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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
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 公也が遭遇した、魔法使いの依頼により採取するべき素材を求めて集まった魔物は他の依頼の採取物に対しても存在した。これは別に公也が初めて遭遇したというわけではなく、実はそれ以前から規模は小さく、頻度は少ないながらも存在はしていた。もともと採取物が安全に簡単に採取できるのであれば多くの魔法使いはわざわざ依頼を出してまで最適な状態で採取してくれる可能性の低い冒険者に任せるということはしないだろう。それが今回公也たちが出会ったような採取物を狙う魔物の存在が増えたこともあり、採取できなかったり既に荒らされていたりなどの被害、そして魔物の出現などの状況が重なり徐々に話題になっていった。

 今の所その魔物に関しての情報は少なく、どの程度出現し被害をもたらしているのか、どの採取物に対して被害が出ているのか、どの種類の魔物が多く、どの種類の魔物が少なく、生態系の変化などはどうなっているかなど、それらの魔物の討伐に関しても検討されてはいるがすぐに答えは出ない。どちらかというと冒険者よりもそれらの採取を依頼する魔法使いの方がその問題の解決を早くしてほしい所であるようだが、


「魔物退治にはいかないんすか?」

「別に依頼はされていないからな。状況も完璧にわかっているわけじゃないし無理に退治する必要性はないだろう。変に無理にやると面倒ごとになるかもしれないしな」

「そういうもんすかねえ……まあ、師匠がそういうなら俺はそれでいいっすけど……」

「キイ様の言う通りにしていれば大丈夫よ。それよりも、フーマルも来るの? 適当に魔物退治の依頼で儲けてればいいのに。ついでに死ねば?」

「ちょっとお!?」


 いつものヴィローサとフーマルのやり取りを聞きつつ、公也は今回の依頼の場所へと向かう。今回の依頼は採取や魔物退治ではなく、街の中での作業の手伝いである。それも魔法使いからの依頼であり、魔法薬作りの作業手伝いである。






「やあ、君が今回の依頼を受けてくれた人かな」

「はい。俺だけではなく他に二人……いえ、一人いますが」

「ふんふん? 一人は妖精だから二人じゃなくて一人、か。まあ、人数に関しては特に指定はしていないけど、依頼の報酬は変わらないよ? それでもいいのかい?」

「はい」


 今回の依頼は作業手伝いの依頼一回に対していくらの報酬というもの。ゆえに公也が一人で来ても、公也とフーマルの二人でも、ヴィローサを含めての三人で会っても、最終的にもらえる報酬は変わりない。


「わかっているならいいよ。それじゃあ入って入って」


 公也たちを案内する魔法使いの男性。部屋の中は散らかって……はいるが、そこまで汚い部屋というわけではない。いろいろと物が乱雑に置かれてはいるが、ある程度の整理はついており、混雑している場所と綺麗な場所がはっきりとしている、と言った感じだ。大体は作業するべき場所が汚く、整理整頓されている場所は書類が置かれていたり休息をとる場所だったり。乱雑な場所はいちいち片付ける必要性がないくらいに使用頻度が高い感じ、と言ったところなのだろう。よく使うから整理する前に使用してぐちゃぐちゃになる。


「ちょっと散らかってるけど、いいかな?」

「はい」

「じゃあ、あそこにある採取された鐘楼花の処理と分割、外と中の粉末化をお願いするよ。あ、必要なら書類が近くにあるからそれを読んで細かくやってね」

「はい」

「し、師匠? それでいいんすか? ちょっとよくわからないっすけど……」


 魔法使いの男性が公也に頼んだ内容はどう考えても普通の冒険者に頼むようなことではない。少なくともそういった魔法薬に使うような薬草類、採取物の処理は専門家でなければわからない。それをずぶの素人に任せようなどと、どう考えてもおかしいだろう。まあ、分割と粉末にする、くらいならばやろうと思えばできなくもないが、それだって素人では完璧な処理はできないだろう。

 あるいは魔法使いの男性は完璧な処理を期待しているわけではないのかもしれない。完璧な処理をしないで処理されたものを素材として用いた場合の実験を行っている……もしかしたらそんな可能性もある。まあ、そんな公也のような知的欲求を満たすために冒険者に依頼を任せるような奇異な性格であれば、だが。


「わからないなら俺が教えるから手伝え」

「あ、は、はいっす……」

「キイ様、私は?」

「そうだな。簡単にできる部分や処理の終わった者の運搬とか、整理とかそういうのを頼めるか?」

「わかったわ。頑張ってやるわね」


 公也は魔法使いである。いや、冒険者だが魔法使いとしての知識、能力を有する存在だ。また知識に関して貪欲で図書館にて知識の収集を行い必要な処理の内容に関しても理解している。それは知識の収集だけではなく公也の食らった魔法使いの知識の中にもそれらに関する情報はあった。そして念のため処理などに必要な情報は近くにある書類を用いればわかる、というのであれば公也にとっては別に難しくもない依頼内容と言える。

 一緒に連れてきたフーマルは仕事内容に不安があるかもしれないが、最悪ヴィローサと一緒に公也が処理した素材の分類分け、整理などを行えばいいし、処理でも簡単な部分の処理を行ってもらえばいい。わからなくともわかるために必要な情報が近くにあり、その読み方など的確な情報を与えることはできる。ゆえに特にこれと言って仕事内容には問題ない。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 そうして公也たちは仕事を始める。


「…………」

「…………めんど」

「……っしょ」

「………………」


 公也はともかく、フーマルやヴィローサは疲れ等が見えてくる。


「…………」

「……ふう…………はあ」

「っと、はあ…………」

「……………………」


 そうしていると、公也の傍に魔法使いの男性が来た。


「仕事、よくできているね」

「そういう仕事です。内容自体は簡単な物ですから」

「……簡単か。そうだね、君のような人間なら簡単なのかもしれないね」


 魔法使いの男性は何処か含みを持たせるようにそういう。公也はその言葉に疑問符を覚え、魔法使いの男性の方に視線を向けた。魔法使いの男性が話しかけてきたからか、フーマルやヴィローサもそちらの方に視線を向けている。


「君、魔法使いだろう?」

「…………確かに魔法は使えますが」

「いやいや、魔法を使える冒険者、というわけじゃなくてね。僕ら魔法使いに限らず魔法を使える人は多くいるんだ。だがそのすべてが魔法使いというわけじゃないんだよ。魔法使いって言うのは……ちゃんとした魔法の知識を有している存在、なのさ」


 魔法使いの男性は公也に対し魔法使いに関しての講釈を始めた。仕事の手がどちらも止っているのだそれでいいのだろうか。まあ、彼のような人間は仕事が進んでいるかどうかよりも自分が満足して話せるかどうかの方が重要なのかもしれない。あるいはそこまで仕事内容やその報酬を支払うことを重要視していないか、だ。ともかく、魔法使いに関しての話が始まった。


※鐘楼花 鐘のような花を携えた植物。花の外側の部分と内側の部分で薬草、魔法薬などを作る際の効能が違う。

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