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「……この依頼にしよう」
「え? それ……護衛依頼っすよね?」
公也たちが冒険者ギルドに赴き、どのような依頼を受けるかと依頼を探し、その中から公也が選んだのは商人の護衛依頼である。これに関しては公也たちだけが参加するような依頼ではなく、また今日すぐに行われるような依頼でもなかった。定数の冒険者あるいは冒険者パーティーを求める少し他の依頼とは違う依頼である。
「何か問題があるか?」
「いや、問題ばかりじゃないっすか? 師匠は他の冒険者と付き合いがなくてあまり協調性がないと思われていると思うっすし、そもそも護衛とかやったこともないっすよね?」
「初仕事は誰にでもあるだろう。一度も護衛依頼を受けたことがない人間が依頼を受けてはいけないんだったら誰も護衛依頼を受けられないだろう」
「いや、そうっすけどね……普通は護衛とか冒険者を雇ってするようなものじゃないっすよ。何かあるかも……」
通常商人たちは自分の都合がある。商売の予定、人に会う予定、商売するうえで季節や時間を必要とする事柄は多い。そのため商人は多少時間の予定は作っているが、冒険者ギルドで護衛依頼を出し、冒険者が集まるまで待つみたいないつ都合がつくかもわからないようなことはあまりしない。つまりこういった冒険者ギルドで護衛依頼が出されるということはかなり特殊な事例であるということだ。
そもそも商人は自分たちで独自に護衛を集めている。行きずりの冒険者ギルドで冒険者に依頼を出しどこの誰とも知れぬ人間に護衛を頼むよりも、信頼のできる付き合いの長い相手の方が護衛として頼りになるわけである。場合によっては冒険者が商人を襲うという危険だってある。冒険者にもいろいろといるが、中には荒くれ者が冒険者になったような場合もあり、そういった場合は依頼主に対しても横暴なふるまいをすることもある。まあ、今回は複数の冒険者パーティーの要求をしているし、商人側も一商会のみというわけではなく複数の商人団、あるいは商隊と言ってもいい。そこまで妙なことにはならないと思われる。
ただ、それはそれでやはりなぜ冒険者ギルドに依頼を出したのか、というのは大いに疑問ではある。とはいえ、そういった彼らの事情を考えたところで仕方のないことではある。公也たちにはあまり関係のない話だ。それとは別に公也たちに関係のあることはこの依頼が護衛を行う依頼であるということ、そして複数の冒険者パーティーを求めているということだろう。
「あまり言っても仕方ないだろう。そもそもそういうことは俺たちが気にしても仕方がない。俺たちがやるべきなのは求められた内容に沿った仕事だ」
「まあそうっすけど……でも俺たち護衛とかやったことないっすよね? それに他の冒険者パーティーと協力とかって師匠やヴィローサさんにできるっすか?」
「俺は……協調性が低いと言われると仕方がないが、できなくもないだろう。積極的に参加はできないが、指示を出されれば比較的行動はできる。意図を組んだり合わせると言ったことは難しいだろうが。まあ、確かにヴィラは……な」
「私はキイ様に従うだけ。キイ様以外の言に従うつもりはないわ。そこだけは理解してもらいたいけど?」
「えっと、つまりヴィローサさんはこういうことは無理ってことっすよね?」
「俺が言い含めれば多少は聞いてくれるだろうな……それでもヴィラの意思や意図は無視できないし把握しきれないところもあると思う」
公也のパーティーにおいて公也の方はまだ比較的扱いやすい。一応公也は良識そのものはある。他者との協調性は比較的低いと言われても仕方のない行動性ではあるが、それでも全く協調できないということはない。でなければフーマルとパーティーを組むこと自体不可能だったはずだ。一応それなりには協力することはできるのである。
しかし、ヴィローサは流石にヴィローサ本人の意思が強固過ぎる。いや、彼女の意思はどちらかというと狂気に走っているところがあるのが大きいだろう。彼女は誰のことも考慮することはない。彼女が唯一信を置きその愛を向ける公也以外は。逆に言えば公也に関わることであれば、彼女は公也にとって良しとなる方向性に動くことは間違いないことでもある。そういう意味では公也が彼女に頼めばある程度は従ってはくれるだろう……それでも彼女はかなり堪忍袋の緒が切れやすい方だと思われる。確かに言うことを聞いたり話を聞いてくれはするかもしれないが、かといってあまり信用しすぎても危険である。妖精とは本来ころころと気変わりしやすい存在でもあるのだから。
「そうっすか……」
「まあ、ヴィラに関してはあまり表に出さないようにしていればいいだろう。なら後気にするべきところはちゃんと護衛できるかどうかだな」
「……俺は護衛経験とかないっすよ?」
「そもそも冒険者ギルドに護衛依頼が出されることが珍しいって話だろう? 護衛の経験がある方が少ないだろう」
「それは……確かにそうっすね」
「つまりそこまで護衛としての能力が求められているとは限らない。どちらかというと急遽必要になった人員の補充と行った所じゃないか? 仕事をしなくていいというわけではないがそこまで護衛としての能力を求めているとは思えない。依頼のランクでの制限があるわけでもないし、移動する商隊についてきてくれる人間がいればそれでいいと言った感じじゃないか?」
要は数の足りなくなった護衛の補充に近い形、ということだろう。まあこれはあくまで公也の想像なのでそれが確定的な事実であるというわけではない。しかし公也の経験上冒険者ギルドに求められる依頼はそういった急遽必要となった猫の手も借りたいような形での人員募集であることが多い。そもそも冒険者ギルドに護衛依頼が張られることが珍しいのであれば冒険者は護衛を行う経験が少ないということのはず。であればそこまで護衛としての能力を期待しているはずはない。あくまで足りなくなった護衛の補完として人数的に補う形を求めてのもの、と考えられる。
もちろん何か理由があって冒険者を求めているだけかもしれない。依頼として護衛を頼む理由ではなく、何かの理由で冒険者を必要としている……例えば途中で何らかの実験に使うなど悪意のある理由で求めている可能性も否定はしきれない。とはいえ、普通の商人、商隊がそのようなことを考えて依頼を出すとは到底思えないわけであるが。
「ともかく、この依頼を受けるぞ」
「……わかったっす」
「文句あるのかしら?」
「ないっすから……はあ、ほんとヴィローサさん怖いっすよ」
いつも通り不満は有れどヴィローサにその不満を止められるフーマル。公也はそんなフーマルを見ながら、どうにか埋め合わせをした方がいいだろうな、と考えている。なんだかんだでフーマルにはいろいろな形で不満を持たせたり損をさせたりしている。そういった部分を公也が気遣わなければならないだろう。ヴィローサは公也の意思を通すためにその行動をしている。そしてそれに止められ苦渋を飲むことになるのはフーマルである。ゆえに公也はフーマルの不満、ストレスの解消を考えてやる必要がある。
「……って、もしかして余所にいくつもりっすか?」
「護衛だから他の所に移動するのは当たり前だろう」
「た、旅の準備が必要になるっすね……」
「もう準備はできてる。もともと街を出て余所に行くつもりはあった。護衛依頼はそのついでに近いな」
「ええー……そういうことは先に言っておいてもらえないっすか?」
公也の方も実はフーマルに色々な形で不満や負担を強いているわけであるが、あまり公也はそのあたりを意識できていない。そのあたりのことも公也は考慮すべきであるのだが……まあ、そこは性格的に難しい所なのだろう。決して擁護できてない点ではあるが、現状ではフーマルがババを引く状態にあるのは仕方がないのかもしれない。せめてもう少し他に誰かいればまだ負担を分散できるのかもしれないが。
※冒険者の依頼は冒険者らしい依頼は普通の依頼。職人仕事の手伝いなどは労働力が欲しいという理由や人がいなくて急遽手を借りたいというもの。




