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ヴィローサを起こし、公也は四人に対して呼び出しに向かうことを告げる。ロムニルやリーリェは伝言よろしく、フーマルは頑張ってくださいっす、と特に公也が呼び出しに応じて向かうことはあまり気にしていない様子だが、ヴィローサだけはまるで戦場に向かう夫を心配する妻のような反応を見せている。別に結婚もしていないほぼ片思いに近いくらいの状態なのだが。そもそもそんなふうに心配するような状態でもないはずである。公也は単にギルドマスターに呼び出しを受けそれに出向くと言うだけだ。その程度の話である。
よくよく考えればギルドマスターに呼び出しを受けるということ事態結構あれだが。一応ギルドマスターはこの街における冒険者ギルドの最高権力者である。冒険者ギルドという組織全体で見れば一支部の長、と言えるがそもそもそんな規模で見るものでもない。すくなくとも一支部の長に呼び出されるというだけでも結構な物のはずだ。本人は全く気にしていないが。
「失礼します」
「ああ、よくきたね」
ギルドマスターの部屋に入るとそこにいたのは机の上においてある様々な書類に手を付けている女性の姿だ。女性と言っても、結構なお年を召されている女性、老婆である。いや、老婆と言ってもまだ比較的若めだが。この世界では寿命に関しては公也が元居た世界よりも低く、肉体的な限界、活動能力の限界の問題もあり基本的にギルドなど重要な施設、機関の長は通常その必要とされる活動能力の関係もあってそこそこの年齢であることが多い。場合によっては若いこともある。実際冒険者ギルドなどでは冒険者としての活動能力も多少は求められるはずだ。そういう意味では老婆がギルドマスターをしているというのはそこまで多くはないだろう。逆に言えばそれだけ彼女はその年齢でも冒険者ギルドのギルドマスターをやっていけるだけの実力があるということになる。
「………………」
「………………」
呼び出しを受けた。つまり用事があったということ……だが、ギルドマスターは特に何かを語ることはしない。公也も特に何かを言い出すことはしない。
「………………」
「………………」
「ふう……悪いね、待ってもらったようで」
「いえ」
仕事が一段落したのか、ギルドマスターが謝罪から入る。公也は別に特に気にしていない。相手が仕事中なら待つくらい別に問題ない、という気質である。そうして会話が始まったが、ギルドマスターの公也への態度はどちらかというと強め、きつめと言った感じである。
「さて。まずあんたに聞くよ。なんで冒険者ギルドの悪霊退治に参加しなかった?」
「参加しなかったとは?」
「冒険者ギルドは大々的に封鎖した道の先にいる悪霊退治のメンバーを集めてた。それになんであんたは参加しなかったんだい? あんたは昨日この街に向かってきた霊体相手に実力を見せつけた。簡単に倒したみたいじゃないか。まあ、その姿を見ていたやつはいないけどね。それくらい強いのなら悪霊を相手にできただろう? あんたが参加してれば犠牲者はこれほど多くなかった。冒険者ギルドの仕事が滞ることもなかっただろう。なんでだい?」
ギルドマスターの公也への態度の原因は公也の能力、そしてその能力を持っているのに悪霊退治に出向かなかったのは何故か、という点。別に冒険者は基本的に自由であり、それゆえに能力があるから必ずこの活動に参加しろとは言えないが、しかし今回の出来事に関して言えばその犠牲の大きさが問題となる。冒険者ギルドとしてもこれからのギルドにおける仕事が滞ることを考えると難しい、厳しいものである。もし公也がいれば……と思うところはあるだろう。仮に公也がいてもどうにかなったかどうかは不明だが、やはりそういった力を見せつけるようなことをされればなぜいなかったのか、と思ってしまう。
「俺がこの街に来た時には既にどうするか決まっていた状態だったから」
「……なに?」
「俺がこの街に来たのは少し前だ。俺が来た時には道が封鎖されていて、悪霊退治に出向く冒険者も集め終わっていた。流石にそこに無理やり参加するのは無理だろう?」
「……………………それは、ああ、確かに時期が悪いっているのはあるのか……ふむ……」
ギルドマスターとしても公也が来た時点で編成が終わっていた、ということになると何とも文句を言いづらい。一度決まったことを覆すのはいろいろな意味で面倒が多い。特に今回は道が封鎖される原因の悪霊退治の仕事。それには相応に実力も求められるし、必要とするもの。それぞれの能力、実力などを考慮したうえで出向く冒険者が決められているのでそこにいきなりこの街に来たばかりの冒険者が入ってくるのは難しいだろう。元々この街にいる冒険者ならともかく、ふらっと立ち寄っただけの冒険者であるなら余計にやりづらい。それでもまだ招集段階であれば問題はなかっただろうが、既に決まった状態ではまず参加は難しい。
「冒険者のランクは?」
「Dランク」
「……厳しいねえ。Bあれば問題はない、せめてCでもあればまだ途中から組み込めたかもしれないけど……」
冒険者として認められる実力を示せるのはCランクから。そういう意味では公也のランクは一歩足りないランクである。また、公也のそれは冒険者ギルドの評価で上げた物ではない。放浪魔を倒したこと、その実力と成果ゆえにだ。まあ、それはそれで公也の実力が高いという事実を示すものであるかもしれないが、冒険者ギルドとしては依頼を受けての評価で上げた物ではないと少しランクの評価よりも下に見られただろう。公也はランクでいえばDランクだが実際の冒険者としての評価はそれよりも下寄りである。どちらにしても、Cランク以上でなければ途中から横やりを入れて受け入れられたか怪しい。
「はあ……時期に評価の問題、そうなるとしかたないねえ。そもそも冒険者は自由だ。どうするかを決めるのはその冒険者の判断、あいつらが死んだのはあいつらの責任、あんたに押し付けるのも違うねえ」
「…………そうだな。とはいえ、俺がいれば被害が少なくなった……というのは間違ってないだろう。それで、今後はどうするつもりなんだ?」
「なんだい。そんなことあんたが聞くようなことでもないだろう……ま、それを聞いてくるってことは今後の参加をするつもりがあるってことでいいんだね?」
「ああ」
「ふん。なら話そうじゃないか。悪霊の群体を倒すための仕事について、ね」
既にある程度悪霊退治に関わる話はされていた。特に今回は悪霊退治に向かった冒険者が死に、彼らが霊体のアンデッドとなり街を襲いに来たという事例もある。また同じことが起きる危険性もあるし、今度は悪霊の群体が街に向かってくるかもしれない。そういったことを考慮すると早いうちにどうにかしたほうがいいと思われる。なのでその参加に実力のある人間が必要不可欠。霊体のアンデッドを倒した実績のある公也は大きな戦力候補である。
「ああ、それと俺と一緒にこの街に来ている仲間なんだが、魔法使いがいる」
「魔法使い……」
「彼らに関しては冒険者じゃなくて国の所属だからどう判断するかはわからないが……」
「わかった。話は通しておくよ」
ロムニル達にも言及し、ギルドマスターとの話し合いはそれなりに順当に行われた。そして公也たちの悪霊の群体との戦いへの参加が決まるのであった。
※ヴィローサの反応はどないやねん、と素で思う。
※平均寿命、一般的な人間の寿命は低いかもしれない。他の人種族のことを考慮したり一部の強力な冒険者などを考慮すると厳密に寿命が低いとは言えないかもしれない。




