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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
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「今日は魔物退治っすね!」

「キイ様、フーマルなんかの言うことを聞いてあげる必要はないと思うよ?」

「いや、魔物退治は俺もやってみたいことではあるしな。まあフーマルも色々とストレスやフラストレーションが溜まっていただろうし、少しは不満を解消できるような仕事を受けるのもいいだろう」

「もう。キイ様って優しいのね? ええ、そうね、私の王子様だもの」


 いつものヴィローサに関してはともかく、本日彼らが行う仕事はフーマルが望んでいた魔物退治である。


「それで、どんな魔物を相手にするのかはわかっているのか?」

「えっと、擬亀猿……っていう名前だったと思うっす」

「擬亀猿?」

「危険を感じると亀の姿になって水場で過ごす魔物らしいっす。危険がなくなると元の姿に戻って凶暴になって面倒、らしいっすね」

「……よくわからない生き物だな」

「それが現れたから退治を、ということらしいっす。数はそれほどでもないから全滅でもいいし少し倒して再度亀に擬態させるのもいいらしいっすね」


 擬亀猿……フーマルの言った通り亀に擬態する猿……であるらしい。厳密に姿が猿である魔物ではない。どちらかというと亀の性質が強い。彼らはそれなりに数が揃っており、身の危険を感じていないと普段通りの姿に戻りその凶暴さが普段の凶暴さ……つまりは他の生物を積極的に襲うようになる。しかし、そんな彼らは仲間が数体殺されると自分たちの身の危険を感じ、亀に擬態する。この擬態は本当に亀そのものになるらしく、その姿を見ても擬亀猿の元の姿は連想されず、また彼ら自身擬態している間は亀として生きる。そのため本物の亀なのか、擬亀猿なのかわからず手を出しづらい。まあ、全滅させれば関係ない話だが。そうして亀になった彼らは自分たちの仲間を殺した危険な生き物が近くにいなくなると元の姿に戻り、という感じでその繰り返しで生きる。身の危険を感じて亀になる期間は長ければ数十年ということもあればたった数日ということもある。場合によっては擬態した亀の姿で亀の寿命を迎え亀として死ぬこともあるくらいだ。なお、彼らと擬態した亀の間に子供を作ることもでき、出来た子供は母親に由来した生態をとる。擬亀猿が生んだ場合は同じ擬亀猿として生まれるが、生まれるときは亀の姿である。本当にそういった特徴を持っている当たりかなり奇異な生き物と言える。


「とりあえず、奴らが出てくるらしい水場に行くっす。あいつら基本的に水場が拠点らしいっすからねー」

「案内は頼む」

「了解っす!」


 どこにいるかは既に判明している。ここ数日である程度周辺の地理的な情報は把握しているし、フーマルも冒険者ギルドの冒険者から少々情報収集をしている。フーマルは公也たちの仲間であるためかあまり他の冒険者に好まれないこともあるが、それでもやはり彼自身ある程度仲のいい相手を作るのは得意なようでそこから情報を集めているらしい。まあ彼からも公也たちの情報はある程度伝わっているため情報を一方的に集められているわけではないが。

 その情報でどこに何があるか、どこに何がいるか、簡単ではあるが把握しており、そのことからフーマルは公也たちを問題なくその場所に案内する。


「っと、ここまでっす」

「……これ以上は近づけないのか?」

「近づいてもいいっすけど気づかれるっすよ。相手の感覚は中々鋭いらしっす」


 もともと自分たちの脅威に対する感覚が鋭いため、知覚に来る生物の存在把握能力が高い。別に近づいても戦うだけだが事前に見つけたことを伝えたり武器を用意したりと戦いの準備は必要になるだろう。そのためフーマルが公也たちを止めたわけである。


「あれか………………あれなのか?」

「そうっすよ」

「……あれなのか」


 色々な意味で驚いた公也。公也は彼らの姿を実際の存在としてみたことはないのだが、彼らの生物的な姿は知識として知っている。その知識はこの世界に来てから得た知識……ではなく、公也がこの世界に来る前自分のいた世界で得た知識だ。ただ、やはり実在する生物ではない。架空の生物としての存在だ。


「……まるで河童だな。まあ、河童とは違う特徴も多いか?」

「カッパ?」

「ああ、見た目が似ている存在を知ってるだけだ……まあ、擬態するとかそんな能力はない奴だけどな」


 公也の世界における妖怪という存在、架空の生き物である河童という存在に擬亀猿は似ていた。

 ひょろっとした人の形をした生き物、名前の通り姿としては人型に近い猿のようなものである。亀に擬態するような生き物か、背中には亀の甲羅を背負っている。河童と違い頭に皿はないが、嘴ににた口が存在している。そして獲物に対する攻撃に使うのか爪が長く鋭い。その身体の細さに似合わずどこか筋肉質で身体能力は決して低くなさそうである。


「それで……どうする?」

「師匠がそういうのは決めるんじゃないっすか?」

「この依頼を受けるのを決めたのはフーマルだろ。ならフーマルが主導したほうがいいだろう」

「ええ!? う、うーむ……師匠がそういうなら」


 そうしてフーマルを先頭に、擬亀猿の討伐が開始する。


「行くっすよ!!」


 フーマルが叫び、隠れているところから擬亀猿へと攻撃を開始する。いきなり現れたフーマルに擬亀猿は驚くものの、すぐに戦闘態勢へと移行する。フーマルが攻撃を開始するのに合わせ公也も戦闘に参加、そのまま戦いを開始。不意打ち気味に襲ったこともあり、最初のうちに何体か倒すことはできた。しかし攻撃態勢へと移った敵の仲間が公也とフーマルを襲い、それに抵抗。そのまま戦いは複数の擬亀猿を相手にするものと思われた。

 しかし、公也たちにはヴィローサもいる。ヴィローサは飛びながら様子を見て、擬亀猿たちに毒を発生させる。魔物であるため生命力が高いためかその毒の影響を受けてもすぐに死ぬことはないが、しかし毒によるダメージ、毒による身体機能の阻害により擬亀猿たちの動きが弱まる。そして彼らと戦っているフーマルや公也がその隙を見逃すことはなく、その間に擬亀猿たちを襲い殲滅した。


「……これで全部か?」

「正確な数はちょっとわかんないっすね。ただ、こいつらは全滅させなくてもある程度倒せば亀になるっすからそこまで全滅は重要視されてないっす。依頼に関しては倒した数で報酬計算っすよ」

「そうか……ヴィラ、毒はこれ大丈夫か?」

「ええ。少しの時間しか持たない毒だから多分大丈夫」

「ならいい。討伐の証明部位は?」

「嘴か甲羅っすね。まあ、素材になるんで甲羅を持っていくことが多いっす。あと爪も使い道があるとか……あまり価値はないんで別にそこまでもっていく必要はないらしいっすけど」

「少しでもお金になるなら持っていくか」


 甲羅と爪が使い道のある部位であるらしい。数を討伐しても大量の甲羅は重く持ち運びできないため、ある程度の数を持っていくだけで後は嘴だけ、ということもよくある。しかし公也は空間魔法を使うことができるため重量も数もあまり関係がない。今回ヴィローサは毒を使っているが、擬亀猿は素材が爪や甲羅で肉は特に使い道がないため毒を使っても問題がない。まあ、仮に毒が回る可能性があるにしてもヴィローサはその辺りに関しての話を公也としており毒はすぐに消えるような毒を使用している。戦闘中でもあまり長時間毒の影響がある必要はなく、一瞬動きを鈍らせるだけでも十分なのでそのような形にしている。

 そうしてそれなりの数を確保し、久々の魔物討伐の依頼を終えた公也たち。公也の場合討伐系の依頼も必要以上にはやらず、街中の依頼の方がどちらかというと受けることが多く感じる。しかしこれは公也が各依頼を一度受けるという形で依頼を受けることが多く、内容の検証のため街中の依頼を複数回受けることもあってそう感じるだけだ。まあ、その依頼を受ける体制にフーマルがある程度不満を持ち今回の依頼を受けるという形になったわけであるが。

 そんなふうにある程度討伐依頼を受け、街の依頼も受け、と冒険者らしく彼らは過ごしていた。とはいえ、あまりやることも多くない普通の街で公也の欲求が満たされるということはなく、また次の街へと向かう機会もすぐにくることだろう。


※亀として生活できる河童。質量保存の法則に反するので明らかに魔物。

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