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「それで精霊に関してはそれでいいとして。エルフの村との関係構築に関してなんだが」
「…………我らとしてはそれは遠慮したい。そちらの娘にもそう伝えた」
「……そうか。理由を聞いても?」
エルフの村はアンデールとの関係性は特にこれといって持つつもりはない、そういう意見らしい。それ自体は別に文句を言えるものでもない。彼らには事情があり、その事情からアンデールとつながりを持てない、エルフと人間の関係が悪い以上迂闊なことはできない、いろいろな理由はある。それでも彼らとしても断りにくくはあるだろう。一応居座った精霊を村から引きはがし持っていき監督する、というのだからエルフの村としては精霊の存在による不安がなくなるわけである。まあそれでも公也たちの管理が本当にうまくいくか、やり切れるかはわからないにしても、自分たちにはできないことをしてくれている。実際成果は出ている。その成果を対価に関係構築を要求されれば断るのは難しいだろう。気分的にも成果を対価に要求しなくとも要求は断りづらい。しかしエルフたちは断った。その理由は何か?
「お前たちの住んでいる場所は遠いのだろう。ならばそもそも往来が難しい。それに我らの村には特別お前たちにくれてやれるようなものもない。もともと人間との関係はよくはない。たまに来る商人程度ならまだ多少気を楽に接することができるかもしれんがそれは個人だからだ。国や集団を相手にするとなると我らとしては途端に難しくなる。数の優位は人間の方が上なのだからな」
結局のところエルフとの関係構築はどうしてもエルフという種と人間という種の関係が大きく問題となる。今回のことは確かにエルフの村にとっては結構大きな案件であり、それを解決してくれたことに多大な感謝はするが、かといってそれを理由に気を許せるかといえばまだそこまででもない。そしてそれを成したは人間の国の王だという。国の王ともなればつまり関係は人間の国を相手するものとなる。エルフとしてはその関係性が大きなもの、大規模なものとなってしまう。そうなった場合、結構な不安がある。ただの一つの村が国を相手するというのは誰が考えても難しい。やりづらい。それに人間との関係が結ばれた場合のエルフ側の感情、対応もどうなるか不明だ。
個人ならば多少どうにかなる。最悪その個人をどうにかすればある程度どうにでもなるというのもあるからだ。それに相手のことを知るのは個人であればやりやすい。話をして相手の性格、人格を把握したり、その行動を観察して嘘があるかどうかを把握したり、森を行くその個人を尾行して本当にその個人が正しいのかどうかを調べたり。しかし国ともなると難しいだろう。そもそもエルフの村からエルフを送るのも難しい。それが遠方の国となれば猶更だ。公也たちはエルフの村に一方的に来られるのに対してエルフたちは公也を追う手段、相手を調べる手段がない。公也自体エルフたちにとっては脅威に感じるほどの魔法を使えるくらいの強さを持っており不安なのに、そこに個のエルフの村にあっさり来られる移動手段もある。竜、妖精、アンデールにおいて公也の従える存在の内実をすれば正直関わりを持ちたくないと思うだろう。
そして何より取引的な部分における問題。エルフたちは普段普通に生活するだけで精いっぱいというか、物資の備蓄はあるが外に輸出できるだけの資源というものはほとんどない。一応商人との取引は行っているがそれだって過剰ではない。エルフの村に来るだけで商人としてはなかなか大変なものだ。物資を持ってくるにしてもそれは大量に取引するための物ではなく、いくらか価値のあるものを購入するためにエルフにとって足らない、必要とするいくらかの嗜好品を持ってくる、といった感じだ。エルフたちだって全く取引できないわけではなく、自分たちで得た価値のあるものを取引することもある。またエルフ製の品物というもののも商品にはなりうるだろう。長年いろいろやってきたエルフは長期間の活動で作成したなかなか独特な品も作れる。しかし、それは国を相手しての大規模な取引ができるものではない。まあ公也たちとしても取引しようとなったら公也たちが輸出する、取引する品物となるとちょっと困っただろう。
結局公也たちと取引するとなると彼らにとってもあまりよくないというか、困ってしまうためやらない、そういう判断だ。公也たちも取引のために頻繁に訪れるということは難しい。
「……別に俺は商取引を目的に関係を構築したいというわけじゃないんだが」
「ならばなんだと?」
「単純に協力関係というか、仲良くなっておきたい、何かあった時に手助けしたり、その逆で手を借りたり、そんな感じの関係性だ」
「…………それでも難しいかもしれん。今回は精霊という我らでもどうしようもない脅威であった。しかし一応困ってはいたがまだ対応はできていた。お前が来て結果的に精霊はこの地から離れ我らは助かるという話になったが、それは我らから頼んだものではない。話によればアルディーノがお前たちを連れてきたということだが、我らがアルディーノに頼んで力あるものを連れてきてもらいその力を借りたいというわけではなくアルディーノが好き勝手にした結果だ。その点では我らはお前が好き勝手にしたため助かったに過ぎない、とも考えられる。もちろん本気でそう思っているわけではない。助けられたという事実には変わりないのだから。だが……我らが頼んだわけでもないのもまた事実だ。エルフ、アルディーノに頼まれたにしても。我らと人間の関係は複雑だ。それゆえに簡単に仲良くなろう、といってもなれるものでもない。お互いの気持ちをすり合わせるにしても、今回のことの解決だけでは足りぬし、そもそもそれを理由に関係をよくするというのも話は違うだろう」
仲良くなるということは別にエルフの長も絶対的に否定することではないものの、エルフの持つ人間への感情ゆえにエルフ側が人間に歩み寄るのはかなり難しい。エルフは長く生きる。その間に人間といざこざを起こし、その記憶を持つというエルフは少なくない。決して悪いことばかりではないのだが、悪いことの方が多いというエルフの方が多いだろう。あるいは悪い方の記憶が印象に残っているエルフの方が。人間が問題を解決しても、だから人間を許せる、だから人間と仲良くできる、そんなことはない。多少人間に対してよく思う感情ができても悪いと思う感情を抑えられるほどではないだろう。
そもそもエルフの村に起きている問題を解決したのだから私たちと仲良くしましょう、というのは話の筋が違うような気もする。歩み寄りのきっかけにはできても、それを理由にするには方向性が違うだろう。まあ、それを対価にしてどうしてもというわけではないのでそこまででもないかもしれないが、結局お互い仲良くなるには時間をかけて接触し徐々に関係を作っていくしかない。一足飛び、急ぎ足でどうにかしようという方が間違っているのである。そうして関係をつくって人間が来るようになっても、人間との関係がよくなるわけではないだろう。しこりを抱えたまま関係を作ってしまえばいずれは捻じれて瓦解しかねない。
「我らと関係を作りたいのであれば、時間をかけてゆっくりと仲良くなればいい。ああ、人間には難しいか」
「そうだな……人間の寿命を考えるとゆっくり、というのは難しいかもな。とはいえ、確かに少々無理やりすぎるだろうし、無理に関係を作らなければならないというわけでもないから仕方ないと思う」
公也としても言わんとしていることは理解できる。そもそもエルフとの関係を構築できればアンデールはほかの国にはないアドバンデージを持てるだろう、という少し欲に塗れた理由での接触でもあった。本心からエルフと仲良くなりたい、本気でエルフと仲良くなることだけを目的にしていればまだ話は違ったかもしれない。まあその時は国としての関係ではなく個人的な関係となっただろう。
まあ、今回は縁がなかった……また困ったことがあればその時にもう一度、あるいは今後もじっくりゆっくりとエルフたちと付き合っていく、みたいな形でやっていけばいずれは何とかなるかもしれない。とはいえ、公也としては今回のことはエルフとの関係構築も目的にはあったものの、精霊の確保とそれに伴う精霊の調査、情報収集が目的にはあった。片方はうまくいかずとももう片方がうまくいったのであれば、とりあえず問題はない。そう思うところであった。




