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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 警戒烏。一般的な烏は黒い色をしているが、警戒烏は森の中で茶色の見た目をしている烏である。基本的に枝にとまっており、危険な生き物が近づいてきたときに独特な鳴き声を上げ周囲の仲間やそのほか自分たち以外の獣に対しても警戒を促す特徴を持つ。見た目のためか、若干遠目でみるとわかりづらいが近づくとそれが警戒烏であるとわかる。ただ、近づいてみる前に警戒烏に害をなすつもりがある場合、警戒の鳴き声を上げて逃げられてしまう。そのため警戒烏を退治する場合はその警戒の鳴き声を上げる範囲に入らずに仕留める必要がある。


「カアーッ! カアーッ!」

「……うるさいな。餌が欲しいのか?」


 公也が拾ったのはその警戒烏の、巣立ちに失敗した成鳥したばかりのものである。一応山一つを食らいつくした時に警戒烏という存在の知識は得ているが、その細かい情報に関してはいまいち思い出せない。取得した情報の整理ができておらず、拾った警戒烏からはわかりづらい。


「木の実……あれでいいか」


 木の枝を暴食で食らい、先についている木の実を得る。効率……というよりは環境的にあまりよくない手立てだが、別に自然の回復力であれば、禿山にしない限りは大丈夫だろうと信じ公也は暴食の力を遠慮なく使っている。まあ、普通にとるのが面倒だからというのもあるだろう。本当は枝との接点に狙いを絞ればいいのだが、そこまで細かい指定の面倒さ、範囲の指定の面倒さがあって結構雑な手法でやっている。


「ほら、食べろ」

「カアッ!」


 嘴で突いて齧る警戒烏。警戒烏は体は茶色だが嘴は緑色……葉っぱの色をしている。擬態としては茶色の体が枝部分、嘴が葉っぱということになる。枝と言い張るには細身ながらちょっと太いのではないだろうか。そして見た目はまだ季節的に問題はないが、冬などの季節、木々が枯れて葉っぱがなくなった季節はどうするのだろうという疑問もある。まあ、それは季節がある場合に限るわけだし、冬でも葉を繁らせる常緑樹もあるだろうからそこまで大きな問題にはならないかもしれない。


「カアーッ! カアーッ!」

「…………まだ欲しいのか」


 はあ、とため息をつく公也。そもそも公也は鳥の世話……殆どのペットの世話をしたことがない。一応子供のころは縁日で取った金魚とかを飼っていたが、それも一時的なものでそれ以降は興味がない。ペットに費やす時間よりも自分が知識を得る、あるいは満足することに時間を費やすほうが有意義だと考えまったくその手のことに手を出すことはなくなっている。

 こんな異世界に来てまでやる必要はないが、異世界だからこそむしろ他に興味の出るようなことが多く存在していない……存在はしているが、今すぐ手の届くところにはないということもあって鳥の育成をしている。単純に使い魔的な存在が欲しい、いれば役に立つ、少しでも寂しさを癒せれば、などのそれなりに意味のある部分もあるが、結局のところいてもいなくてもいいという感じでもある。かなり雑な感じだ。


「この茸でも食べるか?」

「クォアッ! クォアッ!」

「……なんだその鳴き声? 変な鳴き声だな」


 なんとなく、公也はその鳴き声に関して気にかかることがあった。それゆえに、自分の中でその鳴き声に関わる内容を拾う。そして山一つを食らった時に一緒に食らっていた生物の中の一種類にそのような鳴き声を上げる鳥類がいることを見つける。その名前が警戒烏であり、警戒烏が危険なものを見つけた場合にそのような声を上げるのを拾い上げる。


「…………ふむ」


 公也は暴食を使い茸を食らう。この茸の情報も探せばありそうだが、自分の中にため込んでいる知識の中を探すよりは直接目の前にあるものを食らい情報を得たほうが確認するうえでは早い。そうして暴食で食らうとその茸が毒を持つことがわかる。


「毒の有無がわかるのか」

「カアッ! カアッ!」


 正確には、警戒烏はそれが自分にとって危険であるかどうかを判別できる。この危険がどういうものかはかなり大雑把な区分がされているが、基本的に警戒烏に害をなすものであるかどうか。例えば公也の場合、近づいても警戒烏に手を出すつもりがなかったので警戒音を出すことはなかっただろう。これが暴食を使い食らおう、とか思っていたら、近づく前、公也を見つけた時点で警戒烏は警戒音をあげていたことだろう。この害をなす、というのがどの程度まで含めるのかはわからないが、例えば森に存在する生き物を狩ろうとしている、とかの意思でも割とひっかかる。森そのものに害をなす場合でも警戒烏に害をなす、という事項に引っかかるのか、それで警戒音をあげることもある。

 毒の有無、というのも警戒烏の危険に含む。つまり毒に限らず警戒烏に害をなす危険のある物、であればそれに警戒音をあげるということだ。害をなすといっても、単純に置かれている刃物とかでは反応しない。毒や麻痺、眠りを引き起こす物質などでは反応する。この警戒音は警戒烏のみの危険に限らない、というのは森が対象の場合で話したが、もしこれが主に対するものも含むとするならば、警戒烏の持つ危険の判定要素はかなり大きなことになる。


「これは?」

「カアッ!」


「これは?」

「カアッ!」


「これは?」

「クォアッ!」


 公也はいろいろな物を見つけ、それを警戒烏に見せ、それが危険な物かどうかを判別する。結局暴食を食らい判別できるのだから必要はないのだが、警戒烏の持つ特徴というものを面白く感じたのか、警戒烏に見せて判定して遊んでいる。警戒烏と公也の関係はそれなりに悪いものではなかった。警戒烏にとっては怪我の回復の間頼る必要があるし、他の危険から守ってくれるという点ではいい庇護者である。公也は警戒烏という存在、その能力の詳しい内容を知ることができて面白く感じる。ペットというものを育てることに癒しを感じるということはないが、その存在から得られる知識という点では面白く感じた。そういうこともあり、悪い関係ではなく、問題なく一人と一匹は森で過ごしていた。まあ、改めて公也はそろそろ街に行こうか……とか思い出しているが。

 そんな折、公也は森の中で人間に出会う。


「お? 珍しいな。旅人か?」


 そんなふうに声をかけてきた……少々ボロボロの服装だが、小奇麗な感じで武装している人間だった。人数は三人。


「こんな森の中で何やってるんだ?」

「一人なのか? 他に誰か仲間はいるか?」

「その服装、珍しいな」

「……………………」


 彼らは公也に対し普通に話しかけてきている。少し馴れ馴れしく感じるが、下手に警戒心が強い相手よりはいいのかもしれない……まあ、公也にとっては誰であっても別に付き合いやすいというわけではない。そもそも公也の場合ここは異世界であるため人間はむしろ警戒対象だ。

 そして、彼らの危険に関し、公也と一緒にいる警戒烏は正しく判断できてしまう。


「クォアッ! クォアッ!」


 警戒烏の鳴き声は警戒音。つまり、三人の人間は警戒烏に対し……つまりは、公也に対し害をなす危険のある存在である、ということである。警戒烏の危険の判定は潜在的な危険では判定されない。それが、正しく公也に対し害をなす意思を持つ、持っている状態である場合、そう判定する。その判定の判断は不明だが、かなり本能的で、厳しい判断基準があり、それゆえに、警戒烏の鳴き声は正しいとされている。


※警戒烏は茶色と緑で枝に擬態している。少なくとも森の中ですぐに発見することは難しいらしい。

※食らった情報は知識を意図して取得することを考えなければ蓄積したままの情報になる。取捨選択で選ばれなかった情報は積もった情報の山に眠る。漁れば引き出すことはできるかもしれないが探すのがそもそも大変で難しい。改めて意識して喰らい直すのが再度の情報収集には手っ取り早い。特定の情報から関連付けて幾らか引き出すことはできなくもないが。

※警戒烏の持つ特殊能力は自身に害をなす危険があるかどうかの感知。同時に自分の所属するコミュニティに属する存在への害意も感知できる。意思の感知もあるし、含有する危険な物質の感知もできる便利な能力。

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