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それぞれの帰路(Dark voyage) 2:終

 儀堂少尉は短艇の指揮を執っていた。この数時間で儀堂ほど目まぐるしい配置転換を経験したものはいないだろう。見張り所の分隊長ごときが、代理とは言え砲術長から艦長まで一気に渡り歩く羽目になったのだ。そして今は再びただの分隊長に戻り、救助活動を行っている。


 戦闘終了後、ようやく<比叡>と連絡を回復した<霧島>の司令部はどよめくこととなった。あの激戦の指揮を引き継いだのが、ただの一少尉だったのだから当然だろう。信じられないのも無理はないだろうと儀堂は思った。第一、儀堂自身ですらあれは質の悪い夢ではないかと思っている。とにかく異常な配置を行った主計大尉は謹慎処分を受け―誠に胸のすく思いだった―臨時の処置として<霧島>の副長が艦長代理を務めることとなったのだ。


 その後、被害の少なかった<霧島>から士官の補充を受け、儀堂は新たな上官の下で救助任務にとりかかっていた。正直休ませて欲しいと思わなくは無かったが、休んだら休んだで悶々と何かを考えてしまいそうな気がした。上官の気遣いか不明だが、儀堂が割り当てられた海域は被害を受けた艦から遠いところだった。つまり溺者がいる可能性が少なかった。


「少尉、もうそろそろよろしいのでは?」


 新たな隊の兵曹長が労うように言ってきた。聞けば軍歴20年以上の大ベテランらしい。一兵卒にとっては神様に等しい存在だろう。その神様が、少尉とは言え新兵同等の儀堂に対して敬意を払っていた。儀堂は覚えていなかったが、この兵曹長は儀堂があの黒い月を落としたとき司令塔内にいたのである。彼は、年齢にかかわらず尊ぶべき者がいるとその場で知った。少なくとも、この若者は困難に対して背を向けることは無かった。兵曹長と同様の意見を大半の兵卒が持つようになっていた。


 それは<比叡>に限らず、後に儀堂が任官する艦でも引き継がれることになる。それだけ儀堂が成したことは意義があったのだが、この時点で本人に自覚は全くなかった。今だって、なぜ自分がここにいるのかわからなくなりつつある。


 一つだけわかりそうなことは、あのときの父のことだった。そうだ。帰ろうと思った。今なら、あの父のことが理解できそうな気がする。何よりも家族の顔を見たかった。儀堂は帰郷を決意した。


「戻ろう。流石にこれ以上探しても意味は――」


 そう言いかけて儀堂は海上の反射光を認めた。

「兵曹長、あそこで何か光っている。念のため確かめておきたい」

「光るもの? ありゃあ、本当だ。行きましょう!」


 兵曹長のかけ声の下、兵員は(オール)を漕ぎ降ろし、短艇は波を切り裂いて進んだ。十数分後、目標の海域まで辿り着いた儀堂は目を見張った。あきらかに人工的な金属製とおぼしき物体が浮いていた。物体は円筒状で、ちょうど人の身の丈ほどの大きさだった。一瞬味方の魚雷かと思ったが、それにしては小さすぎる。さらに近づいて引き寄せてみる。


 やはり魚雷ではなさそうだ。その円筒形の物体にはのぞき窓らしいものが備えられていた。魚雷にガラスの窓など不要だろう。短艇から窓を覗き込んだ兵曹長が怪訝な顔になった。当惑しているようだ。


「どうした?」

「いや、それが……」


 儀堂は兵曹長と入れ替わり、短艇を覗き込んだ。なるほど彼の反応も無理は無いと思った。


「少尉、こいつはいったい……」

「なるほど、こいつは魂消(たまげ)たね」


 のぞき窓から人間と推測される顔が見えた。少女だった。眠り姫のごとく目を閉じ、意識を失っているようだ。顔立ちは欧風で目鼻立ちはくっきりとしている。ただ髪の色が銀髪だった。アルビノかと儀堂は思ったが、ふとあることに気がついた。人と違い、頭部に見慣れぬ部位が左右対称に二つ付いていた。


――どうやらオレはまだ悪夢の中らしい。


 鬼畜米英とは誰が言い出したのかと思った。


 何人(なにじん)か知らんが、本当に角の生えた人が居てたまるか。


 しかも女子だと。


 畜生、オレは伝奇小説が大嫌いなんだ。


◇========◇

ここまで読んでいただき、有り難うございます。

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弐進座


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