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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
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20



 図書館でのごたごたした騒動の翌日、公也とヴィローサはフーマルを伴い冒険者ギルドへと向かった。


「師匠が一緒っすか。でも冒険者としての活動をする日じゃなかったすよね?」

「ああ、実は図書館でちょっと面倒なことになってな。暫くは図書館に行かず、落ち着くのを待つことにした。別に俺も図書館で色々と読むのは急ぎってわけでもないしな……まあ、早いうちに読み終わらせた方が都合はいいんだが」

「へえ、そうなんすか……」

「あの馬鹿のせいでキイ様の平穏が壊されるなんてね……」

「…………」


 ヴィローサも原因である、とは公也は言わなかった。その件でヴィローサを責めるつもりは別にない。それに関してはヴィローサ、妖精という存在の特殊性や希少さを考慮しなかった公也にも責任はある。ヴィローサだけが悪いわけではない。下手にヴィローサのことを言うと、ヴィローサが自責の念で何をするかわからない。基本的に悪いのはどちらかというと相手方なのだが、それを言っても仕方がない。もう終わってしまった話であるため、特に何も言わず落ち着いてからあれこれやればいい、それだけの話である。


「まあ、今は冒険者業をするだけだ」

「そうね…………」


 そういうことで、公也は冒険者ギルドへと向かう。何かいい依頼はないかと依頼を探す。基本的にこの街にある冒険者ギルドへの依頼は多くが魔法使いからのもの。特に魔法に使う有用な薬草など素材の採取が主だ。また、護衛や街中での活動、その他魔法に関する手伝いなどいろいろとあるが、この近辺の素材採取が圧倒的である。そもそもここオーリッタムに魔法使いの小都市ができたのは小さいながらも図書館があるだけ、ではないわけである。そういった魔法に関わる有用な素材がよくあってとれるからこそ、魔法使いが集まり小さいながらも図書館ができるようになった……ということでもある。

 まあ、ここは小都市、本当の意味で魔法使いの集まる大都市よりは格段にレベルが落ちる場所である。なんだかんだで交通のアクセス、都市としての規模、図書館の性能や必要な書物の集まりなど、様々な点でオーリッタムでは魔法使いたちの集まる都市になるには足りていない部分も多い。

 と、そういった点はこの近辺の事情にあるが、貼られている採取の依頼はそれなりに多い。しかし、そんな中から依頼を見つけようと行動している中、公也に近づく存在がいた。


「すいません、キミヤ様でしょうか?」

「……そうだが」

「指名依頼が入っています。受けていただけますか?」


 指名依頼。このオーリッタムにおいて、素材の採取における指名を依頼者からもらう場合が存在する。まあ、この都市で冒険者に依頼を行う魔法使いにとって採取において依頼した自分にとって都合のいい、とても都合のいいやり方で採取し、最高の素材を持ってきてもらえるのはとてもありがたい話。特に魔法使いの魔法に使う素材の場合、そういった要素が時に大きな影響をもたらす。ゆえに依頼者は指名依頼を出すことがある。

 冒険者ギルド側も指名依頼を出すことについては把握している。冒険者ギルド側でギルドへの貢献の評価を下すには依頼自体の仕事内容の評価が必要になる。当然それは依頼主からの評価であり、その中で最高の評価を出すということは依頼主が最も満足しているということ。その依頼主が同じ内容の依頼を出すのであれば、その最高評価を出した冒険者に依頼したいと思うのは変な話ではない。なので冒険者ギルドは指名された場合、その指名された冒険者に依頼を持ち込むこともある。

 まあ、冒険者ギルドもそういった事情は理解しているし、公也のような指名依頼をされる側も指名される理由はなんとなくわかっている。こういった指名依頼において、問題があるとすれば……なぜ指名依頼がその人物に持ち込まれるかわからない他の冒険者側だろう。


「おい」

「……なんだ?」

「なんでお前、いきなり指名依頼出されてんだよ!」


 指名依頼を出されるのはオーリッタムでもかなり採取の経験があり、どのような採取をすればいいのかわかっている熟練者。そんな印象がオーリッタムにいる冒険者たちに広まっている。しかしそれがいきなり現れた冒険者によって覆された。その冒険者に指名依頼が持ち込まれる理由は何なのか。わけがわからない、なぜこの余所者の新人は指名されることになるのか。いったいどうやっているのか。まさか不正でもしているんじゃないか。妙な思考回路、偏見的な方向性に思考が行ってしまう者も、中にはいる。


「あ、ちょっと!」

「おい! 何とか言えよ!」

「……キイ様になにをするのかしら?」

「っ!」

「ぅ……」


 一気に冒険者ギルド内の空気、雰囲気が緊張感に満ちたものになる。先日と同じく、ヴィローサが半ば暴走気味になっている。いや、公也に関わることになるとヴィローサはその本性をむき出しにするのである意味こうなるのは当然であるわけなのだが。先日の図書館での騒動とも似通っているが、前日のはヴィローサの本性はあまり関わりあることではなく、図書館内で騒いだことが原因である。今回はヴィローサの本性、その毒気の開放による影響が問題だろう。

 ヴィローサは毒の妖精あるがゆえに、その本性を出すことで雰囲気に毒が混じる。本当の意味での毒ではないが、それは本能的な忌避を呼ぶものであり、ヴィローサという存在に対する危険意識、敵対意識を大きくさせてしまう。下手をすれば冒険者ギルドにいる冒険者……それどころかギルドその者すら敵対することになってしまうかもしれない、そんな状態。まあ、ギルド職員を巻き込んでいるのでそうなっても仕方ない危険はある。


「ヴィラ」

「………………ええ、キイ様、わかってる……ふーんだ!」


 流石に公也もヴィローサを止める。公也に対する文句はないが、それ以外のすべてに対する文句はある。ゆえに元に戻りながらも、どことなく不満気なヴィローサであった。


「…………」

「お、おい…………」

「灯篭草の採取する部分は花の部分だ」

「……は?」

「ただ、灯篭草の採取時間によって花の性質は変わる。またその場所の明るさの状況によっても。晴れか曇りか雨が降った日か、それも影響する」

「お、おい、一体何を言ってるんだ?」

「魔法使いが求める場合、花は光が強いほど良い素材とされる傾向が高い。もちろん素材を要求する理由にもよる。場合によっては萎んだ花を求めることもあるが、萎ませるだけなら採取後でも構わない」

「………………」

「採取するなら、できるだけ依頼主にとって望ましい形にするのがいい。この街は魔法使いたちが集まる都市だ。依頼を出すのも魔法使い、ならば素材を使うのも魔法使いだ。魔法使いが必要とする性質を持つ素材を採取、その魔法使いが必要とする形にして採取し持ち込むのが魔法使いにとってはありがたいことだ。そうやって採取すれば指名依頼を受けることができるんじゃないか?」

「お、おう……」


 公也としては別にこういった情報を教えることは何ら問題のないことである。むしろ変に面倒ごとを引き寄せたりする方が公也にとっては問題である。また、指名依頼という面倒なことを頼みこまれるのも公也としてはあまりうれしい事態ではない。なぜなら指名依頼を受けることで公也の自由が制限される可能性があるからだ。そもそも公也はオーリッタムにずっといるつもりもない。いずれ出ていかなければならない以上あまり指名依頼を出されても、と思うところはある。


「この都市の図書館に素材に関しての本もある。必要ならそれを読んで依頼内容に適した採取を行うといいだろう」

「………………そうかよ。ああ、絡んで悪かったな」

「ああ。それで、指名依頼は?」

「…………え!? あ、は、はい、えっと、はい、えっとですね……」


 結局指名依頼自体は受けなければいけない。妙な絡まれ方をしたが、別に指名依頼を受けないつもりでいるわけではない。まあ、これ以後の指名依頼を受けることによる面倒事は避けたいわけであるし、今回みたいな皆の前で、というのは今後ないだろう。まあそれ以上に公也が採取に関することを冒険者たちに聞こえるように言ったため、採取の質が上がり指名依頼を持ち込まれる確率が下がる可能性も少なくはない。むしろそれを狙っての発言だったわけである。

 もっとも、多くの冒険者がその公也の発言を受け、理解し、またその採取の努力を行うかはまた別の話。理解して学んだところで適切な採取ができるとも限らず、結局指名依頼が全くなくなるということはなかったわけになるのだが。


※魔法に使う薬草毒草類。主に魔法薬を作るための物。魔法薬は使用目的は多岐にわたるが直接魔法に関わるものはあまりない。

※主人公は魔法使いの知識を持っているため魔法使いの思考で採取を行う。そのため魔法使いにとって望ましい採取を行っている。

※灯篭草 花の部分が特殊な効果を持つ植物。灯篭の名の通り光を発する性質を鼻の部分が持つ。発する光は光が差し込んでいる状態や状況、環境で変化する。

※いいくるめ 60 成功

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