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夜を駆ける戦い(The longest night) 19:終

 戸張機は、機銃掃射とともに群れのど真ん中を貫いた。至近距離で複数のワイバーンとすれ違い、陰嚢の引き締まる感覚を存分に味わう。


 <烈風>の特攻を受け、ワイバーンの群れは蜂の巣を突いたような騒ぎになった。その騒乱の波に、シロも巻き込まれ、一時的に群れから離された。


 群れを突っ切った後で、すかさず戸張はフラップで制動をかけて操縦桿を引きおこす。機首を起こし背面飛行から右旋回を行い、急激なGで血流が足元へ集中する。


「ったく、どこに行きやがった」


 天蓋から越しに視線を巡らし、散らばった群れの外周にいる白い点を見出した。


 シロはワイバーンと文字通りの格闘戦を行っていた。巴戦などではなく、自身の牙と爪を駆使した死闘だった。空中静止(ホバリング)状態で、突進と噛みつきを繰り返し、血しぶきが舞っていた。


 体格差はシロのほうがやや有利だったが、ワイバーンは二匹がかりだった。左右から挟み撃ちになりながらも、シロは獣の闘争本能をむき出しにしていた。


「手間をかけさせやがって。バテてんじゃねえか」


 典型的な戦闘処女だった。


 未だにシロの戦意は旺盛だったが、羽ばたきが鈍り、徐々に高度を落としているのが見て取れた。


「あーあ、なっちゃないないねえ」


 戸張は操縦桿を戻すと、苦戦する新米(ルーキー)に向かっていった。


「さぁて、教育その一だ」


 機体の速度を落とし、シロの左翼方向のワイバーンに照準を合わせる。トリガーに手をかけて数秒後、照準器の中央に敵獣が重なったところで、一秒だけ発射する。僅かの間に数十発の弾丸が両翼から放たれ、敵獣へ吸い込まれていった。


 全身に鉛玉を撃ち込まれたワイバーンは錐もみ状態で、落下した。


 戦果を確認した戸張は、イチかバチか天蓋を開いた。合成風力に顔を殴打されながらも、半ばやけっぱちにすれ違いざまのシロへ叫んだ。


「シロ!!」


 シロは答えるように鳴き声を上げたが、戸張はすでに天蓋を閉じていた。右翼側のワイバーンを始末すると、すぐにシロは聞き慣れた声を上げた<烈風>の後を追い始めた。


「よし、いい子だ」


 満足そうにうなずくと、戸張はさらに機体の速度を落とした。失速ぎりぎりまで<烈風>を保ち、ようやくシロが追いついてきた。


 並走態勢になったところで、再び戸張は天蓋を開いた。ゴーグルをとると、冷たい風が目元を吹き抜けていく。


 戸張の顔を見たシロは喉を鳴らしながら、近づいてきた。


「莫迦野郎! 近すぎる!」


 慌てて、戸張は機体を引き離した。不思議そうな顔をするシロに対して、戸張は眉間に皺を刻みながら言った。


「おい、小春が怒っていたぞ」


 小春の名前を聞くや、シロは弱弱しく鳴いた。そのように聞こえただけかもしれないが。この竜なりに反省し、思うところがあるのだろうか。


 もはや、どうでもいい。どっちにしろ、俺も連座するかたちで怒られるだろうから。


 何はともあれ、妹の使いは果たせそうだった。


「シロ、後を着いてこい!」


 シロはひと鳴きすると、針路を戸張に譲り、尾翼の後ろに着けてきた。


「空の戦いを教えてやる」


 戸張はシロが付いてこれる限界の速度まで発動機の回転率を上げた。


 確かに空中静止で格闘できるのはシロのようなドラゴンやワイバーンの強みだ。しかし、それはデメリットも含んでいた。


 戸張が思うに、えらくスタミナを食いそうな戦い方だった。


 ワイバーンよりも高等なドラゴンは、あんな戦い方はしなかった。奴らは必要な時、それこそ有利な位置取りをするときしか空中静止は行わない。大半は上昇からの急降下、そして滑空からの巴戦で決着をつけようとする。その方が最小限の羽ばたきで戦闘を継続できるからだ。


 燃料が尽きたら落ちるしかない<烈風>のように、スタミナが切れた魔獣の戦争能力はえらく低下する。下が地上なら降りて休めばいいが、海上ならば命取りになる。


 シロは瞬間的な戦闘能力は、ワイバーンよりも卓越していたがスタミナのコントロールは身に着けていなかった。恐らく、それは親竜から教わるはずの術だったのだろう。


「いいか、シロ。欲張るな。欲をかいたら、空は終わりだ。風のように駆け抜けて、要らん欲は捨てていけ」


 戸張は呟くと、再びワイバーンの群れへ突っ込んだ。あらかじめ目星をつけた個体に機銃を浴びせ、素早く離脱する。


 後に続いたシロは、見よう見まねでたどたどしく火炎を浴びせていった。射線に入った運のないワイバーンが炎を纏いながら落下していく。


「そうだ。なんだ、やればできるじゃないか」


 再び大きく旋回すると、戸張とシロは群れへ突っ込んだ。


 コツを覚えたのか、シロは首をしならせて火炎を放ち、たちまち二匹のワイバーンを火だるまにした。ワイバーンたちも後を追いすがるが、戸張たちの方が速度で優越していた。


『隊長、そろそろよろしいですか』


 滝崎だった。遥か上空から戸張たちを見守っていた。


「まあ、こんなもんだろ」


『こんなもんって……お宅のシロはエース並みの戦果ですぜ」


「莫迦野郎。こんな戦い方してたら早死にしちまう」


 戸張はぼやくように言った。実際のところ、その通りだった。滝崎も戸張も真実をついている。シロの戦果は新米にしては出来すぎていたが、消耗が激しい。全身に傷を負い、キャンパスのような白地の体のあちこちが紅く彩られていてた。戸張たちが来なければ、スタミナ切れでワイバーンに袋叩きにされていたかもしれない。


「俺は、こいつを<大隅>に連れて帰る。後を頼めるか」


『了解。ご安心を……』


 戸張たちの離脱を確認後、上空に控えていた十一機の<烈風>が逆落としにワイバーンの群れへ殺到した。


 その後は、とにかく上へ下へと大乱戦だった。暁の空を背に、数十のワイバーンと<烈風>がドッグファイトを繰り広げはじめる。


 素人目から見ると、どちらが有利かはわからなかっただろうが、時間がたつにつれて明らかになっていった。


 戸張とシロによって翻弄され、ワイバーンたちは既に消耗していた。彼らには<烈風>に対抗する力は残されていない。やがて各個に撃破され、カリブ海の富栄養化の一要素となっていった。


◇========◇

次回6月24日(木)に投稿予定

書籍化に向けて動きます。

まだ確定ではありませんので、

実現できるように応援のほどお願いいたします。

(主に作者と作品の寿命が延びます)


詳細につきましては、作者のTwitter(弐進座)

もしくは、活動報告(2021年6月23日)を

ご参照いただけますと幸いです。


ここまで読んでいただき、有り難うございます。

引き続き、よろしくお願いいたします。

弐進座


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