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「冒険者たちの被害調べて来たっすよ」
「それなりに情報、集めてきた。正直言ってあんまり集まらなかったけど」
出向いたのが冒険者ということもあり、冒険者ギルドでは噂レベルでの情報から、明確に何が起きたか、どのような被害が出たのか正確な情報まで揃っている。もっともその情報に関してはある程度情報規制が成されている。街を治める偉い人や冒険者ギルドの偉い人としても、冒険者に多大な被害を出してしまったことを公にはしたくないだろう。悪霊退治がうまくいかず、被害のみが増えてしまったといのは。
とはいえ、人の口に戸は立てられない。下手をすれば尾ひれがついて情報が出回ってしまうことになる……かもしれないが、現状ではそこまで酷いことにはなっていない。ただ、やはり情報を抑えておくことはできていないようだ。その結果フーマルでも情報収集ができた。
「冒険者たちは魔法を使える冒険者を守る前衛と、魔法を使える冒険者の後衛でどうやら前衛多めで行ったらしいっす。だけど後衛の魔法で悪霊の群体に攻撃したけどほとんどダメージを与えられず、前衛が全く盾として役に立たず囮になった見たいっすね。別に望んで囮になったというか、盾にならなかったから囮になってしまったというかそんな感じらしいっすけど」
「魔法を付加した剣や盾、防具ならまだ悪霊を寄せ付けないことはできるかもしれないが……」
「霊体相手に物理的な防御は意味ないからね。でも、防ぐことはできなくて悪霊たちの注意を引いたようだね。だから盾にはならず囮になってしまったと」
「そういうことなんすか? 俺はよく知らないっすけど……で、前衛は全滅。攻撃が防げず仲間があっさり死んでパニックになったみたいで、そのまま後衛を守る役目もうまく果たせずよくわからないまま悪霊に殺されていった見たいっす。流石にその様子を見ていた後衛も魔法で攻撃している場合ではないと思ったみたいで。すぐに逃げる準備をしたみたいっすね。ただ、それで逃げ切れた冒険者は少ないっす。悪霊側が前衛を全滅させるほうが速くて、逃げるのが遅れて……でも先に何人かその場から離脱できたようで、魔法を使える冒険者は全滅してないっす。ただ、半分以下になったみたいっすけど……」
「魔法を使える冒険者が大きく減ったのは痛いわね……」
悪霊の群体を相手にすることを考慮した場合でも、今後この街における冒険者たちの冒険者業を行うという点においても、魔法という他と比べ特殊な技術を有する冒険者を失ったことは大きな痛手だろう。魔法は魔法を使える資質、魔法の才能と魔力がいる。魔法の才能はまだ比較的問題はないが、魔力だけはどうしても個人の資質が大きく影響する。魔力が足りていなければ魔法は使えない。それは絶対の物であり、ゆえに魔法はこの世界において魔法使いが使う技術として以上の発展が成されない。この世界の人間など多くの種族の大多数は便利に魔法を扱えるだけの魔力を持たないがゆえに。
それゆえに魔法を使える冒険者が減ったのはかなりの問題となる。もっとも、それ以上にこの街の冒険者の前衛が大きく減ったことの方が問題かもしれない。魔法を使える冒険者が減ったのは確かに大きな問題ではあるが、それ以上に前衛として出向いた冒険者は魔法を使える冒険者よりも多かった。そしてそれが全滅だ。つまり冒険者そのものが大きく減少する目にあっているということになる。これからこの街の冒険者ギルドに仕事を依頼する側は依頼を受ける冒険者の数が少なくなったことでかなり大変な状況になるだろう。冒険者ギルドも厳しい状況になる。冒険者は忙しくなるが、無理はさせられない。あちこち大きな影響が出るのに間違いない。
まあ、将来的なことを今言ったところで始まらない。
「ヴィラの方はどうだ?」
「とりあえず……悪霊の群体を相手にするのは今の所案が出ていない様子よ。今回の失敗のせいで提案した偉い人が責められていて、次の案を出すのも今回のことで出しにくい。今は首都側の動き次第、って考え見たいね……」
「悠長だな」
公也はヴィローサの報告を聞きそう言った。確かに彼らの考えは間違っていない。悪霊の群体が動きが遅くまっすぐ人里に向かうわけでなければある程度は放置して戦える人間に戦ってもらう、倒せる人員に倒してもらうのが一番と言えるわけである。わざわざ冒険者を集めて戦わせる必要はなかった。そもそも冒険者に悪霊退治のノウハウはほとんどないだろう。成功する可能性が見えていたとは思えない。ゆえに放置して待つのが街としては一番だったはずだ。
しかし、今はその考えが使えない。手を出したことで状況は変化している。
「どういうことっすか?」
「悪霊がこの街の人間を取り込んだのが大きな問題だな」
「……冒険者たちのアンデッド化、悪霊化ね」
「彼らはこの街の存在を知っている。冒険者である自分たちをアンデッド相手に放り出し殺したこの街の人間を恨んでいるかもしれない。そうでなくとも取り込んだ悪霊の群体の意思によってこちらに霊体が送られてくるかもしれない」
アンデッドの最大の問題である増える問題。今回大被害が出たことで確実にアンデッドの規模は増えている。問題は悪霊の群体として取り込まれているか、あるいはそれ単独で動いているかどうか。そして取り込まれている場合でも群体を動かすほどの意思、記憶が残っているかどうかも問題となるだろう。結局のところ現状では詳しくはわからない、と言ったところなのだが。
「……フーマル、夜は注意しておけ」
「え? なんでっすか?」
「アンデッドが動きを見せるのならその時間帯だからだ。ロムニル、リーリェの方も警戒はしておいてほしい」
「わかっているよ。まあ、僕たちの所にアンデッドがやってくる可能性は低いだろうけどね」
「どちらかというといざという時に動けるかどうかの方が重要じゃないかしら?」
「ああ。魔法使いでないと霊体のアンデッドへの対処は厳しいからね。確かに僕たちが動ける方がいいのか……」
基本的にアンデッドが動きを見せるのは夜。昼間はアンデッドは弱体化や浄化されてしまうため、動きにくい。よほどの暗闇、陰気の集まるような場所……墓場や洞窟などであればともかく、日の光の下ではその力を発揮できない。大量にアンデッドが集うと少々の日の光で動けなくなるということはない場合もあるが、それでも夜と昼では明確な差が出る。そして今回のことで動きを見せるアンデッドは夜に動くだろう。群体が来るのならともかく、単独で来るのならば確実に。
公也たちが襲われる可能性は低い。ただの旅人であり冒険者としても今回悪霊退治に出向いた冒険者とのかかわりはほぼない。それゆえに公也たちはアンデッドに襲われるような縁がない。だから安全ではあるが、世の中無差別に襲ってくる例もあるし被害を拡散拡大する場合もある。また今回の場合ネクロマンシーが関わっている可能性もある。そうであればその存在ゆえにどのようの動くかもわからない。ゆえに安心できる状況ではない……ということだ。
※この世界において冒険者は英雄譚にも出てくる職業。なので冒険者になる人間も多いし冒険者ギルドを利用する人間も多い。冒険者の数が少なくなると依頼を出している人間の仕事が滞る。数が大きく減るのは結構な痛手。
※悪霊が復讐をなしても別に成仏するわけではない。そもそもアンデッドはこの世界では魔物である。そのまま悪霊として活動し続ける。復讐ではなくただの凶悪な魔物として無差別に。なので関係ない相手でも被害が出ることは少なくないはず。




