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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二十二章 冥精
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「なんで生きてるのよ!? 確かにあなたは殺したはずでしょ!?」


 動いている公也の姿を見てプルートは驚きのまま声を上げる。まあ自分が確かに殺したはずの相手が生きて動いていれば驚くのも無理はない。特に彼女の場合、物理的な死などとは違う死の概念に近い代物。彼女の力の影響を受ければたとえどんな相手でも、力でも物でも命でも、確実に死に向かわせられる。


「アンデッド……じゃないわね!? さすがにアンデッドと普通に生きている奴の違いは判るわ! 死の性質が違う! そこの女も、そこの妖精も、あっちのエルフたちも、それぞれで死の形は違う、アンデッドは特に死から外れているがゆえにその違いははっきり分かる! だけど、あなたは……どう見ても人間でしかない! なのにどうして生きているのよ! おかしいじゃないの!?」


 妖精であるヴィローサが様々な毒の性質を見極められるように、精霊である彼女もまたその能力による性質の差異を見極められる。生物には様々な生命、死の形があり、死を与えることのできる彼女はそのさまざまな形を見極められる。人間には人間の、妖精には妖精の、仕え魔には仕え魔の、それぞれの死の形が存在する。どんな生物も死を迎える、それには変わりがない。唯一違うとすればアンデッド、アンデッドは生死の摂理から外れた独特な魔物である。彼らの場合死の精霊では死を与えることができない対象となっている。そういう点では死の精霊が操ることができるのは自然の摂理としての生死である。


「まあ、そこは特殊能力のおかげかな」

「特殊能力? 特殊能力で死を回避したと? いえ、それはないわ。死んでいたことは事実、でなければあなたに対して警戒していておかしくない。つまりあなたは死んでからよみがえった、死んでないアンデッドでもない状態に! どういことなのかしら!」

「だから特殊能力だろう。死んだあと蘇生できるような」

「そんなものがあるはずないわ! いくら特殊能力だからって異常すぎる!」

「実際あるんだからどうでもいいでしょ! だいたいキイ様を殺そうとした……殺した相手なのにそんなこと気にする必要があるわけ!」

「…………そうね、そうだわ。そもそも殺せばいいんだもの。ええ、一度殺しても死なないならもう一度殺せばいいだけよね?」


 ゆらりとプルートがその力を出す。今現在ヴィローサによる攻撃を受ける必要はないため消耗がなく、メルシーネも攻撃を加えていない状態であるため扱えるエネルギーは結構あり、少しの溜めでその力を発動できる。今度こそ公也を殺せばいい、公也でダメならメルシーネ、それもダメそうならヴィローサを狙えばいい。もちろんそれをやり切る前に公也たちが対応してくる可能性はあるが、一人でも殺せれば少しはマシになる。そう考えての物だ。

 周囲に死の気配が満ちる。プルートの扱う力は一度にそのすべてを放出し、発揮するということはできず多少のため、満たす必要があるためどうしてもすぐに使えない。しかしため込まれていることもあり、少しの時間で使えるようになる、すぐ満たすことができる。これはヴィローサの攻撃に対する防御に力を回していないのもある。


「あ! また」

「ヴィラ。攻撃はしなくていいから」

「え? でも」

「ご主人様、私の出番はあるのです?」

「無理に攻撃はしなくていい。これで……とりあえずどうなるか様子見をする」


 そういって公也は腕を振るう。公也の特殊能力は死んでも生き返る、というものではなく<暴食>。すべてを食らう力。公也の食らう対象は公也の認識に依存する。しかし認識していなくても対象にはできる。例えばプルートの振るう死の力、それを対象にすれば死の力のみを食らえる。これは根源的な能力、操る力ではなく発揮されようとしている力に限る。しかしこの場においてはプルートが振るう死の力は効果を発揮する暗くし黒く覆うそれではなく、周囲に満たす死の力もまた対象になる。つまりプルートが一度に、一気にその力を使えず、周囲にその力を満たさなければ死の力を発揮できないというのであれば、その力を食らうことで消失させれば彼女は無力化されてしまう。


「っ!? な、なんで!? これじゃあ……」

「キイ様! 今すぐ殺そう! これなら殺せるよ!」

「いや、それは主目的じゃないから」

「そうなのですね」

「ならどうするの?」

「…………とりあえず、まず話し合いから」

「でも触れれば殺される危険はあるのです。確実に殺す手段としてはその力を発揮することになるですけど、力自体はいつでも発揮できるのです。触れただけでも力を発揮できる、となるとちょっと危険なのですよ」


 公也を殺したように対象を殺すための攻撃としては、その力を発揮して周囲を満たさなければいけない。しかしヴィローサの攻撃に対する防御のように、自分を覆い守る死の力もある。そちらは攻撃的なものと違い死に導くわけではないが、触れるものに死を与え終わらせる力である。それと攻撃に使う力はどう違うのか、というのが疑問だが。まあ、違うのだろういろいろと。死に安さとか、死に導く力の頻度とか。防御に使う死の力もいきなり殺せるわけではないし、触れた部分以上の部分への作用はなかなかしにくい。直接触れてそれが相手を侵食し、時間をかけて効果を発揮する、みたいな感じだろうか。頻度と触れる範囲、それによる効果の強さの変化。確実に殺せないなら使いづらいかもしれない。だからこそ場に満たし一気に発揮することで確殺する、という感じになるのだろう。


「まあ、そこは俺がどうにかするということで」

「……また死ぬかもしれないですけど」

「…………そうだな、それはそこの彼女次第だろう」


 公也はプルートに視線を向ける。


「君の死の力、操る死の力は消し去ることができる。相手を容易に殺すことはできない。でも、その力を操れるということ自体危険なことだ。できれば使わないでいてもらいたいところだけど」

「それを私が守る意味はあるのかしら?」

「まず話し合いでいろいろ問題の解決を済ませたいと思う。それにうなずいてほしい。でなけば……無理やり君をどうにかすることになると思うけど?」

「………………まあ私も痛いのとかは嫌だけど」


 殺されないにしても物理的にどうにかされるのは耐えられるにしても嫌だ。肉体的には問題ないにしてもあまり経験したくはないものだろう。


「俺の力で君の死の力を消せる……消せるのはその力だけじゃなく、その体にも及ぼせる。腕とか足とか、消されたくはないよな?」

「それ脅しのつもり?」

「脅しは脅しだけど、事実でもある。どうする? そちらの判断次第だが」

「…………………………」


 流石に公也の発言は少々横暴というか一方的だ。しかしプルート側には自分の死の力を発揮できない時点で選択肢はない。


「わかったわ。大人しく従う。ああ、でも悪いことをしたり、私に何かしようとかそういうのは受け付けないからね?」

「まず話し合いから、とりあえずどうするかを決めてからにしたいから……別にそういう理由でも目的でもないし」


 とりあえずプルートのほうは話し合いに応じた。後は今後の会話でどうするかを決めるだけである。




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