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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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18



「見えたぞ。話に聞いた限りでは恐らくあれだろう」

「……なんすかあれ」


 その姿を見てフーマルは慄く。あまりにも異様であまりにも巨大だったからだ。それは膨れ上がったような人の塊、人の集まりの塊。そしてその周りは光がなく暗くなるような薄膜が存在する。その外の明るさとその中の暗さははっきりと違いが分かるほどに差がある。悪霊の群体の使う何らかの特殊能力、あるいは魔法か何かの一種か。ともかく、見ただけでも恐ろしいとわかるほどにその存在は異様だった。


「あれは……魔法ではないね。やっぱり特殊能力かな」

「そもそもアンデッドは魔法を使えるのかしら?」

「不死なら不可能ではないだろうけど、普通のアンデッドは無理だろうね。つまりあれは特殊能力……どういったものだろう?」

「闇による光の遮断……いや、どちらかというと光を逸らしているとか? 完全に全てを遮断しているわけじゃないのは中が見えることでわかるが」

「そうね。本当に光がないなら何も見えないでしょうし……」

「あの程度でも十分活動できるということなんだろうか。しかし、周りの植物は確かに枯れている……動物の死体もあるのか? 腐ったりはしていないよね?」

「悪霊の群体の性質から考えると……その腐る原因も殺しているかもしれない。まあ、今は近くにいないだけでいずれは腐ることになると思う」

「そういうものか……」

「ねえ、お話しているのもいいけど、どうするのか決めない? あちらでギルドの職員の人と馬鹿が待ってるわよ」

「誰が馬鹿っすか!?」


 だいたいいつものしつこいヴィローサとフーマルのやり取りである。ヴィローサも本気で言っているわけではないが、言われる方は流石に気になるだろう。


「ヴィラ」

「………………ごめんなさい。フーマル、ちょっと言い過ぎた。ごめんなさい」

「えっと…………まあいいっすけど」

「ならいいの。ありがとう。それで本題だけど」

「あっさりしすぎ!?」


 切り替えが早いのか、それとも本心では全く気にしていないのか……ヴィローサとのやり取りはいちいち気にしても仕方がない。本来妖精という種族は自分本位で自分勝手の好き放題にやらかすいろいろな意味で危険な種族。友好的な場合もあるが、それはあくまで娯楽の一環としてのことが多い。ヴィローサのように本人の精神がぶっ壊れたうえで一人の人間を愛し惚れ込んだという特殊な事情でもない限りはほとんどの場合信用できない。ヴィローサも公也に関すること以外に関してはそういった性質が未だに残っている。彼女は妖精であることには変わりがない。ゆえにいちいち気にしないで無視する方が精神的には楽なのである……まあ、フーマルは無視できない様子だが。全面的に口の悪いヴィローサが悪いのでこれに関しては公也がこれから矯正していかなければいけないだろう……できるかはともかく。

 そんなことを公也は考えつつ、ヴィローサの言う通り本題の方へと思考を移す。本題である悪霊の群体、それを退治するための仕事。今回の仕事であり魔法使いである公也たちがしなければいけない仕事である。


「ああ。悪霊だな……あの群体の、かなりの数が集まっているだろう厄介な奴の退治だな」

「そのことについて先ほど話していたんだけどねえ……」

「まあ、本当にいろいろと想像や予想から相手の様子について話していた、ということは事実よね。それで、どうするの? 魔法をぶつけてみる?」

「いきなりか……遠距離攻撃……光をぶつけてみるのを試してみよう」

「光か……光を集める、と言っていたけどどうするんだい?」

「レンズはわかるよな? あれを水で作る」

「ふむ……ならやってみよう。其れは光を集める機構、我が意に従い正しき形を作れ。ウォーターレンズ」


 水が集まるように空中でレンズの形を作る。それは光を集め、一点に集中しようとして……それが確認できるほどに維持される前にレンズが崩れる。


「……ロムニル? 失敗か?」

「いや、これは多分……魔力の消費が大きすぎる」

「……そもそもレンズが光を集めることはわかっても、どうやって、どうして、どうなってそうなるかっていうのは詳しくはわからないのよね。つまりその現象は無理やりその形での再現になるから……その現象の再現に必要な魔力消費量が大きくなってしまうってことかしら。ロムニルでこれだと私もあまり長くは使えないわね。キミヤ君はどうかしら?」

「……魔力量においては問題はないな。仕組みも多分大丈夫だ。だけど俺しか使えないのでは……ちょっとあまりよくはないか?」


 レンズを使った光を集める魔法。これに関してはロムニルやリーリェのような研究職の魔法使いでも根本的な仕組みを深く理解できていない。魔法として発動する現象はその現象に対する理解、仕組みや機構、摂理に対する知識が結構重要なものとなってくる。知っていれば知っているほど再現は難しくなく、魔力の消費量は減る。何故なら正しく変換できる。魔力量によるごり押しが必要ない。しかし、理解ができていない物事をやろうとすれば結構な魔力量が必要となる。そういう点では元々の世界において世界の法則についていろいろな形での知識を得ることの出来た公也は魔法使いとしても実に有利である。


「光の魔法は使えるか?」

「そうだね……太陽の光、この手に生まれよ。サンライト」


 光の魔法が使われ、太陽に近い光がロムニルの手元に生まれる。光の量はそれほどではないものの、太陽光と同等の性質を持つ光で中々に眩しい。悪霊退治に使う光は太陽の光でなければならない。炎の光でいいのならそもそも炎の魔法が最も最適な攻撃方法になる。それに松明などを投げ込めばいいし、そういった普通の炎の光を嫌うようであれば人里、街に近づいたりはしない。そもそも魔法使いしか倒せないという面倒なことにもならないだろう。

 まあ、別に光の魔法に限らず普通の魔法でも有効打にはなる。光の魔法は太陽光と同性質を持つと同時に魔法であるという二つの要素があるからこそだ。籠める力が一緒なら影響力も一緒……というわけではない。もっとも光の魔法の光でない部分が有効打になるかはわからないが。


「小さいな」

「これくらいが普通だよ。君は魔力量も多いし大きくできるのかもしれないけどね」

「光で弱らせる、退治するならこれで十分じゃないかしら? まあ、試してみないとわからないけど……」

「そうだね。そもそもどのような魔法をどのくらい使えば倒せるのかなんてわかったものじゃない」

「確かに……とりあえず光の魔法を使いぶつける、ということでいいか。それは遠距離に向けて攻撃できるのか?」

「もちろん。まあ、維持の問題があるから距離は考慮しなければいけないけど……」

「近づく必要があり、か」


 魔法使いの最大の利点は遠距離攻撃……まあ、これは弓矢を使っていれば似たようなものだが、道具無しで行使できる、自由度が高いという点で魔法使いは強い。しかし、魔法の維持、距離による減衰……時間による魔力の消費による魔法の減衰の問題があり、場合によっては近づかなければいけない。特に今回は相手が光を遮るような闇を防御につかっているということもある。完全に遮ることはないが弱い光ではとおらない危険がある。威力が落ちた魔法では難しいかもしれない。


「……まあ、光の魔法を叩き込むということで方針は決定かな?」

「そうだね、それでいい」

「できれば相手が動かない距離を維持したいわね……」

「話は決まったか? まったく、もっと早くしてもらいたい」


 少しイライラした様子でギルド職員が言う。彼は彼で立場があり、監督者として公也たちが仕事をするのを見届けなければいけない。しかし敵を前にのんびりと話し合い……事前に決めてから来い、というのが彼の意見だ。実際には現場で確認しなければいけないことも多いし、そもそも事前情報もないのに準備をするのも無理だ。そういう点ではギルド側も公也たちへの支援は足りていない。まあ、どちらが悪いとも言えないが、無理をするよりはしっかりと準備をしてやった方がいいだろう。そもそもギルド職員は見ているだけなのだから文句を言える立場でもないと思うところだ。




※ヴィローサの口の悪さ、性格の悪さは矯正不可。でもこれでも一応まだ比較的前よりましにはなっている……かもしれない。

※魔法は細かい理屈を知らなくても使う魔力量でごり押しできる………………もっとも、通常はまず魔力量が圧倒的に足りない。職業魔法使いになれる魔力総量を持つ魔法使いでも長期維持は不可能なくらいである。

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