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獣の海 (Mare bestiarum) 45


【魔導駆逐艦 <宵月>】


 地中海は未だ夜の中にあった。仄かな月光に照らされる海面を、探照灯が切り裂いていく。


「見張り員は警戒を厳とせよ。どんな些細なことも見逃すな」


 副長の興津が艦外の見張り員に通達した。<宵月>は全神経―より正確には電探や聴音装置など観測機器―を全力で稼働させ、周辺を捜索している。


 敵を求めているのはもちろんだが、それ以上に取り残した魔導機関の主を見つけ出そうとしているのだった。


「こちら儀堂、魔導機関応答せよ」


「こちら魔導機関、御調です」


 御調少尉の声は、ややかすれていた。通信不調でノイズがかかっているわけではない。御調自身が不調なのだ。


 儀堂は少し間をおいてから、尋ねた。


「君は、どれくらい稼働できる?」



 魔導機関の冷たい筒の中で、御調は思わず口元をほころばせた。いかにも、この人らしい尋ね方だと思った。「大丈夫か」でもなく、「問題ないか」でもない。そんなことは、聞かなくとも儀堂にはわかりきっているのだ。


「もう一度潜れと言われれば可能です。しかし、その後の浮上の保証できません」


『わかった。一応聞くが、飛行は無理だな?』


「はい。それは私の命を費やしても無理でしょう」


『なるほど、それは困る。安心してくれ。君が<宵月>の操艦をすることはない。その代わり、目と耳を補ってほしい』


「ネシスを見つけるのですね」


『そうだ。できるかい?』


「やります」


『頼む。この広い海で奴の気配を探られるのは、君だけだ。何かあればすぐに知らせてくれ』


「了解」


 無線を切ると、御調は全神経を集中させ、魔導機関に接続した。すぐに自身の感覚が拡張され、<宵月>を取り巻く事象が、彼女の認識に入り込んできた。


 いまだに慣れない感覚だった。特別訓練で、初めて飛行艇に乗った時のことを御調は思い出した。多少の吐き気とともに、酒に酔ったかのような眩暈を覚える。気持ち悪さが数秒続いた後で、いきなり視界が広がっていく。


 御調が銀色の筒、マギアコアに入ったのは初めてではなかった。それどころか彼女は何度も彼女はマギアコアに入棺している。


 もともとマギアコアから始まる魔導機関は、人類側に合わせて設計したものだった。ハワイ沖海戦で回収したネシスのマギアコアを元に、月読機関が先導し模造したものだ。御調は、最初の被験者(テスター)だった。もしネシスが覚醒しなければ、今頃彼女が<宵月>の魔導管制を行っていたのかもしれない。


「こちら魔導機関、<宵月>と同調完了」


 <宵月>の周囲が、ほんのりと青白く輝きだした。


『よろしい。こちら艦橋、儀堂だ。海面下の状況知らせ。水測から異常音響の報告が来ている。きっとネシス(あいつ)が暴れまわっているのさ。位置を捉えてくれ』


「了解」


 御調は海底へ向けて、聞き耳を立てた。たしかに、歪な音がどこからともなく聞こえてくる。どの方向から来ているのか精確に測定できなかった。恐らく高速で動き回っているのだろう。


 御調は凡その方向を定めると、音源へ向けて目を凝らした。彼女の網膜には暗い海底の中で輝く、数千の小さな瞬きが映っていた。それらは地中海に生息する、海洋生物の生命の光だった。微弱な霊力を放っているのだ。


 御調はかつて身に着けた魔導機関の操作方法を思い出しながら、感度を調整した。海中のプランクトンから、大型の魚類まで一緒くたに霊力を見えてしまっているのだ。ある程度、フィルタリングしなければ、脳内で情報を処理しきれない。基本的に霊の存在を感知するときと同じやり方だった。自分が視たい対象を思い描き、当てはまらないものを除外していく。


 無数の光点が徐々に消えていき、やがて申し訳程度に月明かりが注がれた海中が現れた。


──もしネシスが戦っているのならば、きっと強烈な輝きを放っているはず……闘いが、あの鬼の心を満たしているとしたら。


 御調は憎悪や敵意の感情へ焦点を当て、フィルタリングを行った。すると、ぼんやりと紅い光が沈んでいくのが見えた。


──見えた……!


◇========◇

毎週月曜と木曜(不定期)投稿予定

ここまでご拝読有り難うございます。

弐進座


◇追伸◇

書籍化したく考えております。

実現のために応援いただけますと幸いです。

(弐進座と作品の寿命が延びます)

最新情報は弐進座のtwitter(@BinaryTheater)にてご確認ください。

よろしくお願いいたします。

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