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「師匠、正直言っていきなり連れてこられる身にもなってほしいと思うっすよ?」
「冒険者ギルドで所定の依頼は受けてるぞ?」
「いや、そういうことじゃないっすから……」
「なによフーマル。文句あるなら別についてこなくてもいいのよ? とっととでていったら?」
「いや、そういうことでもないっすからね!? いつも変わらず辛辣っすね!?」
ヴィローサとフーマルのいつものやり取りを挟みながら、公也たちはアルディーノたち、冒険者ではない魔法使いたちと一緒に魔物の出没する森の中に入り込んでいる。彼らの目的は魔法薬の素材となる植物類を増殖した魔物に荒らされないようにするため。そのために魔物を退治し対処するのが今回の行動内容となる。
「えっと、あの人たちはお客様ってことでいいっすか?」
「お客様?」
「いや、ついてくるだけで戦闘には参加しない、怪我をさせないようにするってやつっすね」
「……そういうものじゃないと思うが、一応聞いておくか」
冒険者という仕事をやっていると時々そういったお客様な依頼主というのが出てくることもある。依頼主であり別に参加する義務はないのに冒険者に伴い依頼に参加する存在である。大抵の場合そういった依頼主は敬遠される。何故なら依頼主が死ねば報酬は支払われないし、依頼主が傷ついたことで依頼を取り下げる、あるいは冒険者ギルドに文句を言ってきたりする。そのくせ依頼主は無駄に仕事に手を出したり口をはさんだりと冒険者の妨害をすることも多い。そのため冒険者ギルド側では依頼に依頼主が参加することに関してはできる限りしないように言うようになっている。もっとも、一部の貴族の依頼主なんかはそういった忠言を無視して参加することも多い。これがまた権力や報酬の金額の問題もあって不許可にできなかったりするので厄介だったりする。
今回はそういったものではない。依頼はそもそも冒険者ギルド側で依頼の邪魔になる魔物を退治するようにというもので魔法使いの依頼主が出したわけではない。そもそもアルディーノたちは別に公也たちの手を借りるつもりは最初はなかったのだから公也たちがそういった依頼を受けることを前提としたお客様であるというわけはないだろう。
「アルディーノ、そっちは冒険者じゃない普通の魔法使いだが、戦闘に参加するのか?」
「魔法使いは戦闘にも十分参加できるよ? まあ、昨今の魔法使いは前線には出てこなくて後ろから火力で打ち込むのが一般的だし、研究者の多くは実戦にはでないけどね。僕はそのあたり経験が違うから。まあ、ロムニルやリーリェはどうかなあ?」
「舐めるな。研究を行ううえでより性能の高い実践的な魔法を開発するには経験は必須だ」
「そうね。まあ、それでも今回のようなことに参加することは早々なかったけど。あまり積極的には打って出ないからそのあたりは安心して」
「……ということらしいよ?」
「微妙に安心できないっすね……」
「まあ、自分の身くらいは自分で守れる。別に依頼とアルディーノ達が関係あるわけじゃないんだからそこまで気にする必要はないと思うぞ。最悪死んだとしても問題はない」
割と辛辣だが、彼らは彼らで自分たちの目的や理由があって今回の戦いに挑むつもりなのだからそのあたりのことは基本的に自己責任になるだろう。三人の存在は公也たちが受けた依頼と関わりがあるということもない。つまり生死問わず、生きていようとも死んでいようとも関係のない相手であるということだ。まあ、さすがにそれなりに見知った相手なのだから死んでもいいというのは少し言葉に容赦がないと言うべきかもしれないが。
「はは……きついこと言うね」
「まあ、それはどうでもいいな。重要なのは今回のことが魔法の実践につながること」
「魔法薬を作る材料を守れればそれでいいわ」
「君たちも少しは気にしようよ……これだから研究馬鹿は……」
自分も研究者であることを棚上げしているアルディーノである。
「ところで、三人とも魔法使いなんだよな? 俺やフーマルのように剣を使う、ということもない。魔法だと今回守るつもりの素材も巻き込んだりはしないのか?」
公也が気にしたのは自分も気を使った魔法の使い方。魔法は威力が高く広範囲であることが多い。土、水、風、火、いわゆる四属性とも呼ばれるこれらの属性の魔法は使用されることも多いが、これらはどうしても周囲への影響も存在する。つまり威力が高く広範囲であるため周りを巻き込み破壊する可能性が高い。火などはわかりやすく草木に害悪だろう。特に魔法は本来なら燃えないようなものでも燃やすことが可能になる。土も物理的に草木に被害を与えるし、風も折ったり斬り飛ばしたり、水も氷などは草木に悪影響となるだろう。そういう点において魔法はこの地に存在する魔法薬の素材に害を与える可能性が高い。だから公也はその影響を考え使う魔法を選択し、あくまで相手の動きを捕え阻害するものを使った。
しかし、ここにいる三人にそれができるかどうか怪しい……どころか、ロムニルは魔法の実践とも言っている。つまり魔法を積極的に、使おうと考えているわけである。そうなると周囲への被害、素材への被害が酷いことになるのではないだろうかと考えられるのである。そんな公也の心配であるが、アルディーノは笑って否定する。
「ああ、そこは問題ないよ。そもそもロムニルたちもずっと依頼を出して集めさせるばかりじゃないんだ。これでも一応フィールドワークをしている人間だよ。僕も一緒に参加したこともあるしね。その時に素材に被害を与えない魔法を教えたりしたものさ。だから問題ないよ…………問題ないよね?」
アルディーノもそういった部分はちゃんと考えている。ただ、そのことをロムニルやリーリェが考慮していたかについてはアルディーノも分かったものではない。アルディーノがよく研究馬鹿というように、彼らの専門は研究でありそして研究以外のことに興味は薄い。リーリェはまだ他のことを考慮してくれるが、ロムニルは正直言って怪しいかもしれない。そう思ってアルディーノは二人に聞く。
「見くびるな。一度教えられたことを忘れるほど頭が悪いとでも?」
「そのあたりは問題ないわよ。何かあったら殴ってでも止めるから」
「……まあ、たぶん大丈夫だよ」
「心配だな……」
最悪アルディーノか公也がなんとか止めるしかない。そう思う次第である。そんなふうに思っていると、がさりと森の奥から現れる影、魔物の姿。
「来たね。あれだ」
「……前にも見たやつらだな」
公也も依頼の素材集めの時に見たことのある存在。例の魔物である。
「どう止める?」
「され。ではまず僕から行こうか。鋭き棘よ彼の者の手足を貫き踏みしめる彼の地に縫い留めよ、アースニードル!」
ざずん、と土が盛り上がり針のようになり貫く。それは縦に一直線に伸びる。他の魔法のように周囲に被害を与えることはなく、一定の範囲に存在する地面を踏みしめた存在を貫く針を作る魔法。作用自体が動物を対象とするものであり、植物には害がない。上に伸びるゆえに踏みしめた動物のみを対象にする。それなりに使いやすい魔法であると言える。
「どうかな?」
「よし、動きがとまれば後は首を落とせばいいな」
「あ、近づくのはダメだよ? 魔法の効果がなくならないと近づくことはできないからね」
「動き止めた意味があるっすかそれ!?」
ただ、魔法自体は融通が利かない。踏みしめた者に対し発動するため敵も味方も関係がない。動きは止められるがそれだけである。あと、硬い敵には効果がないことも多い。そこは相手で取捨選択をするべき点だろう。
「なに、そこは任せるがいい」
アルディーノの次はロムニルが魔法を使うようだ。ただ、公也とアルディーノは少し不安そうな表情でそれを見つめているが。
※ロムニルさん口調変わってませんか? 口調管理ミス……のちに理由付けされる。




