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「しかしご主人様、よく生きていた……いえ、正確には蘇ったのです? いえ、正確には死んだけど死んでいない状態だったというのが正しいのです?」
「そこを俺に訊ねられてもちょっとよくわからないんだけどな……」
公也が生きていた理由、というのは公也自身よくわからない。死んではいなかった、というわけではなく、死んでいたのは確かなのである。死んだがそのあと蘇った、というのが公也としては感覚的に正しい。しかりメルシーネは死んだが死んでいない状態だった、と言っている。メルシーネと公也では感覚的な違いがある。仮に公也が一度死んでいれば……例えばペティエット、城魔は一時的に主不在ということで公也とのつながりを失っていたはずだ。メルシーネもまた仕え間としてあるに殉ずるところがあり、主が死ねばそれを明確に感じるだろう。しかしメルシーネはそれを感じず、結果として公也が生きているという確信はあった。しかし実際死んでいたのも事実ではあり、それに対する弔い合戦は行うつもりだった。そのあたり彼女の感覚はよくわからない。
公也は生死の感覚は一般的な人間と同じだ。頭部を破壊されたり心臓を貫かれたり、普通に死ぬ条件を満たせば死ぬ。しかしそれは肉体的な死でしかない。公也という存在は膨大な生命力を有し、あまたの生命を食らってきた結果その生と死を己の内に秘めている。これが死が滅びとなる性質の死であれば、公也といえどかなり厄介なこととなっただろう。というよりそれだとメルシーネも対抗することはできなかった。武器などの持ち物が死んでしまった結果そのまま塵となり崩れ消えただろう。公也も完全に肉体を失えば厄介なことになっただろう。まあ補填のおかげでそれはないと思われるが。
公也が迎えた死は肉体的な死、肉体に依存する死。死んだ肉体が生きた肉体に補填されれば蘇る、という話だ。だから公也はあっさり復帰できたわけである。それでも復帰には時間がかかったわけであるが。一応公也にも死はあるが、それは公也の持つ生命力すべてを奪う、今まで食らい内包した肉体構成をすべて奪う、そのような死でなければならない。ただの一度死を迎えさせるだけの死では殺しきれないのである。
「でもよかったわ。キイ様が死んでたら……世界を滅ぼしてたかも」
「比喩で済まないのがヴィローサの怖いところなのですね」
「さすがにそこまでされると俺としても責任を感じるんだが……」
「キイ様のいない世界なんていらないし、存在していても意味ないし……」
「簡単には死ねないのですよご主人様」
「………………まあ、死ぬ気はないけど」
「今回あっさり死んだ人が言う言葉ではないのです」
「ぐうの音も出ません」
今回公也は実際簡単に殺されている。殺しても死なないので多少殺されても問題ないが、実際死んでしばらく行動できないとか厄介なことになる。それに死亡認定出された後によみがえってしまえば今度はアンデッドに認定されかねない。実際アルディーノ相手にアンデットとして認識される危険性はあっただろう。一度死んだ事例は公也の場合ハーティアであったが、あれはまだ誤魔化しのきく範囲、そこまで問題ない範囲だったからまだよかったといえる。今回みたいに死んだ状態を見せびらかすような状況で死なれるのは困る、という話だ。
「しかし、キミヤ君が死んでなかったのはよかったよ、いろいろな意味で」
「エルフ側としては問題があった原因として容赦なく滅ぼしたかもしれないですね、ヴィローサが」
「…………あの戦闘の勢いを見ていると本当にしそうだなあ、彼女」
「別にエルフなんてついででしょ。精霊を殺すついで」
「……本当にしたっぽいね」
今回の件でもやはりヴィローサの危うさは目に見える。
「とりあえず、彼女は大人しくなったのかい?」
「これから話し合いだ……エルフ側は一緒に話し合いしたほうがいいか?」
「どうかな……どう思う?」
「…………迷惑はいろいろ被ったが、今のところエルフの仲間に被害はない」
「その補填さえどうにかすると約束してもらえるなら……」
「精霊にそういうことを期待されても困るのです。とりあえず現状いられるのが迷惑である、というのならそれをどうにかできるのが最良ではないのです? 補填とかはまた別に考えればいいのです」
「む…………」
「しかし、エルフは殺されていないのか。ってことは彼女に殺されたのは俺だけなのか……」
死の精霊がエルフの村に居ついていたのに、なぜかエルフは殺されていない。いや、なぜかというほどでもないだろう。単純にエルフがうまく精霊のご機嫌伺いをしてそれがうまくいっていたから誰も彼女の力の影響を受けることがなかった。しかし彼女がいることによる損害はないわけではなく、また周囲に対しての影響もあった。そういう点では彼女がいることの厄介さはあった。しかし死者はいなかった。彼女が……少なくともこの地域で振るった死の力によって死んだ人間、人種は公也だけである。そういう点では公也以外の被害者がいないというのは少しありがたいところか。
「そこは気にしないほうがいいのです。今は生きているのですから」
「……そうだな。そんなことよりも話し合いをどうするかか」
「エルフは自分の村からいなくなる相手、ということで補填とか気にしないのであれば気にする意味、一緒に話し合いをする意味もないのですよ。エルフの村は他所とのかかわりを持つ気はないのですよね」
「……そうだ」
「となると、彼女が村を離れるなら確かにエルフにとっては他所の存在、他所の出来事となるから関係ないか」
「ああ、ぼくは別だからね」
「アルディーノは……まあ、しかたないか。エルフの村のほうには……俺のところ、アンデールとの関係、ハルティーアのほうに国のつながりとかの関係で任せたほうがいいかな」
アルディーノを交え、公也たちは死の精霊プルートとの話し合い。そして精霊の問題はとりあえず一応の決着、一段落ついたとみてハルティーアたちを呼んできてそちらはエルフの村と今回の問題解決についての話と今後の付き合いに関しての話し合い。仮にエルフとの関係がうまくいかずとも問題解決はしたわけであるし、死の精霊を回収、その調査ができれば公也たちにはそれでいい。ハルティーアたちにとってはエルフとの関係をうまく構築できなかったら不満かもしれないが、それはうまくいけばいい程度のものでしかなく絶対にどうにかしなければならないものでもない。とりあえず一番の問題として考えられていた精霊の問題はどうにかできた。今はそれでいいのである。




