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「魔法を使える人間は、単純に使えるというだけならそこまで少なくはない。まあ、魔力を持たない人間はいないというくらいだし、少ない魔力でも魔法に似た事象を起こす事例もあるからね。ともかく魔法を使うだけなら魔法使いでなくともたくさんいるわけだ」
「確かに。冒険者だと普通に魔法を使う冒険者はいるな」
「でも、そういう人たちのことを"魔法使い"と言ったりするかな? 基本的には言わない。彼らは冒険者だ。魔法使いじゃない。まあ、魔法使いとして見られることもないわけではないけど、僕たち正しい魔法使いからは魔法使いとしてはみられない。"魔法を使う冒険者"としてしか見られないね」
魔法使いというのは魔法を使えるから魔法使いというわけではない。冒険者と同じで、言うなれば職業的なそれに近い。魔法を使うことができれば魔法使いと呼ばれるのであればこの世界における多くの人間は魔法使い認定される。このオーリッタムのような魔法使いが集まる都市、という場所はなくなることだろう。まあ、オーリッタムの場合は図書館や素材採取地という条件がそろっている。いや、素材採取地があるから魔法使いが集まり図書館ができたのか、ともかく魔法使いが集まる要素があるため魔法使いの呼称の範囲増大が成されても魔法使いが集まる都市になっただろうが。
「魔法使いとは、魔法に関して学び、様々な知識を得てそれを正しく使える存在のことだよ。例えば魔法薬を作るうえで正しい知識を持ってちゃんとした魔法薬をつくれるとか、魔法をある程度自由に扱うことができるとか、魔法の仕組みを知っているとかね。まあ、魔法に関しては今も色々と僕ら魔法使いの間では議論の的なんだけど……基本的に魔法使いは研究者としての側面が強いことが多いね。魔法に関して興味を持ち、それを発展させる。そういった存在が魔法使いなのさ。まあ、職業的に魔法使いである人間、ということになるのかな」
「……俺は冒険者だが」
「そうだね。でも、君の持つ技術は魔法使いのそれと同じだ。もしかして、魔法も使えるんじゃないかい? 応用もできるんじゃないかな? 知識だけでも魔法使いとしてみるには十分すぎるほどだよ」
「師匠は実際魔法も自由に使えるっすからね」
「………………」
「糞馬鹿フーマル!」
「ぎゃあっ!?」
勝手に他者の情報を迂闊にも漏らしたフーマルに飛び蹴りを食らわせるヴィローサ。まあ、公也としては別に伝えても問題ない情報なので何も言わないが、勝手に漏らしたことは事実なのでヴィローサを咎めることもしない。
「魔法、使えるのかい?」
「はい。灯よ生まれよ」
ぽっ、と指先に小さな火の魔法が発動する。
「ほう! やはり応用ができるのか。魔法を使えるだけの人間はみんな同じ呪文だからね。魔法使いでもその程度の魔法しか使えない人間は多くて、呪文を改良して発展させるとかそういうことすらしない魔法使いも増えているんだけど……いやあ、まさか新しい呪文開発をするとは!」
「それほどでもありません。魔法に関して詳しく知っていれば……」
「ふむ。魔法について詳しく、か」
ぎらり、と男性の目が光り公也を捉えたように見える。それくらいに彼は公也に対し飢えているような視線を向けている。別に変な意味ではない。
「君は魔法がどういうものか理解していると?」
「…………少なくとも、応用と言ったか? それができる程度には」
「ほう! ほうほう!」
嬉しそうに男性は公也を見る。
「どのように理解している? 魔法に関してはたびたびその内容について議論になるんだ。魔法とは何か、魔力とは何か、呪文とは何か。いつもその内容に関しては個々で認識の違いがあるのか、事実してこうであるという確定が成されないし、魔法使いも単純に研究者をやってる奴らばかりでなくて派閥とかそういうのもあってね……それに理論派と実践派でも意見は違ってくる。魔法を学び魔法の研究のみに魔法を使い、時折呼び出されたときに後ろから理論で作り上げた強大な威力の魔法を使うだけの魔法使いと、実際に戦場に立って魔法を使い応用を発展させる魔法使いでは意見が違ってきたりね。多くの魔法使いは先人の存在があってそちらの思想が植え付けられていることが多い。何が正しいか信じず、自分のいる派閥の自分を教えた人間から学んだことを正しいものとして認識する魔法使いも少なくない。人間には柵があるから仕方のないものかもしれないけど、それでよく魔法使いを名乗るものだと思うよ」
「それはしかたないんじゃないか?」
「まあ、多少は仕方ないと思うけどそのせいで魔法の研究が様々な説の検証のせいで遅れてしまうからね。困ったものだ。さて、君の魔法の理解について聞きたいんだけど、いいかな?」
「………………仕事はどうする?」
「ああ、報酬なら今の分でも仕事内容としては十分だからいいよ。それよりも、同じ魔法使いとの議論の方がよっぽど重要だからね!」
研究者……それもどこかずれた重度の研究馬鹿にとって、研究する機会とお金や物資とどちらが重要かと言えば前者になるのだろう。公也と話す魔法使いの男性は研究の方が重要である、ということだ。まあ、彼の場合今回みたいな別の魔法使いの影響にある魔法使いでない公也という存在はかなり特殊、希少な存在であるというのもあるだろう。魔法使いたちの集まりでは公也の姿を見たことないからこそそういう判断をしているものなのかもしれないが、少なくとも他の派閥の思想を受けていない可能性が高い魔法使いだ。まあ、それも絶対ではない。少なくとも公也が魔法の知識を持つ時点で公也の魔法の師匠がいるはずなのだから。
「わかった。それなら魔法ついて話すのもいい。それで、何を話す?」
「ふふふ、いいねいいね。リーリェも一緒ならなおいいんだが、帰ってくるまでには時間があるしその間に色々と尋ねようじゃないか」
誰かここには居ない人物の名前を言っているが、ともかく魔法についての談義が始まる。
「君は魔法とは一体何か、それについて教えられたり考えたりすることはあるかい?」
「……魔法か。魔法は"現象"だろう? 魔力を用いて、この世界に起こす"現象"」
「ほう! まさかその答えに行きついているとはね!」
すごく嬉しそうに、楽しそうに男性は公也の語る言葉を聞いて言う。それは彼自身もその結論に行きついているからというのもあるだろう。自分の持つ研究の結論、解釈、事実であるかは現状完全に証明することはできないものの、その結論にほかの魔法使いも行きついているということの方が重要だ。その結論は魔法使いたちの中ではどちらかというと少数派であり、今の所その内容を説としてあげるには力が足りていない。
その結論に実践的な冒険者をやっている実力があるだろう魔法使いも行きついている、そちらの方が重要だった。
※魔法以外の魔法じみた現象。技と呼ばれるもの。魔法ではないがまほうのようなもの。
※別に魔法使いは研究者に限らず。軍人、開発者、その他いろいろ。
※現在の魔法は多くが体系化されているため詠唱呪文共に一定であることが多い。




