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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
48/1638

6


 準備も終え宿も引き払い自分の持ち物である荷物を全部公也が空間魔法による保管先に回収し、彼ら三人は比較的早い朝の時間に街を出る。早めに街を出るのは彼らが次の街に移動する過程での野営の回数を減らすため、可能な限り時間を使い移動するための期間を減らすためのものである。まあ、昼に出ようと朝に出ようと日数に大きな誤差は出ないと思われるが。


「それで、街を出るのはいいっすけどそもそも師匠は何処に行くつもりなんすか?」

「別に何処とは決めてない。そもそも俺はこの街以外の街の場所を知っているわけではないし、この国の地理に関してもほぼ全く知らない」

「えっ……それでなんで街を出るんすか……せめてどこに行くか決めてから出たほうが良くないっすか…………?」


 そもそも公也が街を出る、ということを決めたこと自体かなり唐突だったが、その目的、行き先すらを決めていないというのはあまりにも無鉄砲というか、方針の一つもないのはどうかと思われるところである。


「まあ、知っている場所があればそこに行くつもりだったが特に知っている場所もない。だから適当にどこかの街にたどり着けば、程度に思ってたからな」

「……ええー」

「なに? 文句あるの?」

「……ないっす」


 流石にヴィローサに脅されればフーマルも黙るしかない。そもそもついていくことを決めたのフーマルであり、それに文句があるのならば残ればいい、公也と別れればいい、そんな話でしかない。


「カア」

「烏に慰められても困るっす……」


 そんなヴィローサに脅されたフーマルをフズが慰める。現在フズはフーマルにくっついている。本来フズの飼い主というか、フズを従えているのは公也なのだが、ヴィローサが『側にいるな、どっか行け』という感じでフズを呪い殺さんばかりに睨むためフズの方がその視線に負けフーマルの方に逃げた結果である。おかげでフーマルはとっさの時に動きにくい状態である。まあ、フズがいれば危険な相手は警戒の鳴き声で判別できる……もっとも、どの程度危険なのかはわからないが。


「……そうだな。とりあえず、道なりに進もう」

「そうね。どこに行くか決まっていないし、何処に何があるかわからなくても道の先に村か街くらいはあるものね」

「それでいいんすかね……あ、そういえば今はまだ道ができていないっすけど、消えた山の方に行ってみるって言うのも面白いかもしれないっすよ」

「消えた山?」

「…………面白いというのは?」

「今までロップヘブンから山越えをしなければいけない場所だったっすけど、山がなくなったから馬車も楽に通れるし歩いて幾分にも苦労しないっす。まあ、いきなり山がなくなるわけっすからそこに何がいてもおかしくないっすけどね」

「ふうん……」

「……そうだな。でも、そちらに何があるかよくわからないで彷徨うことになるのは少しな」

「向こうにも街道くらいは通ってるっすよ。山があるから行き来が大変で道がないってだけで向こうは向こうで道くらいあるっすから」


 あくまでロップヘブンの方角に山があるためあまり道として使われていないというだけである。それ以外の場所に通じる道くらいある。まあ、仮にロップヘブンが重要な価値のある要所、あるいは何か特別な産物があれば話は違っていたかもしれないが、ロップヘブンは大きな街でも小さな街でもなく特別な何かがあるわけでもないごく普通の街であったため、これまでそういった道が作られることはなかった。しかし、普通の街とは言え街であることには変わりなく、新たな移動しやすいルートができたとすれば商人も少しは動きを活発にするかもしれない。


「とりあえず今は普通に既にある道を行こう。冒険者らしく冒険するのもありだが、色々な所を見て回ってからでいいだろう」

「そういうもんすかねー。師匠がそうしたいなら俺は別にいいっすけど」


 彼らにそういったいろいろなことは関係のない話。ともかく、街から出てそのまま目の前にある道を進むことに決める。






 この世界において、各場所の開拓は進んでいる場所もあれば進んでいない場所もある。その原因の一環はやはり魔物、特にゴブリンなどはいろいろな意味で扱いづらい魔物だろう。ほかにも様々な魔物がいて、人間の住んでいる場所を積極的に襲う魔物もいればそうでない魔物もいたりと多種多様だ。森を切り開き彼らの生活圏を少なくすれば彼らの数も少なくなる……ということはなく、場合によっては村や街を襲うこともある。また魔物が少なくなることで獣が数を増やしたりすることもあるし、そういった魔物を追いやることにも冒険者たちが必要になり、そこにいる魔物の危険度次第では高ランク冒険者を動かす必要があることもある。必要とするお金も人材も多く、その結果あまり開拓されていないこともある。そういったことはその土地その場所その近辺の状況次第と言ったところである。


「暗いっすねー。っていうかなんで森の中に道が通されてるんすかねー」

「この森は少なくともかなり広そうだからな。一番層が薄いのがここだった、という話じゃないか? 迂回するのもかなり時間がかかるだろうし、それなら森を切り開いて道を作ればいいと考えるのは変な話じゃない……獣や魔物の脅威はあるだろうけどな」


 街道のある場所は常に安全の保たれた道ばかりではない。場所によっては山を通ることもあるし、森の中を通ることもあるし、大きな川に橋を渡すこともある。そこにいる魔物や獣の脅威もあるが、それを考慮してもそうすることに利点が大きいからこそそういった道を作るわけである。まあ、魔物や獣を避ける方法はいくらかあり、そういう仕組みが作った道に付加されていることも多い。もっとも過度の信頼は禁物である。


「魔物や獣もあまり寄ってはこないんじゃないかしら……ちょっと嫌な感じがするし」

「カアッ!」


 ヴィローサは妖精だが、妖精も魔物に近しい存在……いや、あえて言うなら人間寄りの魔物、と言ったところである。魔物が忌避する仕組みの影響を受ける。もっとも、こういったものは理性の高い魔物には聞きづらい。フズも獣の類であり、この近辺の気配というか、匂いというかそういうものでどうにもすぐに逃げたい気持ちはあるが、フズは公也と一緒に行くことを決めているためそんな嫌な場所でも逃げるようなことはしない。

 ちなみに普通の街道でもある程度はこういう仕組みはある。ただ、普通の街道はそれは弱い。こういった仕組みを付加し維持するのもお金はかかるし手間もかかる、それこそ必要に駆られて魔物や獣の生活圏に道を作るようなときでもない限りはある程度簡単にしかその仕組みは付加されない。


「そんなものか。まあ、魔物や獣が寄ってこないっていうのはそれなりに安全でいいな」

「そうね。別に見かけたら殺せばいいだけだとも思うけど、面倒はないわね」

「そういうもんすかねえ……俺としては少しは獲物を狩りたい気持ちはあるっすよ」

「それなら森の中に入ればいいじゃない。そのまま帰ってこなくてもいいわよ」

「酷いっすよ!?」

「……確かに森の中なら獲物は豊富だろうな。まあ、今すぐ狩る必要性はないだろう。食料は足りているよな?」

「一応は。でも、ずっと保存食ばかりってのも味気ないっすからね」

「それは確かにそうだな」


 旅の途中なので新鮮な野菜や肉はその場で確保して得るしかない。そういう意味では森の中で獲物を確保するのは食事という面では重要だろう。もっとも、この中で食事が必須なのはフーマルのみ。公也はそのあたりこだわりはない。美味しい物の方がいいが、ゲテモノやよほど不味い代物でもない限りは、普通の食事、味気ない食事でも基本は問題ない。それこそ空腹になれば暴食で辺り一帯の物を食らえば空腹は無くせるのだから。


「まあ、食料よりも……別の獲物の処理の方が先だな」

「そうみたいね」

「え? どういう……」


 フーマルもふっ、と周囲に意識を向けて気づく。


「クォアッ!」


 彼らの周り、彼らの様子をうかがう視線、人の気配。魔物や獣が街道には寄ってこないとしても、人は違う。そして人の中には人を襲う人もいる。いわゆる盗賊や山賊の類である。彼らはこういった森の中に潜み、道を通る獲物を見定め襲う。そんな彼らが周囲にいた。



※主人公に食われた山の跡地は新しい道として使われるようになる。とはいえ基本的に目立つ何かがあるわけでもないのでそこまで重要視はされない。

※開拓も問題が多いがそれ以上に放浪魔などの一部の大規模災害級の魔物による被害で開拓後に起きる問題も多い。

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