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放浪魔と呼ばれるような強大な魔物が襲ってきたロップヘブン。その大事件からそれなりの時間が経ち、公也たちにその報酬が支払われた。公也としては結構な額の報酬が支払われたのはいいのだが、基本的にその使い道がない。素材も欲しい物は特になく、その分報酬の加算がされているため余計に貰っている金額は大きい。まあ、まったく使わないわけではない。放浪魔を相手にした結果失った武器、その代わりとなる持っていた剣よりも性能のいい剣が欲しいという気持ちがないわけではない。公也自身はそもそも剣士ではないのだが、剣を武器として使うことも少なくはなく、剣の新調と複数の剣の確保の必要性を感じている。もっともロップヘブンで手に入る剣でそれほどいいと思えるようなものはなく、持っていた物よりもそれなりにいい剣を購入した、くらいの話だったが。
他にも鎧など、装備に気を配ったほうがいいのでは、と思わなくもないが、必須ではないので今のところは気にしていない。そもそも放浪魔のような例外的なものでもなければ公也の防御は魔法で十分であるし、戦闘で負けるようなことも簡単に起きることはない。公也以外の仲間、フーマルやヴィローサも公也たちのパーティーにいるが、彼らはお金を使わない。フーマルは師匠が手に入れたお金だからということになるし、ヴィローサは公也に迷惑をかけるつもりはないしそもそも特に装備は必要ない。ゆえに公也たちはお金を使うこともなく、それなりの大金を余らせている。多少の贅沢で使いきれるようなお金ではなく、ずっと贅沢をするような性格ではない。必要な時に欲しい物を買えるようにためておく、残しておくと言った感じだ。
そうして大金を持っているからか。あるいはDランクという冒険者の中でもちょっと上の位置にいるからか。もしくは放浪魔と戦い倒すという強さを見せつけたからか。公也は少々面倒な状況にあった。
「依頼終了の報告を」
「はい」
いつも通り、冒険者ギルドで受けた依頼の報告をしにくる公也。放浪魔を倒しお金を得ようと、ランクが上がろうと、特にやる仕事自体は大差がない。いや、公也の場合受けることのできる依頼を受け、仕事を経験するというのが基本的な目的だ。ゆえに難易度の問題ではなく、受けているかいないか、多様性があるかないかの方が問題であり、同じ内容でしかないのならあまり受けるつもりはない。
まあ、そんな感じの方針で依頼を受け、その終了の報告をしている公也であるが、そんな公也に近づく影が一つ。
「公也さん」
「…………何か用か?」
「ほら、前にもいったじゃないですかー。パーティーに入れてくださいって!」
「…………それは断ったと思う。悪いが、あまり人を入れるつもりはない」
パーティーの勧誘要求、あるいは逆に公也のパーティーへの参入要求。現在公也の周りで起きている面倒ごとがそれだ。Dランクに上がった、ということも公也の価値を上げ、またあの戦いで見せた強さ、魔法を使えるうえに剣士としても戦えるその実力を見込んでの評価でもある。今までは妖精を連れて胡散臭い感じで見られていたが、その実力を正しく評価された結果、公也を仲間にしようとするパーティーや公也のパーティーに入りたい、と思う人間が増えた。特に一部の女性冒険者に多い。女性冒険者はすべてがそうであるとは言わないが、強い冒険者の庇護下にあることを望む者が多い。これは単純に強さにほれ込んで、ということもあるがやはりランクが高いほうが得られる報酬が増えるし、強い冒険者の傍にいる方が安全性も上がる。もし恋人になったり結婚できたりすれば使えるお金も増える……といういろいろな打算が大きい。公也もその雰囲気も含めいろいろな点からそれを判断し断っているのだが。それでも食い下がる者もいるし、色仕掛けを迫る者もいる。まあ、公也には基本的にそういった方法は効いていないのだが、それでも引き下がらない者はそれなりにいる。
そんなふうに、面倒な勧誘を受けている公也である。
「今回もだめだったかあ……ま、あきらめるつもりはないけど」
女性冒険者は今日も公也に話しかけ、公也のパーティーに入ることを望んだがやはり断られる。それでもあきらめないのはメンタルが強いからか、相手の迷惑に無頓着だからか、もしくは自分の欲求に忠実だからか。彼女に公也への恋愛感情はない。まったく好意がないとはいわないが、やはり彼女の目的は強い冒険者の側にいるという庇護的なものや高報酬の方が目的だ。公也はそういった目的で見ればパーティーメンバーが少なく自分が参入する間隙がある……そんなふうに彼女のような一部の冒険者は思うわけである。
公也がそういった冒険者を入れないのは打算が透けて見えるなどの理由もあるが、一番は公也の秘密に関しての問題があるからだ。フーマルに関しても秘密を知らせるようなことはしていないが、その能力、暴食に関しては魔法という形で言い訳をしているし、フーマルは公也のことを師匠として慕っているので漏らすことはない……と思われる。だが、彼女たちのような普通の冒険者はどうだろうか。公也の情報として、知ったことを誰かに告げたり、あるいは売ったりするかもしれない。安易に仲間にいれることはできず、入れてもずっと公也たちについてくるとも限らない。打算で入るがゆえに、打算で抜ける可能性もある。信頼できないからこそ入れる気がないのである。
まあ、そんな理由で入れないことを彼女たちは知らない。色仕掛けでも通用すれば、と考えている。
「ねえ」
「ん? 誰?」
もっとも、そんな現在の状況に関して許容するばかりではない。公也はまだ穏便に済ませるようにする性格であるが、一人……公也の仲間のなかにはとても過激で狂気的な存在がいる。
「あなたがキイ様に迫る害虫? 女狐? ゴミ以下の屑かしら?」
「なっ! 誰が害虫…………っ!」
「あなたのことよ。私はずーっとキイ様についていて、ずーっと様子を見ているのだから。全部、全部、全部、知ってるのよ? どう迫って、何をしてたか、ねえ?」
ヴィローサ。毒の妖精にして、狂気の精神性を持つ、公也の傍にいる公也のために、公也だけのために生きる存在。彼女のすべては公也という存在のためにあり、ゆえに公也に対して害をなそうとする存在であればその存在の排除に回る。もちろん殺したりはしないが、それでもかなり怖い目にはあうだろう。何故なら、彼女はそういった相手に対し、彼女自身の本性を見せている。妖精の本性……それは普段見せない妖精の妖精的な側面である。
「ひっ…………ひっ……」
「なに? 怖いの? ねえ?」
妖精は本来可愛らしいものではない。人のような見た目をしているが、それは妖精は人に近しいという想念を受けてのもの。ゆえに一般的な妖精は人型を持ち、人に近い精神性を持つ。しかし、その上で妖精の性質を表し、妖精らしい精神性を持つ。ゆえに妖精は人に近しく見えのにその精神性で嫌われるのだが。普通の妖精は妖精としての本性はあまり見せる機会はない。なぜならそれは妖精として本質の部分を表すからだ。それこそ妖精が本気になり、妖精の力を全力で発揮する時くらいである。人の部分が妖精の妖精部分を顕わすのにストッパーになっており、あまりそういった機会が来ない。
だが、ヴィローサは違う。ヴィローサは一度妖精から人寄りになり、毒の妖精ゆえに人寄りの時に自分を毒で侵し。妖精の力が返ってきたとき、人としての精神性の毒と妖精の持ちうる毒が彼女の精神性を完全にぶち壊した。それゆえに、ヴィローサはとても危険な、ころころと精神性が変わる妖精となった。しかし、そんな彼女も唯一心を許す、自分の中で絶対の基準がある。それが彼女の王子様、自分をヴィローサという今の存在へと救いあげた公也である。
ゆえに、彼女は公也のために積極的に働く。それを公也が望んでいなくとも。
※モテ期(扶養目当て)




