意味か尋ねるまでも無かった。


「そう、これまで私たちは獣との戦いだからこそ、必死になって来れた。だって話が通じない相手ですもの。戦うしか無いわ。でも、あの子の存在がこの戦争の前提そのものを覆すことになる。ねえ、もしあの子を送り込んだ奴らが講和を申し込んできたとき、果たして私たちはそのテーブルへ蹴ることができるのかしら?」

「オレ達は負けていない」


 詭弁だと自分でも気づいていた。


「ええ、でも勝ってもいない。いつ勝てるかもわからない。そうでしょう? この世界が奴らとの戦いを放棄したとき、果たしてあなたに居場所はあるのかしら?」

「君は何が言いたいのだ?」


 醒めた顔で儀堂は問いかけた。キルケは対照的に悪童のような笑みを浮かべた。


「誤解しないで、ギドー大尉。私は、あの獣どもを一匹残らず、この世から消し去りたいの。そのためなら何だってするつもり。私の頭脳、私の身体、私の血筋、全てを使い切るわ」


 キルケは儀堂へ歩み寄り、耳元に顔をよせた。


「あなたと私は同じなの。それだけは覚えておいて」


 独逸の令嬢は、それだけ囁くと<宵月>の艦内に消えていった。


=====================


 ようやく儀堂は艦長室へ戻ったとき、時計の針は22時を指していた。


「なっ!?」


 ドアを開けた直後、彼は思わず声を上げた。彼のベッドを不当に占拠されていた。

 儀堂の声に侵入者は目を覚ました。


「なんだ、遅いではないか」


 すねた声でネシスは言った。


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次回12/27投稿予定

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