18
オーリッタムにおいて公也は図書館に通っている。それは公也だけに限らずヴィローサもだが、基本的に図書館における書物の読み込みを行うのは公也がメインだ。図書館には公也以外にも本を読む、あるいはそれを借りたりして使ったり、書き写したりといろいろな人間がいるが、基本的にそれらは魔法使いだ。公也とヴィローサに対し興味を持ち関わろうという存在がいないわけでもないのだが、そういった面倒な相手を公也もヴィローサも基本的には無視し本を読んでいる。まあ、時折相手をしたり相手と情報のやり取りを少ししたりなど多少の付き合いがないわけでもない。ただ公也の方はともかくヴィローサの方は完全に無視、公也からの頼みがなければ相手すらしないくらいであったが。
と、公也の図書館通いに関してはそんな感じであるが、公也の職的な物を言うと冒険者である。とうぜんながら図書館通いを行う上でお金が必要になるため、彼も冒険者として仕事をしてお金を稼がなければならない。それに単純に図書館通いだけで彼自身満足できない、毎日ただ書を読むだけというのも退屈というか苦痛というか、彼にとっては知識の流入は満足いくところであるが、それはそれで少し飽きが来るところがないわけでもない。まあ、単純に言えばたまには体を動かさなければ鈍ってしまう、ということである。公也は別に肉体的に鈍るとかそういうことはないのだが、精神的に鈍るというか、そういうことは有り得るだろう。暴食の力は精神にまではほとんど影響しないものであるのだから。
そういうことで彼もフーマルと一緒に冒険者ギルドで仕事を受け、活動を行っていた。
「くうー……なんでここで冒険者の仕事になっているのは採取ばっかりなんすかねえ……」
「まあ、大きな都市だからな。魔物なんかは比較的ちゃんと狩られていたりするから採取くらいしか仕事がないんじゃないか? それとも街の中で仕事をするか? 別に俺とフーマルが一緒の仕事をやる必要性もないが」
「いやあ……街中の仕事も面倒なのが多いっすよ。魔物退治はあまりないっすけど、護衛とかは見かけるっす。でもそれはそれで面倒っすし……」
「フーマル、文句ばかりね。何? そんなに仕事できないの? 無能?」
「うぐ……いや、魔物退治ならこう、やる気がわいてくるっすけど……」
「キイ様みたいに選り好みせずに仕事しなさいよ。そのほうが立派でしょ」
「うぐぐ……」
性格上の問題か、種族的な本能の問題か、フーマルは冒険者として主に魔物退治の仕事をやりたがっている。これに関しては別にフーマルだけに限らず、冒険者の仕事として魔物退治はある種花形的な仕事と思ってもいい。成果がわかりやすく、また多くの英雄譚冒険譚でも語られるようなもの。本当にわかりやすい例でいえばドラゴン退治なんかはそういった話としても最上位のものだろう。もっともそんな魔物退治の依頼がそう簡単にそこらにあるわけはないし、倒せるような冒険者がそういるはずもないためそんな話が広がることはほぼない。公也の放浪魔の例みたいのならばある程度は周辺で広まることだろう。もっともそれもかなりの難易度ではあるが。ともかく、そういった有名になる、実力を示すという冒険者たちの功名心から魔物退治の依頼は冒険者たちに人気があるのである。
しかし、このオーリッタムではそういった依頼は少ない。大きな都市であるがゆえに、魔物が近くに寄り付かなくなってきていることや、魔物がいてもそれを安全のため今までも退治してきた結果、総数の減少や周辺から消えていったことなどが理由としてあるのだろう。ともかくオーリッタムの近辺では魔物の数が少ないゆえにそういった依頼はあまり多くなく、一部の冒険者が依頼を受けて残っていないとなることが多い。
オーリッタムで一番多いのはオーリッタムに住む魔法使いたちからの依頼である。主にフィールドワークを行う際の冒険者の護衛、あるいは自分たちが使う薬草や毒草などの素材の採取を任せるなどの依頼、または街中において冒険者に手伝いを要求する依頼である。まあ、そういった依頼はいろいろと面倒が多いのでフーマルとしては受けたくないところである。そもそもフーマルの場合そういった依頼で活躍しづらい。今回は公也と一緒であるためあまり問題はないが、採取系の依頼でも何を持っていけばいいのか、といったところである。
ゆえにフーマルが冒険者として受けたい依頼はオーリッタムには少なく、やりづらいところである。まあ、街での力仕事などを受けてもいいのかもしれないが。
「しっかし、師匠はよく必要な採取物がわかるっすね」
「俺の知識はどちらかというと魔法使い寄りのものだ。俺が知っている知識からだとむしろ魔法使いからの依頼で必要なものは探しやすいな」
「へえ、そうなんすか……」
「ただ、魔法使いの依頼の品は結構面倒なものが多いぞ? フーマルだと覚えきれるかもわからん」
「……まあ、俺はあまり頭が良くないっすからね」
「必要なのが葉っぱか、花か、根っこか、あるいは全部か。また蜜の状態、時間の指定、月光を受けたとか、太陽光を受けたとか、受粉した状態がいいとか、実が欲しいとか、花でも蕾がいい、割いている状態がいい、枯れている状態がいい、葉っぱでも新芽、発芽したばかり、葉っぱの枚数が何枚以上の状態の者、花のすぐ下の葉っぱ、色々と条件があったりする。まあ、依頼ではそこまで詳しく要求されていないが、魔法使いの使う物の場合それくらい詳しく必要な条件が求められることもあるからな」
「ええ!? なんすかそれ……正直わけがわからないっすよ?」
「魔法使いが求めるのは魔法に利用できるようなものだからな……いろいろと求める物に対する条件があるんだ」
公也は魔法の知識を持っているがゆえにそういったことに理解は及ぶが、冒険者たちにそれを言ったところであまり意味はないだろう。それゆえに、そういったことに理解が及ぶ冒険者は魔法使い側としてはありがたいのである。
実はオーリッタムではそういった依頼で持ってこられる物の評価から、依頼を出す魔法使い側から特定の冒険者に対し指名をして依頼を出すことがある。公也の言った魔法に必要な条件の知識なども理由の一端であるが、それを知っている冒険者はほぼいない。ゆえに多くの場合はちゃんとした依頼の品を持ってくることを条件に、そういったきちんと依頼をしてくれる冒険者相手にこれこれこういった条件で、と依頼をするのである。とうぜん面倒なことなのでその分報酬を余計に必要とするが、魔法使いたちには必要経費としてしかたがないことだろう。
そういう意味では公也の存在は魔法使いたちにとってはとてもありがたいものである。もっとも公也が指名依頼を受けるかどうかはわからない。そもそも公也はあくまでこちらに一時的な滞在をしているに過ぎない。まあ、それはまだ依頼を果たしていない現在で考える必要性はないだろう。
ちなみに魔法使いたちも冒険者として仕事をしていることもある。彼らも魔法だけで食べていけるとは限らない。また、これは指名依頼に関しての話になるが、冒険者を指名して採取してもらう以外にも魔法使いが自分で出て探すこともある。それがフィールドワークの護衛依頼である。護衛依頼は一応危険の問題もあるのだが、冒険者としても魔法使い相手に喧嘩を売ろうという者は少ないだろうし、そもそも魔法使いを殺しても得になることは少ない。これが商人の護衛、馬車の護衛ならそこに存在する持ち物を奪う価値があるのかもしれないが、魔法使いがフィールドワークに持ち込むものなどにそこまで価値のある物はないだろう。ゆえにこういった護衛依頼は基本的に安心安全な物である。まあ、護衛が優秀かどうかはわからないのだが。そこは彼らも理解しているだろう。ゆえにか彼らもそこそこは戦えたりする。
※知識欲の権化だからと言って本を読んでいるだけで満足できるかと言われればそんなことはない。美味しいからと言って同じ食事ばかりだと多少含まれる内容物が変わっても少し苦痛である。
※魔法使いが採取の依頼を出すのは採取したものが魔法に利用できるから……厳密に言えば魔法薬などの類を作るのに使う。一応この世界に魔法道具系のアイテムは存在する。杖もその一例だろうか。




