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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二十二章 冥精
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「想像以上に厄介ね」


 プルートがヴィローサとメルシーネを相手にしての感想がこれである。

 現在ヴィローサはその毒を操る力を用いてプルートに攻撃し、そこにメルシーネが公也の持っていた件を用いて襲い掛かり攻撃を加えている。プルートは死の精霊、操る力は死の力。しかしその死の力はある程度その力の行使に予兆があり、また概念的に死を与えるのではなく何らかの力に相手を浸すことで死を与える、公也に対して使われた力の使い方、影響性質からそういった感じに推測できるものだ。プルートはうっすらその力で自分を覆っている。自分を襲う力に対して対抗するための防御膜としての性質のあるものだ。魔法など特殊な力はその力の形、性質上死を迎えれば効果を失い霧散する。突如相手の体内に発生させる、空間を指定するタイプの力は厄介であるが、ヴィローサのようなタイプであればある程度はどうにかなる。ヴィローサの力の場合は相手の体内でも発生させられるが、自身の領域として自分の力が及ぶからであり、空間的なつながり、自然的なつながりがなければ難しい。完全に隔離された空間にはヴィローサもなかなかその力が届かない。プルートの場合己の死の力による干渉の遮断……厳密には干渉する力を殺しているわけだが、それにより力が届かない。まあ体内に発生させた毒も彼女の死の力で殺せばその性質を失う可能性は高い。物理的に毒としての死を迎えさせることで。

 しかしその力も際限がないわけではない。ヴィローサもそうだが自然の化身としての性質のある妖精や精霊は基本的にあまり力を使うことによる消耗は考えなくていい。扱っている力が自然、この世界によるものであり自分自身の力を使うからではないというのが大きい。しかし一応精神力、意思力というような力を扱うことによる本人への負荷はないわけではない。まあ今回はそこに関してはさておくにして。問題は出力、一度に使える力の上限となる。

 いくら無尽蔵に力があるとしても、その無尽蔵の力すべてを使えるわけではない。本人の扱える力の量の限度がある。死の力を攻撃に使うには死の力を防御に回す余裕が薄くなる。総出力の関係上安全のために死の力を回してしまうと死の力による攻撃はできなくなるか、溜めがかなり長くなる。そのためメルシーネの攻撃に対しては自分自身の力で対抗しなければならない。

 精霊は確かに強いが、その強さの大部分は己の持つ力のおかげである部分が大きい。一応力を自身の強化に回すことにより強くはなるが、生物的な形態の限界は存在する。人の姿をしていればその力は人の持ち得る力か大きく離れるということはなく、いくら鍛えても素手で鉄を引き裂くとかそういうことはできない、みたいな程度の強さになる。とはいえ、それでも上位の冒険者が持ち得る身体能力程度の力は出せる。ふーまるよりは強い、くらいな。これがもっと自然的、火や水の精霊みたいなものであれば熱量の高い火であったり、密度の高い水とかいろいろやりようはあるがプルートは人の姿に固定されているためあまり高くはできない。

 その死の力による防御の上からメルシーネが攻撃しているが、武器を用いてであればその死の性質に直で曝されることがない。プルートが放つ死の力に対してはメルシーネはしっかりよけているので大きな問題はない。防御に回している死の力に関してはヴィローサが消耗させているのもあるが、武器を用いてであれば武器が死ぬだけで済む。武器が死ぬとはどういうことか、魔法など力が死ぬのと違うのか、とかいろいろ疑問はあるかもしれない。魔法の場合その性質上死ねば終わり、終わりによる無産があるわけだが、物質的なものの場合その性質は少し変わる。毒などの場合は毒として持ち得る性質も死に、物質的には存在するが無効化されている、みたいな形になる。では武器、例えば剣などはどうか。これは毒でもいったが物質的にはそのまま性質が変わらない、ということになる。つまり武器として使える剣は剣としてその性質を全うする。なので問題なく剣による攻撃ができるということだ。剣がバラバラになるとか、刃こぼれするとか、剣としての性質を失い斬れなくなるとかそんなことはない。

 これは剣の生命は死んでいるが、剣の死体は残っているから、という感じになる。仮に剣が魔法の力を秘めた剣とか特殊な力のあるものの場合、その力は失われる。また一度死んだ剣はそれから先成長しない。剣の成長とは何か、と疑問に思うところかもしれないが、道具や武器にも使われれば使われるほど変化はある。それはあくまで使うことによる自然的な変化かもしれないが、それは武器、防具、道具の経験として、その物の生によって得られたもの、変化したもの、成長したものとなる。それまでのそれらは失われ、これからのそれらも失われる。それがプルートによる死の力による武器などへの影響だ。


「ああもう! 殴ってこられるとすごくやりづらい! 力も使いづらいし!」

「あたりまえなのです! まともに力を使わせればこっちは危ないのです!」


 基本的にメルシーネが一方的に殴りプルートがそれを何とか防御する、というのが現状だ。肉体的には曖昧で一応多少攻撃を受ける程度は何とかなるのだがそれでも痛いものは痛い。力を溜めメルシーネに死の力を振るうこともあるが、メルシーネは避けて対処している。流石に死の力を受ければメルシーネとて死ぬ。




「しかし困ったもんだ……」

「困った、じゃすまないぞ。どうするんだ?」

「精霊が暴れている……いや、戦えているが……」


 見守っているエルフたちは困った様子だ。とはいえ、アルディーノとエルフの村のエルフでは困ったことが違う。


「いや、それも困った話だけど、まさかキミヤ君が殺されるとは……」

「ただの人間だろう。死んだところで大きな問題はあるまい」

「ああ、アルディーノの知り合いだったから確かに説明には困るか?」

「…………彼、一国の王様なんだよ。信じられないかもしれないけど」

「……………………なんだと?」


 公也の最大の問題はやはりアンデールの王であるという点。アンデールの王である公也がいなくなればアンデールの地のことで大きな問題となる。特に関係三国にとっては。また公也が持ち得るもろもろの財産、それ以外の魔物関連の問題もまた。妖精境だって大きな問題となり得る部分だろう。そもそも王がエルフを助けに行ったら死んだ、とかエルフ側にとっても問題ではないだろうか。扱いに困る、という話だ。


「ど、どうする!? さすがにこれを放置するわけにも……」

「死んだことを隠すのはどうだ!?」

「いや、彼以外にもあそこで戦っている二人もいるし、来ているだけで言えばほかにもいるんだ。精霊の問題を解決してから来る予定で……」

「くそっ、どうするんだよ!?」

「…………事実として死んだことは仕方がない。あの精霊にすべての罪をかぶってもらうしかあるまい。そもそもわれらが悪いわけでもないのだから」

「それは…………それしかないか」


 事実は事実でそれは変えようがない。そして別にエルフがそのことに関する責を背負う必要はない。全部プルートにおしつければいい。まあ実際にやったのはプルートだから間違ってもいないし。


「でも、実際死なれたとなると困る……ん?」


 アンデールの魔物たちに関しても公也の許可なしは難しいだろう。公也の監視下でなければメルシーネの調査もできなさそうだ。そういう点でもアルディーノにとっては公也に死なれたら困るわけなのだが……と、そんなことを考えていると、目の端に動きが見える。それは公也の肉体の動きだった。


「え?」


 ぴくぴく、と動き、公也の肉体は動き出した。確かにそれは死んだはずだったのだが。まさかアンデッドになったとでもいうのだろうか。




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