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「……ふむ」
「どうしたの?」
「いや、そもそもなぜ魔法で霊体のアンデッドに攻撃ができるのか、と疑問に思ったんだ」
「……それ、今更じゃない? だいたい今考えても……攻撃で来てるんだからそういうものじゃない?」
公也は霊体のアンデッドに魔法で攻撃を仕掛けた。しかし、そこで疑問に思ったのが魔法がなぜアンデッドに通じるのか。
魔法は魔力を使うことでこの世界に起こした現象である。つまりこの世界に起こる物事であり、それはどちらかというと物質的な作用を示す。分かりやすい例でいえば土の魔法だろう。土による束縛、石による衝撃、場合によっては鉱石などの金属に作用させることもできるが、つまりそれは物理的な物。霊体のアンデッドは物理的に存在しないものであるためそういった物理的攻撃は通用しない。実際魔法でもすべての魔法が霊体のアンデッドに作用するわけではない。主に火や風、水が性質としては強いだろう。特に物質としての存在というよりはエネルギーや現象そのものと言える火や風の方が影響力は高い。水は流れる、流すことから分散の作用が強いのだろう。土は逆に物質的なアンデッドには埋葬の作用があるから強いとされる。実際土の中にアンデッドを埋めることで無力化しやすいのは事実だ。
魔法に関して、アンデッドに通用するかどうかはそういった感じなのだが、結局なぜ物理的に存在しないアンデッドに対し魔法による攻撃が通用するのかは疑問のままだ。風ならば霊体を構成する霊的物質の分散、などの意味があるかもしれない。水と風は液体と気体、分散の意味合いでもエネルギーの意味合いでも大きく違う。三態で考えるなら、土が固体、水が液体、風が気体になる。火はエネルギーその物だろう。有効性に関しても土が一番低く、風や火が高いと考えるのなら、可能性としてはエネルギーや分散性が霊体への攻撃的な性質が高い、ということなのかもしれない。そもそも霊体とは一体何なのか、という話も必要になってくる。
魔物は前提からして存在が不明なもの、この世の摂理に反する生き物としての性質を持つ。アンデッドの場合、生きとし生ける者という生命の存在に反する者であるが、ゾンビなどの死者死体の類よりも悪霊死霊である霊体のアンデッドは物質的に存在しないという点でもより魔物、この世の摂理に反する生き物としては大きなものである。別に魔物に限った話ではないが、生命は特殊能力を持つ者も存在する。この特殊能力はこの世の摂理に反する魔物に近い、ありえない物事であることも多い。公也の暴食もある意味ではこの特殊能力である。
ここで重要なのはアンデッド、霊体のアンデッドもその特殊能力を持つかもしれないということ。いや、そもそも霊体のアンデッドはその存在そのものが特殊能力に近いもの、特殊能力でその形態をとっているという状態なのかもしれないということだ。魔法もある種特殊能力に近い性質を持つかもしれない。そして、特殊能力同士をぶつけ合った場合、どうなるのか。エネルギーによってつくられた力、作用のぶつかり合い……それは両方の力のエネルギーを削り、その構成要素を破壊し最終的にその力の作用そのものを無効化するかもしれない。魔法によって霊体に攻撃が通用するのはつまりそういうことなのではないか。
「と、そんなふうに考えてみたが」
「私に言われても……あの二人にその推論を話してみたら? 喜んで聞くし、討論できるんじゃない?」
「……そうだな。ヴィラはあまりこの手のことは興味がないか」
「私はキイ様が楽しいのなら、それでいいの。ある程度はキイ様に関わることとして魔法に関して知っておきたくはあるし、少しはお話しできるくらいには学びたいけど、私自身の興味は特にないもの」
「はっきり言うな……まあ、ヴィラらしいところだけど」
公也以外に興味を向けない、興味を向けるのは公也に関わるような事象、そういう点は実にヴィローサらしい反応である。公也の思考に関しても、ヴィローサでは反応できない、討論、話し合いができない、そういう部分になるため、理解をしよう、話せるようになろう、そういう努力はするかもしれないが根本的にヴィローサには不向きな部分である。なのでそういうところは現在はロムニル達に任せるしかない。
「それで、もう全滅?」
「……とりあえず、近くには居ない。ヴィラの方で確認できるか?」
「夜だから暗くて見えないわ。でも、幽霊の類なら夜なら比較的見えやすいから……ちょっと飛んでみる」
「ああ、無理はしなくていい。暗い中飛んだら何かが襲ってきてもわからないかもしれないからな」
「そう? なら……やめておくね」
現在は夜。霊体のアンデッドが襲ってこれる時間、周囲は暗く闇に包まれている。そんな中でも活動できる生き物はいる。夜型、暗闇でも活動する生物はそれなりに多いだろう。そしてその中には空を飛び襲ってくる生き物もいて、ヴィローサのように空を飛ぶ小さな生き物であれば襲われる危険性も低くはない。まあ、毒を持つ生き物であるヴィローサが襲われたところでそこまで大きな問題にはならないかもしれないが……それで怪我をしたりすれば問題である。
「まあ、まだ何か来るようであればそれに対して対処すればいいだけだ」
「……そうね。でも、ずっと?」
「いや、さっき見張りが応援を呼びに行ってたわけだから……正規の冒険者を呼んでくるんじゃないか?」
「キイ様も正規の冒険者でしょ」
「依頼は受けてないからここには冒険者としているわけじゃないけどな。善意の魔法使いとしての仕事だ」
本来なら悪霊、死霊、霊体のアンデッドへの対処は魔法を使える人間がすべきものである。少なくともここの見張りで対処できるものではない。それゆえに魔法を使える冒険者を頼り、彼らに依頼をするのが一般的。公也はそういう意味では確かに魔法使い、魔法を使える冒険者として扱ってもいいが、しかし公也がここにいるのは公也が事前にアンデッドの脅威と危険を理解しており、それゆえに先んじて行動したからという理由がある。冒険者として依頼を受けたわけでも、この国に所属する魔法使いとしてでもなく、単純に善意の協力者としての立場だ。ある意味一番扱いに困るかもしれない。今は責任者としてこの場に残っているべき見張りもいない……最後の一人はヴィローサが追い出していたし。
「……夜も遅いのに、眠れない。お肌に悪い」
「先に寝ててもいいんだぞ?」
「やだ。キイ様と一緒寝るの。寝るのー!」
「…………ベッドは分けてるんだけどな」
いつもヴィローサは公也の寝ているところに勝手に入ってくる。大きさが違うのだから潰される危険もあるし、寝相次第では危ないことになりかねないのだが……まあ、ヴィローサとしては公也にのしかかられるくらいなら望む所なのだろう。特に公也の寝相が悪いということもないためか今の所問題にはなっていない。
「とりあえず、今は人を待つ。誰か来たらそっちに任せて俺たちは宿に戻る。そういう感じだ」
「わかったわ…………」
別にヴィローサは公也に付き合う必要性はない。そもそもヴィローサもある意味ではさっきこの場から追いやった見張りと同じで霊体のアンデッドに対しての攻撃手段はない。いや、ヴィローサの毒であれば霊体のアンデッドにも毒を発生させることはできる。ただ、そもそも幽霊、霊体のアンデッドに効く毒というものはない。精神の毒であれば多少影響はあるが、霊体の精神が毒に塗れたからと言って害のない存在になるかと言えば、むしろ余計に危険な悪霊として活動しかねない。なのでヴィローサは基本的にあまりその力を使わないほうがいい。まあ、ヴィローサがここにいるのは公也の傍にいることを望んでの物。その力を振るう必要性は本当に必要でない限りはないだろう。
ともかく、二人は霊体のアンデッドがこれ以上来るかどうかを注意しながら見張りのような活動を続け、応援として魔法を使える冒険者たちが来たところで後を任せ宿に戻って眠りについた。今回のアンデッドの襲来はそういった感じに終わったのである……今回は。その存在と能力を持っていることを知られた以上、何らかの接触がある可能性は高い。少なくとも何か悪霊の群体を相手にする動きに巻き込まれる可能性があるだろう。
※効果があるのを試してから考える疑問ではない気がする。本当に今更。
※魔法で一番有効なのは光、聖の魔法。もっとも聖ってなんぞやと突っ込みたい。霊体は光に弱いので日光を浴びせれば効果的なはず。魔法ならそれができるはず。まあ、本来の日光と単なる光はまた少し違うものと思われるが。魔法の日光も厳密な日光とはまた別だろう。成分、性質が同じなら同一というわけではない。概念的なものも含む可能性がある。
※ヴィローサは特に魔法に興味がないが主人公相手に話し合いできるなら少しは覚えるのもいいかも、と思っている。もっともその場合魔法についての話し合いになるだけでお話できるわけではないのでやっぱり微妙かな、とも思っている。




