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魔法の小都市、オーリッタム。魔法の都市などと呼ばれているが都市というほど大きくはない。小都市は小都市、街よりは大きいし発展しているが都市というほどまでの発展を見せているわけではない。なぜわざわざ魔法の、などとついているかはオーリッタムはこの国において魔法分野における特殊な役割、強みがあるからということになるだろう。
オーリッタムには図書館が存在する。ただこの国には他にも図書館のある都市はあり、またオーリッタムは小都市、図書館と言ってもかなり小規模な物である。ただ小規模でも図書館は図書館、この世界における書物は大衆向けの娯楽文学などではなく、どうしても情報や知識、学術的なものが多い。それはやはりこの世界における製紙文化の発展の遅れだろう。紙自体が作られる能力が低いわけではないが未だに機械化されていないため、植物紙など羊皮紙の類以外の紙があったとしても、簡単に作れる大量生産に向いた紙があったとしてもどうしても規模はそれほど大きくならない。それでもやはり図書館が作られる程度には紙の文化、製紙製本は発達している。
まあ、オーリッタムにはそういった図書館がある。図書館には情報や知識がしまわれる。そういうことであるがゆえに、オーリッタムには魔法使いが来る。魔法使いはその性格上幾らかの種類に分けられるが、学者のように魔法の道を追求する者、冒険者などのように戦いの道を選ぶもの、技術的な発展を担い様々な物づくりに貢献するものなどがいる。そのうちの魔法の道を追求する者、学者肌の魔法使いは魔法の知識を蓄積していき様々な相手と論議し、魔法をより追究していく……そのためにこういった図書館のある街にて、本の知識を借りたり残したりとするわけである。
そういった事情は公也たちには関係ないわけであるが、公也にとっては図書館という存在はとても大きなものである。
「しばらくはこの街に滞在する。フーマルは何かしたい仕事があったら俺に言ってくれ。ただし毎日仕事をやるわけではないからな」
「ええ……」
「俺は図書館に籠ることになると思う。もちろん図書館に支払う閲読料の問題もあるから冒険者の仕事もやることになるだろう。だが図書館で可能な限り読むまでは図書館籠りは長くなる。その間はフーマルだけで出来る仕事を中心にした方が冒険者の仕事ができると思う。ランクを上げる意味でもちょうどいいだろう」
「師匠はDランク、俺はEランクっすから確かに差を詰めるのにはいい機会かもしれないっすけどね……」
それでも自分の師匠、冒険者のパーティーのリーダーである公也が街の図書館に籠りきりになるのはどうなのか、と思うところだ。とはいえ、フーマルに公也の行動を止めることはできない。公也もずっと図書館に籠るわけではなく、時々は外に出てきて冒険者の仕事をやるようなのでそこまで気にする必要はないだろう。まあ、やはり一人で活動することになるのは冒険者の仕事をやるうえで面倒くさいというか、疲れるというか、大変というか、そんな感じなのでなんとかしたいところである。
「私はキイ様と一緒に図書館にいるから、フーマルは仕事をするのよ?」
「……それは仕方ないっすね。流石にヴィローサさんが来るのには期待してないっす」
ヴィローサが冒険者の仕事をすることはない……同じパーティーでヴィローサも冒険者登録されているが、ヴィローサに関しては元々おまけとしての性質が強い。その能力、強さ、優秀な点は有れども妖精は体の大きさの問題もあってまともな仕事は難しい。ゆえにヴィローサは仕事についてきてもランクを上げることは意識せず、仕事への参加を意識するようなこともない。公也のおまけ、常について回るペットのような者、だ。
ゆえにヴィローサがフーマルの冒険者の仕事を手伝うことなど元から期待はしていない。何よりヴィローサは公也に憑く者、公也が来ないのであればヴィローサが来ないのは当然のことである。むしろフーマルについてこられても逆にフーマルの方が困るだろう。
「えっと、じゃあ俺は冒険者ギルドの方に行ってくるっすね」
「ああ。仕事は一日で終わるようなものにして、あまり時間がかからないようにな」
「了解っす」
公也がいない以上難易度的に無理のある依頼はできないし、荷物的な問題も多々ある。なのでフーマルが受ける依頼はそれほど面倒なことにならないものか、街から出される依頼の日雇い系の簡単な、あるいは単純な仕事になるだろう。
「さて……図書館か。こちらで本を読むことになるのは初めてだな」
「本を読んだことはあるの?」
「ああ。とりあえず何を読むかとなると……魔法系統か。御伽噺、伝説、技術系……やはり魔法だな。魔法の小都市と呼ばれるくらいだし充実している物と思われるが……図書館の大きさはそこまででもないみたいだしな」
公也の図書館の基準は公也の元居た世界の市立図書館などが基準である。だが実際にこの世界における図書館は街に存在する小規模の本屋程度の大きさ、と思った方がいい。もちろんそれは本の量の規模になるのだが。読書スペースの存在、また同じ内容の本、量産されている本は存在せず、つまりは種類だけで見れば本の量は十分ある。しかし元々の基準が高いため公也はそこまででもないと思っている。仮に図書館の人間が聞けばそんなことはないと激怒されることだろう。公也の世界における情報量、本の作りやすさにその内容の多さ自由性と比べてはならない……いろいろな意味で。
そして公也は図書館に閲読料金を支払い本を読む。本を読むだけでお金がかかるが、この世界における本の貴重性からすると仕方がない。本一冊ではなく一日幾ら、という形なのでまだ楽であるのが救いだろう。
「キイ様、読むの速くないかしら?」
「記憶力はいいんだ」
速読というほどでもないが、少なくともヴィローサよりは速い。まあヴィローサの場合本の大きさのせいもあって読みづらいためでもある。公也はこの世界に来てから記憶力はかなり良くなっている。恐らくは暴食で喰らった生命の生命力の補助、身体能力の強化の影響による脳機能の強化拡張成長が影響するのだろう。まあ、限度はあるが記憶力のような肉体的な限界がかかわる部分はそれなりに使い勝手がよくなっている。一方で思考能力などは別みたいだが。そのあたりどこが成長しどこが成長しないのかも公也にとっては面白い能力検証のテーマとなるだろう。今はあまり意識していないが。
ともかく公也にとって今重要なことは、この世界における魔法の検証と研究、その論文に推察。公也の持つ魔法の能力、その発展のためにも多くの魔法使いが得て記した情報を叩き込み、己の物として改良しなければならない。かつて食らった女性の魔法使いは魔法使いとして極めて高い能力、才覚、技術、知識を持っていた。それだけの才者を犠牲にしているのだから、己がその代わりとならなければならない……そう思うところもあったゆえに。そんな公也の心を、ヴィローサは察しながら、しかし何も言わずに隣で本を読むだけであった。
「やっぱり、『毒』だよね」
※一応よくある中世ファンタジー的な世界観。ただしこの世界も他の世界もそうだが世界構築の際に基準世界の情報が流入しているため文化的には完璧に中世のものと同一ということにはならないことの方が多い。
※現在の主人公は食らうと言う形で外部から取り入れたことは自分の中に蓄積される状態にある。なので本当は一度見るだけでもすべてのことを覚えられる……が、それと本人が思い出せるかどうかは別。記憶の整理は別なのでそのあたりを考慮したほうがいい。
※最後のヴィローサの発言は主人公の心の内について。彼女はあらゆる性質、要素の毒の存在を感知する。言葉の毒も、心の毒も、精神の毒も、魂の毒も。




