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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
57/1638

15


「クォアッ!」


 馬車の上にいる警戒烏のフズが鳴く。その鳴き声は警戒音、それは危険である存在が迫ってきている合図だ。


「っ!」

「なんだ!?」


 馬車の周りにいる護衛が警戒を強化する。そんな彼らの前に現れたのはゴブリンが数体。魔物の中でもゴブリンは頭が悪く、大集団となっている馬車を襲うことがある。ゴブリン自体はそれほど脅威でもなく、数体程度ならば何ら問題なく排除できる。ゆえにだろうか。今まで何度か同様にゴブリンの出現があり、警戒烏のフズの鳴き声の必要性に疑問を感じるようなものが出てくるのは。


「まったく、ゴブリンかよ」

「この程度にあの鳴き声を出さないでほしいよな」


 護衛達は出てきたのがゴブリンであると警戒心を緩める。ゴブリン程度自分たちがそれほど頑張る必要性の相手なのだからこの馬車の大集団であれば、誰が戦ったっていい。その程度の相手。そんなふうに警戒を緩めた護衛……警戒を緩めた冒険者の護衛を、冒険者たちの中で護衛経験のあるしっかりとした冒険者が叱る。


「気を緩めるな! ゴブリン程度だって油断していい相手じゃないぞ!」

「うおっ!?」

「俺たちがやってるのは護衛だ! ゴブリンだって素通りさせれば相応に危険もある! 何が相手でも、どれだけの数が相手でも、被害を一切出さず終わらせるつもりでやるんだ! しっかりとしろっ!」


 ゴブリン程度、と気を抜いていい相手ではない。ゴブリンは確かに大した相手ではないが、それでも大集団となれば厄介だ。今回は数体しか出なかったがもしかしたら斥候の類かもしれない。あるいは遠距離攻撃をしてくるかもしれない。指揮官がいるかもしれない。そういった危険を考慮する必要性があるだろう。そして彼らはゴブリンを倒すことが目的ではない。根本的には護衛、馬車とその馬車に乗る商人たちを守ることが最重要だ。厳密に言うならばその馬車に乗る積み荷も守る必要性がある。護衛がどうなろうとも馬車、積み荷、商人が無事であれば護衛としての仕事は成功だろう。一切傷つけることなく、あらゆるすべてが無事であれば完璧に依頼を果たしたと言える。実際に護衛を行うのならば、冒険者として仕事を行うのであれば、その完璧を目指すべきであるだろう。


「ったく……警戒烏のおかげで敵がすぐにわかるのはいいが、そのせいか逆に敵の強さの方に意識が向きやがって……ゴブリンだって油断はできねえってのに」


 ゴブリンだって魔物は魔物だし、護衛中に出てきた敵なのだから油断して相手をしていいわけはない。そうして油断したところを突かれたやられることもある。警戒烏の存在はありがたいところであるが、しかしその便利さ故の別の弊害も出ていた。


「……あっちは警戒態勢は変わらないな。いや、あれは警戒しているようには全く見えねーんだけど……ちゃんと警戒してるんだよな」


 護衛をしている冒険者が向ける視線の先には公也がいた。警戒烏の提供元であり、冒険者としての実力がしっかりしている存在。公也は単純に周囲に目を向けているだけで普段通りにしか見えない。しかし、フズの鳴き声でその警戒体勢を変えることはしない。それどころか、フズが鳴き声を上げる前からわかっているような様子を見せることもある。しかしそんなときでも普段通りだ。そう、普段通り。公也は普段から常に警戒をしている、ということである。


「とんでもないな」


 公也の身体能力の高さゆえに、警戒態勢をする必要性がない。高い感知能力で事前にある程度敵の存在を察し、また魔法を含め数多くの攻撃手段でいつでも攻撃できる。常に意識は外側に向けて警戒心を持ち続けている。それがいつもの姿であり、それゆえに普段通りにしか見えない。少なくともこの馬車の集団についている限りは公也は常に多少の警戒心は持ち続ける。そこに油断はない……と思われる。





 と、そんな小さな感心であったり、襲撃というほどでもない魔物との遭遇を何度か挟みながら、夜営なども含めていろいろとあった。


「しかし一体なぜ冒険者を雇うことに?」

「いやね、護衛の何人かがこっちに来るときにけがをしてさ。その治療に時間がかかるってのがあったからなんだよ」


 公也は今回冒険者ギルドに護衛募集をした理由を訊ねている。商人は口が軽い……というか隠すほどのことでもないのか、訊ねたことについて話し始める。


「彼らの治療を待って移動すると遅くなる。彼らも含めて移動してもらう必要性はあるが、護衛が足りなくなると危険もある。最近はこの近くで放浪魔が出たという話もあるし、盗賊の噂もあった。ちょっと護衛に空きを作った状態で移動したくないってのがあったかな」

「なるほど……」


 話としては実に単純なもので護衛の一部が怪我をして使えない状態なのでその護衛の穴埋めということである。もちろん冒険者が欠けた部分の穴埋めになるほど護衛能力は高くないためある程度数で補った、ということだ。そこまでして護衛の穴埋めを行う理由として、護衛がかけた状態での移動の危険性、特にここ最近の放浪魔の出現の話や盗賊の存在が仄めかされている点についてなど、理由としてはいろいろとある。


「そういえば放浪魔が街を襲ったっていう話を聞いたな」

「いや、街は襲われてないんじゃなかったか? 確かその前に冒険者によって倒されたって」

「ま、その放浪魔はこっちの方面で噂されてるのとは別だけどな」

「確か……妖精付きって呼ばれてる冒険者が倒したとか」

「へえ」


 商人たちも別の場所での噂、特に放浪魔など彼らにとっては遭遇しやすい危険に関しての情報は比較的集めている。その中にはここ最近に出てきた放浪魔……森の向こう、ロップヘブンに現れた放浪魔についての情報もあった。


「はは、妖精付きね。妖精を連れた冒険者か」

「………………」

「………………」


 その噂の話をした商人たちの視線は公也、そしてヴィローサの方へ。まあ、妖精を連れている冒険者などそう多くはない……というかほぼいないと言っていいだろう。二人がいる場所的にも、ロップヘブンから遠くない街であり、いてもおかしくない場所である。


「そんな冒険者がいるのか」

「ああ、いるみたいだね」


 もっとも、公也は自分がそうだということは言わなかった。自分の成果を吹聴するような性格ではない。まあ、仮にお前がそうなのだろうと尋ねられたなら肯定を返していただろう。事実を否定する性格ではない。まあ、訊ねられない限りは公也からは何も言わない。噂は噂、本人が口を出すことでもない。そして冒険者はあまり相手のことを訊ねない。冒険者とはいろいろと事情があってなる者もおり、また冒険者として活動している中で色々な事情を抱える者もいる。公也もまたそういった冒険者の一人だと考えられ、無理に事情だったりを訊ねられるようなことはなかった。

 そうして護衛は順調に進む。特に変わり映えはなく。襲われることもそこまでなく。警戒する魔物の群れの危険や、盗賊の危険が馬車に迫ることは特になかった。


※警戒烏の感知と鳴き声は敵意に対するもの。相手の強さは関係ないので弱い存在でも反応する。

※主人公の警戒は周囲に向けてのものでもある。魔物や獣だけではなく人に対しても。商人護衛冒険者、能力バレや異常性が知られるかもしれない危険もあるし別に味方である人間も本当の意味での味方ではない。それゆえの警戒心。

※放浪魔も盗賊も主人公が倒していたりする。倒した奴の話ではないのかもしれないが。

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