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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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「うわああああああああああああああっ!!」


 悪霊の群体を退治に冒険者が出向き、その結果敗北して戻ってきて数日。それ以後も悪霊の群体への対応の話し合いはなされていた。自分たちでは手出しできない、勝ち目が薄いからと言って全くなにもしない、していないように見せるというのは道を封鎖せざるを得ない街側としても立場が悪い。すでに敗北した冒険者という被害があるのだからその被害への負の感情の払拭の意味でも動きを見せざるを得ない。しかし、実情としては何もできないため話し合いをしているという体裁であり、実際には何も建設的な意見はなく話は進んでいなかった。

 そんな首都側の対応を待つ時間稼ぎの話し合いが成されていた街にて、夜、冒険者の悲鳴が上がる。


「お前も…………死ね……」

「俺だけは嫌だ………………」

「連れていく……みんな…………」


 アンデッドの群れ……群れというにはまだそれほどの数ではないが、それでも十数体ほどのアンデッド。その一部は言葉を発するくらいに生前の意思が残っているが、その言葉は恨み言、あるいはアンデッドとしての本性、生者を死者へと引き込む呪いのような言葉である。アンデッドは多くの場合同族を作る性質があるが、その理由は様々、しかし大体の場合は死者が自分だけ死んでいることに納得がいかない例や生きていることを羨み妬みという例が多い。要はアンデッドは生者を殺して自分たちと同じにしたいから、ということになる。その結果が同族、アンデッドの増殖につながる。

 アンデッドが生者を殺せば確実にアンデッドになるわけではない。そもそも生者が死ねばアンデッドになること自体が本来ならば珍しいケースである。しかし、アンデッドが生者を殺した場合アンデッドになる可能性は生者が普通に死んだ場合にアンデッドになる可能性よりも飛躍的に上昇する。恨み辛みの問題か、あるいはアンデッドによる生者へのアンデッドになる性質の感染か、理由は不明にしてもともかくアンデッドに生者が殺されるのはあまりよくないということが事実として挙げられるだろう。


「アンデッドだ!」

「誰か対処を!」

「どうしろってんだよ!?」

「魔法を使える冒険者を呼び出せ!」

「夜中だぞ!? 寝てるに決まってる!」

「起こせよ! そこは!」


 アンデッドの襲来、それに対し動きはある。しかし、アンデッドはアンデッドでも今回街に向かってきたのは死霊、霊体のアンデッド。悪霊、死霊などと呼ばれるような肉体を持たない霊体のアンデッドには物理攻撃は通用せず、魔法による攻撃が有効である。悪霊の群体と違い今回はその数が少ないためまだやりやすくはあるが、それでもやはりそれなりに数がいる。そのうえ今は夜中、アンデッドの動きが活発で動きやすい時間であると同時に一般的な人間は睡眠をとっている時間である。当然ながら街にアンデッドが向かってきたことを知っている人間は少ない。そして魔法を使える人員はアンデッドの襲来を知っている人間にはいない。ゆえに、そういった能力を持つ冒険者を急いで招集しなければならなかった。


「うわっ、や、やべ! 逃げろ!」

「いや、逃げてる場合じゃないからなっ!?」

「ひいいいいいいいいいいいっ!」


 既にアンデッドは間近、彼らでは対抗できない。ゆえに逃げることを選ぶ人間もいた……というよりはそのほうが多い。アンデッドが来るまで見張りを続け、そのまま襲われ、命を奪われる……対抗手段がないのだからそうなってしまう。そうなるくらいなら、役目を放棄して逃げることを選ぶのは自分のためにも悪い手段ではないだろう。もちろん後で懲戒などがありうるかもしれないが命には代えられない。そもそもこんな状態でこの場に残る人間はそれこそ命がけの覚悟を決めている人間となるだろう。


「くそっ!」


 逃げ出した者の気持ちもわかる。しかしアンデッドに対抗しなければそれこそ襲われるのは街にいる人間である。たとえ対抗手段がなくとも、残りわずかな時間を稼ぐ。仲間が魔法を使える人間を呼んでくるまで。


「っ」

「アンデッド、それも霊体のアンデッド相手に人が残るのはいろんな意味で悪手なんだけどな」

「人間って馬鹿だから仕方ないと思うけど? あ、もちろんキイ様は馬鹿じゃないわ、天才だから!」

「持ち上げなくていいから……風よ邪気を祓いその身体を吹き飛ばせ」


 襲ってくるアンデッドを前に、恐怖で目を瞑る肉壁となる覚悟をしていた見張り……しかし、そこに何者かの声が降りかかる。そしてその声とともに周囲に吹き荒れる風。決して攻撃的なものではないが、しかしどこか体が揺ら分られるような感覚を伴う者だった。


「な、な、な……い、今のは!? いや、お前たちは!?」

「魔法使い」

「妖精」

「……応援が間に合ったのか?」

「いや、そういうわけじゃない。その応援に関しては冒険者ギルドの方に向かったよ。俺は別口だ。事前にこうなる可能性があるなと推測し、いざという時動けるように待機していただけだ」

「なに!? ど、どういうことだ!? アンデッドが襲ってくることを知ってたのか!?」

「アンデッドの生態について多少知識があれば、可能性として街にアンデッドが来る可能性はあると予測できる……まあ、可能性はそれなりに低い方なんだが。先日、悪霊の群体を倒しに冒険者が街を出て、それを失敗して戻ってきたことは知ってるよな?」

「ああ……」

「その結果死んだ冒険者がアンデッドになる可能性は決して低くない。それに数が数だから余計にアンデッドが生まれる可能性は高い。そしてその彼らが街に復讐に、アンデッドとして向かってくるかもしれない……そういうことだ」

「………………」

「アンデッドは生前の意思を持つケースもあるが、今回アンデッドが生まれる要因が悪霊、群体であるし、意思を持たない場合は本能的、生前の知識や記憶に由来した行動をすることも多い。そういう意味でもこっちに戻ってくる、戻ってアンデッドとして生者へ敵対的な活動をする可能性は高いと予想できた」

「そんな……」

「それよりも、まだいる。そっちを優先させてほしい」

「あ、ああ」

「はいはい。それじゃああなたはあっち。ここにいてもキイ様の邪魔になるだけだから。ほら、さっさと行きなさい」

「え……あ、はい」


 見張りはヴィローサにしっしっと街の方へと追いやられる。ヴィローサも毒気を出しての追いやりで本格的だ。実際いても公也の邪魔にしかならない、下手に霊体に襲われ公也の意思をそぞろにする可能性もあったのでいないほうがいいということだ。そもそも戦力にもならないし悪霊相手に肉壁にもならない。いる意味がないのだから役に立つ場所で活動しろ、ということである。


「行ったか?」

「ええ。一応見て回ってくる?」

「いや……今回は魔法を使うだけだからそこまで見られても問題はないな」

「そう。何かあったら、何でも言ってね」

「何かあるときには頼む」


 街を襲うために向かってくる霊体のアンデッドたちを相手に公也は魔法を使うだけだ。それゆえにそれほど周りの目を気にする必要性はない。できればその能力が通用するか、通用するならばどの程度通用するか試してみたくもあるが、今回はそこまで重要ではない。むしろ魔法の有効性の確認をしてみたいという気持ちの強さもある。そういう意味では強くもない有象無象の霊体のアンデッドが襲撃に向かってきたというのは公也としては都合がよかったと言えるのかもしれない。


※一般的な見張りの兵士に魔法を使える人材はいない。魔法を使える人材という時点で扱いが良くなるため。

※主人公は事前にこうなる可能性を予測していたので念のため警戒していた。そこに予想が当たり悪霊たちが来た形。さすがに街が襲われるのはあまり見過ごすことができない。滞在中だし。まあ、悪霊……霊体のアンデッド相手に魔法を試して実際の効果を確認したいという目的もあったかも。

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