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純白の訪問者(Case of White) 12

【築地 海軍大学校】

 昭和二十(1945)年十月十一日


 海大の一室で、黒電話が鳴った。呼び鈴が二回鳴ったところで、矢澤中佐が受話器をとった。


「北崎商会、総務の相馬です」

『営業の遠藤です。至急、部長をお願いします』

「部長を? どうかしましたか?」

『ええ。本日、うちの営業所に配属された社員二名と備品について説明を求めます』

「社員、備品?」


 首をかしげる矢澤は上官に顔を向けた。六反田は書類の山に埋もれながら、サンフランシスコのタイムズに目を通していた。


「どうした?」

「儀堂少佐からです。どういうわけか腹を立てているようですが……」

「……ああ、思い出した。言っとらんかったな」

「まさか。まだお話ししていなかったのですか。それは怒りますよ。ご自分でどうぞ」


 矢澤は電話ごと六反田の机へ持って行った。受話器を受け取った六反田は、わざとらしく間延びした声で応えた。


「おう、オレだ。どうかしたか」



【世田谷 三宿】


 電話口から間延びした声が返され、儀堂はやや血管に負荷がかかるのを感じた。


「どうもこうもありません。どういうことですか。なぜうち(・・)に、この二人が来ているんですか?」


 儀堂家の玄関へ、海兵達がトランクと風呂敷包みを運び込んでいる。同時に背後の居間から複数の声が響いてきた。


「そこのあなた、その箱は慎重に運んでちょうだい。独逸本国から運び出した標本が入っているのよ」

「ネシス、どこか空いている部屋はありますか? 儀堂少佐は取り込み中のようです。私とキールケ女史が使っても支障が無いところは――」

「知らぬぞ。勝手にすればよかろう」

「ちょっと御調少尉、あなたと同室とか勘弁してよ。私のプライベートを尊重してちょうだい」

「言っておくが、妾の部屋は譲らんからな」


 (かしま)しさを絵に描いたような光景から儀堂は目を背けると、受話器の向こうにいる上官へ抗議を続けた。


「どういう経緯で、キールケと三井君(御調少尉)が、うち(我が家)に滞在することになったのですか」

『キールケ? それは誰かな? ああ、わかった。桐谷(きりたに)君のことか』


 どうやら桐谷がキールケの符牒らしい。クソ食らえだと思った。


「なんだっていいです」

「君の所で預かっている特産品(シロ)売り場(飼育)担当に桐谷君が加わった。もう運送部(連合艦隊)山田さんに(山口GF長官)話は通してある。まあ、そういうことだ。三井君は桐谷君の付き人(護衛)だ。千代田(帝国ホテル)から通わせるよりも、よほど都合がよかろうと思ってな。まあ、よろしく頼む。ああ、そうだ。こいつは命令だからな」


 拒否権はないらしい。


「なるほど、承知しました」


 叩きつけるように儀堂は受話器を置く。その脇を荷物を持った海兵達が通り過ぎていった。憐れみや羨望の眼差しを向けてくるが、知ったことでは無かった。


 玄関へ新たな訪問者が現れた。海兵とはかけ離れた小さな姿だった。


「衛士さん、この騒ぎはどうしたの? それにこの荷物はなんなの?」


 小春は目を丸くしていた。一時間ほど前、突然キールケ達に押しかけられた儀堂もきっと似たような顔だったのだろう。諦めに似た心境で儀堂は苦笑いを浮かべた。


「それについてはオレも知りたいと思っているんだ」


 全く、あの少将は何を考えているのだ。


 キールケと御調を家に住まわせるなど、うちを旅館か何かと勘違いしているのではないか。


 いや、待て。よく考えれば今に始まったことではない。


 ネシスの面倒を引き受けた時点で、前例を作ってしまっている。


 畜生め、今度、手当てを請求してやるぞ。


◇========◇

次回12月8日(日)更新予定

ここまで読んでいただき、有り難うございます。

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引き続き、よろしくお願い致します。

弐進座


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