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「よろしく頼む。しかし、妖精の冒険者……なんというか珍しい存在だな」
「よろしく」
「よろしくっす」
「よろしく」
「よろしくお願いするよ」
「よろしくお願いね」
「他の……魔法使いか? 国の所属の魔法使いということで冒険者ギルドでなく街の側からの参加者ということになっているが……同じパーティーなのか?」
「パーティーじゃない。同行者ではあるが」
「なるほど……」
色々な意味でロムニルとリーリェの扱いは特殊である。二人は公也たちの同行者であり、厳密には冒険者におけるパーティーではない。しかしそれは事実としての立場であり、周りから見た様子であれば普通に冒険者仲間のようにしか見えないだろう。それに活動自体は似たり寄ったり、二人がフィールドワークとしてしていることは冒険者のしていることと大きな違いはなく、周りからは冒険者だと思われるだろう。そもそもそれらのフィールドワークは元々冒険者に頼んでいたことでもあるのだから。
しかし、今回においては冒険者ギルド側から悪霊退治に参加した公也たちとは明確に別の扱いとなる。もっとも結局一緒に退治に行くわけであり、基本的には今まで通りのやり方で構わないだろう。冒険者ギルドからの監督役としてあてがわれたギルド職員も特にこれと言って文句があったり頭が固いわけではない。なので大きな問題は恐らくないだろう。
「……そういえば街側からの監督はいないのか」
「僕たち二人と違って普通はあまり悪霊退治に参加できる人間はいないからね。そもそも魔法使いがいるならこの街も最初の時に出しているんじゃないかな? まあ、出し惜しみをしていた可能性はあるし、隠している可能性もある。犠牲が大きかったゆえに魔法使い一人を送ったところで……と考えているかもね。僕らを含めて三人、冒険者も三人、ギルドの監督を含めて総七人。最初に魔法を使える冒険者を連れて悪霊退治向かっていた時よりも少ない。普通ならこんな人数で悪霊退治はあり得ないんじゃないかな?」
「それも群体の相手だもの。どう考えても人数は少なすぎる……」
「それはまたひどいな。つまり割ける人員がいないから監督がいないのか」
「……まあ、偉いさんはそんなものだ」
冒険者と違い、戦いが身近にない街側の人間ではそのあたりのことはどうしようもないのだろう。もっとも街側で戦闘ができる、いざという時のための戦力として魔法使いを温存している可能性はある。国に所属している魔法使いとは別の魔法使いとしての能力を持つ、冒険者とは違う独自の戦力である。こういった戦力はある程度の権力を持っている場合相応に持っていることはある。こういったある程度の街であれば一人二人はいざという時のために確保していることもある。まあ、その証拠はないし仮にそんな戦力があったとしても一人二人ではそこまで大きく役に立つことはないだろう。なので別に参加しなくてもいい。魔法を使える冒険者で残っている者も含め、街を守るための戦力としてカウントしたほうがいいだろう。
「それじゃあ行くか」
「……どこに行けばいいのかしら?」
「ああ、それに関しては俺の方から案内する。俺は戦う手段がないから戦う時はお前たちに任せるしかないが」
「冒険者ギルドは一度退治に出向いているから大まかな場所は知っているんだね」
「……一応戻ってきた人もいるっすから、聞き取りはしたってことっすよね。場所以外には何か知らないっすか?」
悪霊退治は全滅で終わったわけではない。前衛の冒険者は全滅したが後衛の魔法を使える冒険者はある程度は帰ってきている。それゆえに相手のいる場所がわかっているわけである。そして当然ながら聞き取った内容から相手の情報も分かっている。もちろんすべてが何でも分かっているわけではないが、幾らかの情報はあるだろう。見た目などの。
「……見た目に関して言えば、でかいし暗いらしいから見ればわかるらしい。周囲の草木も影響を受けて枯れているんだとか」
「暗い?」
「…………悪霊の力による物かな? 特殊能力、霊体のアンデッドは日の光の下では力を発揮しきれない。それを避けるためのものだ」
「いくら魔法が未熟と言えど多数の冒険者で挑んで日中に負ける……というのは本来おかしいからな。そういった特殊能力があったというのなら確かにそういうこともあるか……」
「魔法で除去できるかしら?」
「それが魔法によるものなら簡単だけど、特殊能力だと……難しいな」
「反作用的なものならある程度は干渉できるだろう。光を生み出す魔法とか」
「まあ、暗くする力を取り払わなくとも倒せる可能性はある……キミヤ君の言うような光の魔法などが通用しなければまともに倒すしかないだろう」
「光の魔法ね……これって普通に攻撃魔法として使えない?」
「火の魔法や風の魔法に近いエネルギー系になるかな。問題は霊体に作用する流動性だけど……」
「光を集中させるというのはどうだろう? レンズの類みたいな形で」
「なるほど。そういった手なら霊体に有効な光を集めて照射することができるかもしれない」
「一つの手段としては考えてもいいかも知れないわね。問題はその魔法をすぐに作り出せるかどうか」
「……光の魔法はあまり使い手がいないからね。夜に明かりを作る程度なら問題ないけど、昼間でも光を発する、太陽の光に近い霊体に有効な光となると」
「炎のような光では霊体のアンデッドには通用しないんだったか?」
「そのはずよ」
「そうなると本当に疑似的な太陽光を作り出すような形か……いや、太陽光を遠距離から集めて攻撃するのはどうだろう?」
「別に生み出す必要はなく、アンデッドの特殊能力の効果範囲外で光を集めるんだね。悪くはない……ただ、相手の特殊能力での軽減が……」
「ちょっと、三人とも! 話し合うのはいいけどついていかないとだめじゃない! キイ様も、楽しそうに話すのはいいけど前の人たちから離れちゃうよ!」
「あ」
「あ」
「あ」
魔法に関しての話になると熱中する三人。二人は魔法研究者であり、一人は知識を求めるがゆえの暴走である。これがフーマルだけならそこまで気にする必要はないかもしれないが今回は部外者もいるのでそちらのことを配慮しなければいけない。
「悪いヴィラ。話に関しては悪霊の群体を見つけてから、にしよう」
「……そうだね。どこまで近づけるかはわからないが、そうしたほうがいいかな」
「実証、検証しなければ意味はないものね……話し合いだけでは結果は出ないもの。ヴィローサちゃん、行きましょう」
「こっち。止まってはいないけど、こっちのことは気にしてるみたいね」
ヴィローサを先頭に話し合いに熱中していた三人が先行するフーマルとギルド職員と合流する。そうして今度は無駄に話し合いをせず、世間話をしながら悪霊の群体について話をしつつ、目標に向かい進んでいった。
※日光の光と炎の発する光は別物……光としては同一でも持ち得る概念、性質の違いがある。なのでアンデッドに火の光は有効ではない。火自体はそれ相応に有効ではある。




