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南雲機動部隊(Nagumo task force) 3

次回10/16(火)投稿予定

 南雲機動部隊は混乱の極致にあった。黒い球体から行われた全周囲攻撃により、全艦艇がどこかしら損害を負っている。一番酷いのは旗艦<赤城>だった。彼女は球体の直下にあって、第二次攻撃隊の発艦準備中だった。飛行甲板には燃料を満載した制空隊の零戦が列を成し、格納庫では九九式艦爆が25番(250キロ爆弾)を抱えて控えていた。


 まさに火薬を身籠もった状態だ。


 まず光弾の直撃を受けたのは、飛行甲板の零戦だった。日本海軍が誇る最新鋭機は、瞬時に炎上し飛行甲板は使用不能となった。そして消火の間もなく、炎は格納庫まで延焼した。応急班の対応は後手に回り、攻撃から約30分後、格納庫で大爆発が起きた。それでも彼女が沈まなかったのは、元は巡洋戦艦として建造されたからだった。強靱な船体構造を持つ<赤城>は爆発の衝撃によく耐えた。しかしながら、今や燃えさかる鉄の箱以外何ものでもなかった。


 初撃で戦闘不能となったのは<赤城>だけでは無かった。南雲機動部隊、その母艦戦力の半数が深刻な損害を受けた。空母<蒼龍>、<翔鶴>も同じく飛行甲板が炎上。残る<加賀>、<飛龍>、<瑞鶴>も奇跡的に光弾の直撃を(まぬが)れたが、退避行動中ですぐに反撃へ移れるわけではなかった。


 艦隊の中で、即座に対応したのは<比叡>と<霧島>だった。


 第三戦隊隷下にあった二隻は、三川戦隊司令の指揮で反攻を開始した。三川は<比叡>と<霧島>を回頭させると、直ちに全対空火器による射撃を命じた。やがて重巡洋艦の<利根>と<筑摩>が続き、他の駆逐艦もならった。


「空母の退避まで時間を稼ぐ」


 戦艦<比叡>の前部艦橋、その司令室で三川は目的を明快に告げた。敵戦力の詳細がわからぬ以上、現状は撃滅よりも味方の退避を支援すべきだった。このまま母艦戦力を潰されては第一次攻撃隊を収容できなくなる。


ホサ(砲術参謀)、あの黒玉を主砲で叩きたい。やれるか?」

「三式弾ならば可能と考えます」


 砲術参謀は明言した。三式弾は、主砲の弾頭内部に数百個の焼夷榴散弾が詰められた弾種だ。時限式の信管がセットされ、発射後に定められた時間が経過すると爆発四散する。いわば大砲から打ち出す特大の手りゅう弾をイメージすればよい。広範囲に対して損害を与えられる弾だ。狙いにくい空中目標には有効だった。


「ただトップ(前部艦橋)の射撃指揮所が主砲測距もろとも先ほどの攻撃でやられました。後部の射撃指揮所は生きていますが――」


 後部にいるのは新任の少尉だと砲術参謀は告げた。


「なんだと? 他に士官はおらんのか?」

「おりません。前部、後部ともにホチ(砲術長)以下が全滅です。幸いベテランの兵員が数名おりますので、機能に支障はないかと」


 三川は大きく息を吐くと、わかったとだけ返した。いないものを当てにしても仕方が無い。いるやつが当てになることを祈ろう。


「よし、やろう。ホサは後部指揮所との連絡を密にしてくれ。若いもんは何かと舞い上がる。艦長、あの玉と同航状態になるよう進路を維持してくれ。用意ができ次第、撃て」


 任せてくださいと<比叡>艦長の西田大佐は肯いた。球体は北へ進路を取ろうしていた。


 砲術参謀は後部射撃指揮所を呼びだした。さっそく例の少尉が電話口に出てきた。


「主砲を使う。何か異常があればすぐに知らせろ。それから――」


 気を張りすぎるなと砲術参謀は付け加えた。


宜候(ようそろう)。お気遣い有り難うございます』


 短い礼と共に電話は切られた。砲術参謀は不気味な印象を相手に抱いた。声が冷静すぎる。とても新任の少尉のそれとは思えなかった。


――浮き足立っているより、余程マシか。


 砲術参謀は好意的に自分の感情を解釈した。やがて<比叡>は主砲戦の用意を調えた。


 <比叡>の船体が球体と同一進路をとり、全砲門の旋回、球体へ照準を合わせた。西田は即断した。


「主砲、撃ち方始め!」


 抑揚の付いた声で命令が発せられた。未知の敵に対して、開戦以来初の主砲戦が開始される。


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