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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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「さて、それじゃあ近づいてくる」

「ちゃんと魔法で対策準備をするんだよ?」

「気をつけなさいね?」

「……無事に戻ってくるっすよ」


 割とすんなりと公也は仲間との別れを終え、悪霊たちへと向かっていく。ヴィローサがいれば少しうるさかったと思われるが今回ヴィローサは監督役のギルド職員の傍に行ってもらっているためこういった場面で騒がしいことにはならない。


「さて……先に魔法を使っておくか。清浄なる風よ、形無き命無き存在をわが身から逸らす鎧となれ。神風の鎧」


 公也が珍しくそのまま魔法の呪文というよりはそのまま詠唱に近い形での呪文を唱える。これに関して言えば呪文として形作るイメージが思いつかなかったからだろう。そもそもわざわざ呪文にしなくとももっと単純な形にしてもいいのではないかと公也は思っている。わざわざ詠唱にせずそのまま意味を呪文にしてもいいのでは? そういう意味では今回はそちらの試行、検証も行うということになる。それはそれで少し別物の魔法になるかもしれないがなったところで悪いものではない。


「……ふむ、これで問題はないと思うが。とりあえず近づいて……………………」


 公也は悪霊へとまっすぐ進んでいく。その姿は膨れ上がって大きいゆえにはっきりと見え、周りの草花の枯れ具合からもその位置は容易に判別できる。また、光をある程度遮る暗い膜の存在もある。迷うようなことはない。公也が近づいていくとその生者の気配を感知するのか、のそりと悪霊の群体に動きが見える。公也の方を悪霊の群体が体を向け、ゆったりと緩く遅い動作で近づいていく。


「……………………」


 流石に公也も度胸はあるが熱量が原因でない汗が流れる。緊張したような、警戒を強く見せるようなそんな雰囲気だ。公也とて悪霊相手に無事でいられるかは確証がない。魔法による防御を使うにしても、暴食の力を使うにしても、確実にどうにかできるとは限らない。確実性は高いが絶対ではない。完全完璧ではないのだから。もしまともに攻撃を受けた時、果たして公也は悪霊の攻撃に耐えられるか。他の人間のように死んで悪霊の仲間入りになったりしないか。公也は肉体的には暴食で喰らったものから補完されるが精神、霊体の方はどうか? そういう意味では公也は完全に無敵とはいいがたい。精神的に、霊体的に死に追いやられた場合本当に死んでしまう危険がある。まあ、その場合に肉体が生き残ったままであるということはあるのかもしれないが。

 そして近づく公也と悪霊の距離がかなり近くなったところで悪霊が公也にその身体を叩きつける。悪霊の動作は緩慢としているがその大きさはかなりの物で迫力だけはある。残念ながら霊体であるがゆえに質量がなく、それだけの大きさ、規模による叩きつけでも破壊が行われるようなことはない。物理的には、の話だが。霊体、霊構造的にはどうなのかは不明だ。そもそも霊体に関してはアンデッドの存在はわかっているが人間が持ち得るだろう霊体に関しては詳しくはわかっていない。特殊能力でその系列の力を持っていればまだ話は違うかもしれないが、そういった特殊能力持ちは一般的ではない。

 もっともそういった様々なことを考えずとも、公也に攻撃が当たることはなかった。公也の使った魔法、神風の鎧。聖なる、清浄なる風による霊体の攻撃を逸らす作用。魔法で霊体を逸らすことができるかは不明であったが、魔法は霊体に通用することから可能性は高いと言えた。火ではダメージを与えても逸らすことは難しい。土では物理的な防御となるため防げるかわからない。防ぐならば水か風であり、公也の性質上得意なのは風となる。もしかしたら水でも似たようなことはできるかもしれないが、そこそこまで検証するほどの余裕もないだろう。


「よし、確認はできた。いったん退いて相談を……」


 公也は攻撃を受けその場を離れようとする。しかし、その時公也は奇妙な声を聴いた。


「……………………たすけて」

「……っ」


 悪霊の中、中心からか細い声が聞こえる。それは確実に生きた存在ではないのはまわりが悪霊である時点でわかるだろう。ならば一体何なのか。


「今はまず退避を優先する!」


 その存在について考えるものの、今襲われている現状で考えても仕方がない。仮に助けるにしても何者なのか、どういう状況なのか、そういったことを考慮しなければならない。悪霊退治を行う上で問題になるのかどうかも今はまだ判断できなかった。






「どうだった?」

「とりあえず相手の攻撃をそらす形で防ぐことはできた。詠唱と呪文は……」


 公也は自分の行った詠唱と呪文を伝える。イメージまでは一緒とは言い切れないが、詠唱と呪文が一致すれば結果を知覚することはできる。その呪文の形にロムニルとリーリェは面白そうにする。


「詠唱を呪文とする、か。あまりやったことはないね」

「詠唱は詠唱、呪文は呪文。混ぜると面倒になるものね。詠唱だけでも魔法は使える、呪文だけでも魔法は使える。それなら詠唱の一つだけでも魔法は使えるのでしょうけど」

「詠唱途中で魔法が発現する危険を考えると区別しておいた方が楽だからね。使い慣れれば詠唱で誤発動することはないんだろうけど」


 詠唱の一部を呪文にした場合、詠唱が行われている途中で魔法が発動される可能性がある。詠唱が呪文だと認識しているためそこで呪文となる、詠唱が完成すると無意識で考えるか、あるいはその詠唱の一部が呪文そのものとして単独で呪文を発動してしまう可能性がある。まあ公也の使った神風の鎧は神風の鎧という詠唱が使われる可能性の低いものであるためそれほど大きな問題にはならないだろう。しかし仮に同じ方法を他の魔法に流用した場合、そちらではそういった問題が起きうる可能性がある。そのため詠唱の一部を呪文とする魔法形態を扱うのはそれなりに難しくなると思われる。


「とりあえず防御は問題ないっすか? なら攻撃の方は……師匠?」

「………………」

「師匠どうしたっすか?」

「……ん? ああ、攻撃はまだ試してないぞ。防御がどうにかなっているから攻撃は実戦で試すことにする。魔法の付与による攻撃だが……もし全く通用していないように見えたなら、フーマルは撤退しろ。その場合後はこちらが魔法でどうにかするから」

「わかったっす」


 攻撃方法としての魔法の付与は公也は試していない。できないわけではないが防御法さえ確立してしまえばあとは実戦でどうにか試すことはできる。仮に実戦で試してダメだった場合は近接戦しかできないフーマルを下げればいいだけだ。故にそこまで問題視はしていない。


「どうしたの? 何かあったかしら?」

「…………少し考えたんだが、あの悪霊の発生原因は何だと思う?」

「……さあ。でもたくさんの霊体のアンデッドが発生したとか?」

「それもあり得るだろうけど、普通はああいう風にまとまったりはしないだろうね。やっぱりネクロマンサーじゃないかな? 自然発生はしないだろうし」

「………………そうだな。実は戦闘なんだが、少し頼みたいことがある」

「……やっぱり何かあったの? まあ提案自体はいいけど」

「何やら気にかかることがあるようだね。具体的にどういうことなのか聞かせてもらおうか」

「……え? 何かあったって……え?」


 フーマルだけ、公也の様子の変化についていけない。そんな状況であるが、悪霊退治の戦闘に関して詳しい内容が話されることとなった。結局それぞれのやることは変わらない。公也とロムニルとリーリェは魔法による攻撃が中心であり、フーマルは魔法の付与を試し有効なら戦闘で徐々に削っていく形になる。ただ、少しだけ目的の違いがある。フーマルとロムニルたちは悪霊の嵩を削るのが中心であり、公也が決定的なとどめを刺すつもり、という話になった。別に悪霊退治の栄誉が欲しいわけではない。公也の聞いた声、それに関して公也が推測をしたうえでそれに近づき、真実の一端に迫る。それを目的とした戦い方ということである。



※詠唱の一部を呪文にする、詠唱そのものを呪文にする。できなくもないというか、そもそも本来区別する意味もない。なのでできなくもない。問題がないわけでもないが。

※聞こえた声は誰のものか。本来気にせずに倒してもいい。ただ、気にかかったのでその声に関して調べる。

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