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翌日。前日にフーマルと話した通り、公也はヴィローサと旅に出るための買い物を済ませる。とはいっても、公也は大きく物を食べる必要性がないし、ヴィローサも積極的に食事を求めることがない。一応フーマルがいるため食事しているようには見せかける必要があるが、それ以上のものは必要ない。購入する物は旅における生活用品が主となるだろう。それも購入する量に関してはあまり考慮する必要がない。公也は空間魔法が使え、必要なものはそこに全てしまって置ける。流石に時間経過の劣化を防ぐことはできないが、食料以外は問題なく食料も長期間持つような食料を購入すればいい。時間の劣化はあるにしても環境的な影響や微生物などの影響もほとんどないので保存能力は高い。よほど足の早い物でもなければ消費する分には問題ないだろう。
そんな感じであるため公也の買い物はすぐに終わる。一方でフーマルの方はいろいろと買う必要があった。フーマルの場合日用品に関しても公也のように持っておくだけでも楽ではない。まあ、今の所フーマルは公也と同じパーティーであるため自分で持つのではなく公也に持たせておくということもできる。ヴィローサはフーマルがそんな行動をすれば文句を言いそうだが、公也はそれほど気にしないで受け入れるだろう。もっとも本当の意味ですべての荷物を公也に任せることはできない。とっさの行動や生活を行う上ではある程度の荷物は自分で持っておくべきである。まあ、帰ってきてから使うような荷物に関しては公也に任せる形でいいだろう。と、フーマルの方はそんな感じであるが、食料など他にもフーマルは公也よりも色々と必要であるため買い物には時間がかかる様子である。むしろ公也の方が荷物としては少ないような感じだろう。
フーマルが時間がかかるということで公也の方は別口で行動している。具体的には冒険者ギルドに出向くことだ。
「……この街を出ていくのか」
「そうだ。別にこの街にずっと残るとも言っていない」
「まあ、確かにそうだね。冒険者がどのような行動をとるかは自由だ。しかし、別にこちらに報告する必要性はなかったと思うが? Cランク以上ならば相応に戦力として滞在場所を明確にしておいてもらう必要性があるが。まあ、これに関しては厳密には義務ではないけど」
冒険者というのは基本的に自由である。しかし、冒険者というのは重要な戦力でもある。それにその強さは放浪魔を相手にした公也という例えで見ればわかりやすいと思うが街を一つ破壊するのも容易であるような強さである。Aランクなどは特に冒険者の中でもとんでもない強さなのだが、Bランクでも相当だ。まあ、CランクからというのはやはりCランクが冒険者としては一人前という扱いだからだが。
この一人前という扱いに関しても、少しいろいろと複雑である。冒険者としてしっかりと冒険者であるとみられるのは成り立てから上がったFランクから。その時点でしっかりとした冒険者として活動できているのに、なぜCランクから一人前という扱いなのか。そしてその一人前のランクは全体で見れば少ない方、大半のランクはFやEでそこから上がったDがそれなりに、という感じでC、B、Aはかなり数が少ない。それこそAランクほどとなると国でも相当数は限られるだろう。数だけで見れば冒険者として一人前の冒険者は数が少ないということだ。それは何故か。
そもそも冒険者として一人前、ということは何かというのが問題となる。様々な依頼を受け、冒険者としてしっかりと活動し、相応に実力を持ち、依頼の評価も一定数を一定以上の評価を受ける。ちゃんと正しい仕事ができるようになったと認められて一人前、と考えるとDランクの時点でも冒険者としてはまだ未熟者ということになる。まあ、評価を行っている段階、というだけで本当の意味で未熟という扱いではないだろう。まあ、つまりは冒険者という存在の中でもちゃんと国を含め様々な所に認められる立場がCランク以上の冒険者、ということだ。どこに出しても恥ずかしくないレベルの冒険者……そういう扱いである。
まあ、それくらいに仕事と強さを認められる冒険者は少ない。放浪魔などの危機もある。そういったものに対抗できる冒険者は相応の扱いを受け、またその情報もある程度は持っておかなければいけない。必要な時にどこかに行かれれば困るし、勝手に移動されて好き勝手されても困る。それゆえに冒険者の現在位置の把握は重要になる。もっともそれを守っている冒険者がどれほどいるか、という点も問題になってくるが。ギルドマスターの言う通りそれに関しては厳密な意味で義務ではない。なので守らない冒険者も……というよりは守っている冒険者の方が少ないかもしれない。もっとも、彼らの動向はかなり重要視されているため、ある程度監視はされている。
そういった扱いを受けるのはCランク以上になるが、公也はDランクだ。本来……というよりも別にCランクでもそういうことをする義務はない。その下のDランクである公也も当然、Cランクでもないのだから余計に義務はない。まあ、ギルドマスターとしては将来的にCランクになる可能性の高い公也の動向……この街からいなくなるという話だが、それでもそうするということを知れるのはありがたい話だ。場合によっては今後の活動に影響していただろう。
「まあ、色々な形で世話になったし、一度そちらに呼ばれたというのもある。Dランクに上がったのも特別扱いのようだからその件もあって離れることは報告しておいた方がいいだろうと思った」
「そうだね。こちらとしても君のような実力ある冒険者を今後の冒険者ギルドの運営に組み込む考えがないわけではなかった。いなくなると言われると本当に残念だけど……この街は元々実力のある冒険者はあまり出てこないし、そういった冒険者は早い段階ですぐに別の所に移動する。ここには冒険者にとって魅力のある物は少ない。街を出て行った冒険者は君以外にもたくさんいる。珍しいことではないさ」
それでも残ってくれればありがたい、と思っている。ただ、冒険者というのは安定した仕事を行うような職種ではない。高いランクにいればいるほど、未知や危険に挑む傾向がある。同じ仕事をして一定の報酬を稼ぐような冒険者は大成せず、多くの場合は行ってもDランク、場合によってはCランクになることもあるが、それは本当に稀だ。大半はE以上にはいかない。時には冒険者を辞めて定職に就くようなこともある。
「放浪魔のようなこともあるから残ってくれればありがたい、が出ていくのなら仕方がない。君の自由にするといい」
「……わかった。それでは」
「良き冒険者生活を」
そうやり取りをし、公也はギルドマスターの所を去る。大きな魚を釣り逃したギルドマスターにとってはため息ものだ。
「はあ……まあ彼が放浪魔を損害をほとんど出さず倒してくれた、というだけでもこちらとしては十分すぎるくらいか」
既にDランクであるが、確実にCランク以上になれる実力者である。それが偶然、何故かはわからないがロップヘブンで冒険者となり、またその街に来た放浪魔という危機をほぼ損害を出さずに排除した。その偶然だけでもかなりありがたい話である。これ以上を望むのはロップヘブンの街にとっては不相応……まあ、そういう言い方はどうかとも思うが、ロップヘブンはそれほど大きな街ではない。公也のような、将来に大きな見込みのある冒険者を満足させ続けることのできる街ではない。今回みたいな大きな事件の解決をしてくれたというだけで十分、というのは間違いではないだろう。そう思い、逃した魚の大きさに未練を持ちながらも、今後もロップヘブンの冒険者ギルドを盛り立てていくことを考えギルドマスターは真面目に仕事に取り組む。
※主人公が食事をあまりしないのは料理の味の問題が大きい。現代日本に慣れていると異世界での食事は辛いものがあるようだ。それでも最低一度は興味のある料理を食べる。美味くとも不味くとも。
※大体の実力のある冒険者は田舎を出ていくもの。
※結局名前のつけられていないロップヘブンのギルドマスター。しかし街の名前がでていることもありまた登場する機会が一切ないとは限らない……恐らく名前は付けられることはないと思われるが。




