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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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「さて、まず準備するぞフーマル」

「よろしくっす!」

「清浄なる風よ、形無き命無き存在を彼の身から逸らす鎧となれ。神風の鎧」

「…………何か変化があるっすか?」

「ああ。感じることは……ちょっとできないか? ちゃんと鎧はできているんだが」


 フーマルは実にあっさりとした魔法の発動、効果が目に見えない状態であるためいまいちわからない。しかし、魔法を感覚的に感じることができればそこに発動している魔法を感じることができただろう。魔法自体の感知は恐らくフーマルでもできるが、その状態の違いによって感じやすい感じにくいものはあるかもしれない。今回は特に風系統であり纏うように守るための物だからこそ余計に感じにくい可能性はある。そういったどんな魔法でも感じることができるようになることはフーマルのこれからの成長の課題の一つとなる……かもしれない。


「さて、もう一つ。この世に存在しない命、形無き存在を焼き祓う力となれ。エンチャントファイア」

「そっちは普通に呪文なんだね?」

「……イメージの問題だな」


 攻撃用、剣への付与の魔法は風ではなく火とした公也。これに関して言えば本人の言った通りイメージの問題だろう。また風のように吹き散らすよりは熱で燃やし尽くすほうが相手の消滅により大きく影響する可能性があると考えたか。風で散らすと本体から離れて分散するがそれは決して完全に消え去るわけではない。本体から離れることでエネルギーを失い散っていくかもしれないが、本体に戻ることで再度吸収、己の体とする可能性もある。ゆえに炎である。炎で燃やすことで体を消し去る。外から削いでいく形なので余計に効果はあるだろう。


「これでいいっすか? こっちは普通に良く見えるっすね……」

「あまり触らないほうがいいぞ? おそらく効果はないが、もしあったら燃えるかもしれないからな」

「怖いこと言わないでほしいっすよ!?」


 風と違い炎はそれなりに厄介である。熱としての性質、光としての性質、エネルギーとしての性質。それらにより剣身側にも影響があるかもしれない。あるいは悪霊のみに効果がある魔法とならず、普通の生物にも効果が出る可能性もあるだろう。故に触らないように注意する。恐らくは大丈夫だと思われるが。


「とりあえずこれで問題ない……が、風の防御を過信するなよ? 相手の攻撃次第では貫通される可能性はあるし、何度も受ければ徐々に削れていく。エネルギーを失えば消えるから時間制限だってある。絶対の安全はない。もしやばそうなら撤退してもいい」

「……了解っす」

「話はそれくらいでいいかな? 僕らは遠距離から攻撃したほうがいいかい?」

「ああ。ロムニルとリーリェは離れたところから魔法攻撃で外側を削ってくれ。俺も近づいて剣で攻撃しつつ、魔法も合わせて削っていく。気になる点、繋ぎとなっている何か、本体と思わしき存在を見つけて、ちょっと情報収集をしたいからな」

「わかったわ。あの闇があると光の魔法は通用しないかもしれないけど……あ、ロムニル、さっき魔法を使って結構魔力消費していたでしょう? はい魔法薬。多少は魔力の回復と魔法の補助になるから」

「ああ、ありがとう……僕も攻撃をするけど、どれほど削れるかなあ……」

「最悪俺が全部やってもいい。できる限り魔法で攻撃しているように見せかければあれでどうにかできるからな。この世に存在しない命、形無き存在を焼き祓う力となれ。エンチャントファイア」

「例の食らう力だね……魔法で倒せるのが一番なんだろうけどねえ」

「そのあたりは任せるわ。私たちは魔法の検証とアンデッドへの有効性を兼ねた戦いをするだけ。でしょう?」


 戦闘において前に出るのは前衛である公也とフーマル、後衛として働き魔法を放つだけのロムニルとリーリェ、やるべきことは大したことではない。今回は公也の我が儘というか、公也の聞いた悪霊の中からの声、それが要因で外側から削るということになり、それを遂行する。公也の言う通り公也がすべてをやってもいいのだが、今回は珍しい悪霊の群体という様々な霊体のアンデッドに対する魔法効果の検証もある。公也の使う魔法の性質、有効性の試行、検証でもある。単純に公也がすべてをやればいいというわけではない。

 それは公也もロムニルもリーリェも分かっている。ゆえに問題なく戦いは行われる。フーマルは巻き込まれた形になるが、ある種の強大な相手との戦闘訓練となる。そして準備を終えた四人によって戦いが始まる。






「師匠は無理言うっすね……まあ、なんとかするしかないっすか」


 フーマルは公也に言われた通り悪霊へと向かっていく。うっすらと暗い膜に覆われ、はっきりと完全には見えない存在。膨れ上がった人の形をしていたものの塊。傍に近寄るだけでその雰囲気が恐ろしい。周囲にある草花が枯れているように、近づくだけである程度影響が出る存在である。直接触れられれば霊体を取り込まれ死にかねないだろう。

 公也の使った魔法に寄り、フーマルは攻撃を受けても大丈夫である。しかし、それは何度大丈夫なのか、どれほどの強さの攻撃まで防げるのか。最初に指摘された通り、時間の限度もあるだろう。ゆえに可能な限り相手の攻撃は避ける、見切って避けることが重要になる。


「っと! 師匠も向かって行ってるのに! 複数相手でも問題ないんすかねっ!」


 公也に襲い掛かる悪霊の群体と、フーマルに襲い掛かる悪霊の群体。複数の群体が近づく二人に襲い掛かる。複数と言っても別に複数体いるというわけではなく、体の一部が襲い掛かるようなものだ。群体、それ自体が一つの存在であると同時に複数の存在。それゆえにその群体を構成する一つ一つの霊体が戦闘に参加できる。とはいえ、その位置の問題もあって限界は存在するが。


「はっ! くうっ、手ごたえがなくて効いてるかわかんないっすね!」


 炎を付与された剣を避けた悪霊の攻撃に振るう。悪霊は体で攻撃してきているため攻撃に対しての迎撃的な攻撃はそのまま相手の体へのダメージとなる。群体であるため構成している一人二人が消えたところですぐに他から補うなりできるし、また別に一つ無くなったところで問題もない。痛覚もなければ仲間意識もなく、感覚的な物もない。群体は単純に群体として生き、明確な意思もなく生者へと襲い掛かる反応そのものになっている。


「まったく、師匠も何があったっていうっすかね。俺にはわかんないっすよ?」


 公也の聞いたという声、それに関してフーマルは聞くことができていない。ゆえに公也がなぜ鎧のように存在する多くの霊体、群体を構成する悪霊群を削ってまでその存在を探そうとしているのかがわからない。かぼそい少女の声だったという話だが、本当にそんなものがこの中にいるのだろうか。いたとしてもそれは悪霊の群体を構成する一つの存在、つまり霊体のアンデッドということに他ならないのではないか? 色々と疑問は尽きない。

 まあ、フーマルは詳しく考える必要はない。珍しい戦いの機会、己を鍛えるのに十分な脅威の相手と命の危機は有れど可能な限り回避する条件を付けたうえでの戦闘機会である。それをうまく自分の経験として、強くなる一手とする。公也の言った通りのままに受け入れそのまま戦うのはどうにも納得は行かないが、公也を師匠として仰いでいるのだからそういった機会を用意してもらったことはありがたい。本当は公也自身に色々と教えてもらうのが一番だとは思っているが。


「っと! 逃げてもいいってことっすけど、さすがにそれはダメっすよね!」


 フーマルも色々な経験をして成長しているのだ。ヴィローサにボロクソに言われることもまた一つの精神修養になっている……まあ、あれはヴィローサが全面的に悪いのだが。戦闘、仕事、魔法使いの話に魔法を見る機会、一人でいたころとは全く違う物事に触れ、大きく成長している、強くなっている。決して最強になりたいという願望があるわけではない。微かにないとは言わないが、それを期待できるほどに天才だとは思っていない。しかし、冒険者としてそれなりに大成はしたい。そんな願いはある。


「周りばっかり狙っても倒せないっすよね……師匠に言われた通りにするっすけどね?」


 倒すことが目的ではない。退治することは最終目的ではあるが、今回はそれは公也に任せることとなっている。パーティーである以上、成功結果はフーマルも受け取ることができる。自分の成長にもつながる戦いなのだから、最大限成長する機会としてうまく利用する。それを意識しながらフーマルは悪霊の群体との戦い……その外殻となっている霊体群の浄焼に努めた。



※フーマルは普通人枠。

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