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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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19



「それで、行くんだな?」

「ああ……あなたは今回の監督役、こちらが悪霊の群体を退治するかどうかを見届ける存在のはず。俺たちが悪霊の群体と戦う際、どうするつもりだ?」

「……俺はアンデッド、霊体のアンデッドと戦う手段はない。お前たちに任せて安全な場所で状況の観察と言ったところだろう」

「わかった。フズ!」


 公也が空へ呼びかける。


「カア!」


 呼びかけに答えるのは一匹の烏……警戒烏のフズである。久方ぶりの出番、普段は鳴き声がうるさいとヴィローサに睨まれ怯え縮こまるしかない存在であるが、今回においてはその役割が存在する。警戒烏はあらゆる敵意、危険を認知する。それが悪霊の群体、霊体のアンデッドなどの実体のない存在であってもである。


「こいつを連れて離れていてくれ。それなら何か危険が迫った時も分かりやすく逃げやすいだろう」

「……警戒烏を従えていたのか。いや、悪い、感謝する。確かに警戒烏がいるなら安全性は高まる」

「それと……ヴィローサも彼についていくれ」

「え!? ちょ、ちょっと、キイ様!? 私はキイ様と一緒にいたいのだけど!?」


 フズをつけると同時に、ヴィローサも一緒につけるつもりである公也。しかしヴィローサはその公也の提案に戸惑った様子で公也と一緒にいたいと己の心情を語る。もっともそれで公也が自分で決めたことを覆すかと言われれば恐らくは覆さないだろうというのがヴィローサの推測。だからこその戸惑い、不安であり、自分が公也と一緒にいられるようにと自分の心情を伝えたわけであるが……まあ、それを伝えるうえでのヴィローサの推測の前提からしてまずありえないということになる。そもそも公也が意味もなくヴィローサ、自分を慕う狙われる危険性のある妖精をつけるはずがない。


「ヴィローサ、少しこっちに」

「……なに?」


 ヴィローサにだけ聞こえる声で公也は語る。


「俺が能力を使う場合もある。その時に見えないように。場合によっては監督役を死なせる必要性も出るかもしれない。ヴィローサなら、それは簡単にできる」

「………………そこまで危険視するの?」

「最悪の場合だ。一応俺の能力がばれないように注意する、視界を遮るなどしてばれないようにしてもらいたい。頼めるか?」

「…………キイ様から離れるのは嫌だけど、そういう理由ならしかたないわ。キイ様にとっては必要なことなのよね? わかったわ」


 公也がギルド職員にヴィローサをつける理由はヴィローサが空中を自由に移動出来る妖精であり、毒を自在に発生させる特殊能力を持ち、公也の持つ能力に理解を示しており、何よりも公也の言葉に従順である、どんな命令でも聞き入れることである。本当に最悪の場合、公也は自分の能力の漏洩を危惧してギルド職員を殺す可能性があると考えている。もちろん死なせてしまうと誰が殺した、何故死んだの問題が出てくるが……それこそ公也の能力を使ってもいい。ヴィローサの毒ならば死亡要因を不明にできるし、毒が残ったとしても公也が残った毒の除去ができる。今回の相手は悪霊の群体であるためそちらに理由付けすることも不可能ではないだろう。もっともそれを完璧に実行するにはフーマルやロムニルたちの説得が必要不可欠なので本当の意味での最終手段。あくまでヴィローサは公也の能力が使われる場合にギルド職員の視界を遮らせることがその役割である。

 あとは監視に近いものもあるだろう。フズだけでは裏での動きを見せる可能性はあるが、ヴィローサがいればそれはありえない。まあギルド職員に公也たちに対する敵意というものは別にないのはフズが警戒の鳴き声を出さない時点でわかるので特に問題はないだろう。多少怒りや嫉妬などの負の感情はあっても、それだけで警戒烏は警戒の鳴き声をあげることはない。警戒烏が警戒の鳴き声をあげるのは自分たちにとっての危機、危険が存在する場合。ただの感情だけではそういったことにはならず、感情が問題なくとも警戒の鳴き声を上げることだってある。そういう点で警戒烏の特殊能力の謎は多いが、利用価値としては危機や危険を完全に把握できるということもあり大きい。ただ、認識の範囲外での活動や行動までは流石に無理なのである程度視界が広い場所、周囲の把握ができる場所での行動でなければいけない。


「……警戒烏に、妖精か。妖精がどれほど使えるかはわからないが……そうだな、冒険者として登録されている妖精だ。それに妖精は決して弱いわけではない。こちらの安全のためにつけてくれて感謝する」

「わかったならフズの能力を最大限発揮できるようにある程度離れていてくれ。悪霊の群体が近づけばそっちの気配や危機感も混じる。自分たちだけの危機、危険の把握にするべきだ」

「………………見えにくくなるのは厄介だが、安全が最優先だな。しかたない」


 そうしてギルド職員が離れていく。それに便乗したい人物がこの場に一人いた。


「えっと、師匠? 俺もそっち入ったらダメっすか? 俺も悪霊相手に戦うとかできないっすけど」

「ダメだ」

「ええー!? なんでっすか!?」


 フーマルは前衛職、完全に剣のみで戦う戦闘職である。とうぜん魔法は使えないし持っている武器が特殊であるということもない。人種はこの中では獣人という他とは違う存在であるが、それが特殊な意味を持っているわけでもない。悪霊退治には確実に邪魔もの、足手まといになるはず。そういう点ではギルド職員と同じでありそちらについていったところで何ら問題はないはずなのである。

 しかし公也はフーマルの離脱を止める。


「魔法の確認。攻撃に防御、付与による魔法がどの程度効果を発揮するかを確認したいからだ」

「……うう、師匠が死んで来いって言ってるっす」


 魔法使いが悪霊と戦うことはあり得ても、魔法を武器や防具に付与し悪霊と真っ向から戦えるようにする、というのは今までの発想からはない。そもそも魔法を使える冒険者の使える魔法は一般的な攻撃魔法、ファイアーボールなど分かりやすいレベルの低い魔法である。公也やロムニル達が使うような独自で作り上げたオリジナルの魔法などではない。それゆえにフーマルとしては無茶ぶりをされているとしか思えないのである。実際無茶ぶりであることには間違いない。


「安心しろ。先に攻撃も防御も有効かどうかを俺が自分で特攻して確認するから」

「……それって危なくないっすか?」

「危ないさ。有効かどうかは現時点では把握できていない。真正面から向かっていくわけだから向こうから攻撃を受ける場合防御が失敗していればまともに受ける」

「いやいや、さすがにそれはダメっすよね!? 普通に魔法攻撃できるっすからそれでいいじゃないっすか!?」

「そうだね。普通ならそれでいい……でも、フーマル君。キミヤ君は魔法の発展に貢献したいのさ」

「ロムニル、そういう言い方ではだめだと思うわよ? キミヤ君は悪霊の攻撃に対応する手段、対処法があるのよ。確かにまともに行って失敗すれば死ぬかもしれないというのは事実だと思うけど、仮に失敗したとしても逃げる手段、相手に攻撃する手段、別の守る手段はあると思うわ。でないとただの博打でしかないもの。私たちはギャンブラーじゃなくて研究者。いざという時の対応手段をいくつも用意してから実験をするのよ」


 無茶は無茶であるが、しかし無知無理無謀ではない。相手が攻撃をして来る時、それをまともに受け防げるか、それとも死ぬかを試すなど狂気の沙汰でしかないだろう。ギャンブラーならばそういったことをするかもしれない。あるいは何らかの確信、確証があれば行っているだろう。実際には全くわからない新しい試みであり、失敗する可能性の高い勝ち目の低い博打になる。それは研究者の行うことではないだろう。

 公也は自分が死なない可能性が高いと思っているし、魔法による防御はそれなりに成功すると考えている。しかし、絶対ではない。自分の安全は確実ではない。それを理解していた。ならばどうするか……魔法による防御とは別の対応手段を用意する、ということだ。それが暴食の力、特殊能力ということである。それにより相手を一瞬で消し去ることができる。それくらいに公也の持つ能力は特殊であり異常である。しかし、それを持っているからこそ、公也は魔法の試行という無茶を行いながら悪霊退治をするつもりなのである。


「そういうことだ。心配するな。それよりも自分が戦う時戦闘を成功させられるかどうかを注意しろよ? 攻撃も防御もできるとはいえ、それはあらゆる攻撃を受け付けない無敵になれるというわけじゃないんだからな」

「う……戦わされるっすか。正直嫌っすけど……」

「強制的に参加してもらおう。逃げようとするなよ?」

「師匠が鬼っす……」


 公也がフーマルを今回のことに参加させる理由は魔法の性能確認も一つであるが、フーマルを特殊な命がけの戦場で戦わせることにより実力を上げることも一つの目的である。実際にフーマルが行うような戦闘とはまた違う特殊すぎる戦場であり、本気で命がかかっている場、命があっさり消えかねない戦場であるが、だからこそ本能的な部分が、直勘的な部分が成長する。公也は師匠として弟子を育てる意味合いも持ってフーマルを戦わせるつもりである。こんな時だけ師匠面されてフーマルも色々な意味で苦労する。


※監視役を監視するという奇妙さ。監視されているといろいろとやりにくい主人公。さすがに簡単に消していい相手でもないし。最悪やるしかないがやらなくていいのならそのほうがいいので対策。

※攻撃を受ける可能性は考慮済み。ただ一撃で死ぬとは主人公は考えていないので受けても即刻対処すればなんとか生き残ることはできると考えている。実際にどうかは不明。

※師弟関係なのでこういう修羅場にぶちこまれるフーマル。実力はつかないが度胸はつくので我慢してもらいたい。

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