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ドラゴケンタウロスを倒したその戦果はとても大きく、またロップヘブンの街としてもとてもうれしい話であった。放浪魔が向かってきて襲ってきたが、街が壊滅するようにはならなかったというのはかなり大きい。そして通常は守るために費やされる冒険者の数も多く、ロップヘブンのようなあまり大きくない街では酷く沢山の犠牲者が出ることも多く、また犠牲者を数多く出しても街が壊滅するということもありえないわけではない。これがもっと小さな街や村みたいな単位であればまず逃げるか隠れるかすることも珍しくはない。いや、それはそういったこともあるという話であり、今回は冒険者の犠牲者がほとんどなかったのがとても大きいことになる。これに関しては公也という特殊な存在がいた故だが、理由はともかく犠牲者が少ないというのは街としてもうれしい話である。もっとも、犠牲者はいないわけではない。確実に死亡が一人、怪我の度合いで死ぬだろう冒険者、死ななくとも今後に支障をきたす冒険者、あるいは今回のことをトラウマとして冒険者活動ができなくなる者もいるだろう。戦闘にほぼ参加していない集まった冒険者の中にも放浪魔の恐怖で冒険者を辞めたがっている者も幾人かいる。まあ、それは今後彼らがどうするかを決める話であり、今回の戦果とは直接かかわらない話であるが。
多くの冒険者たちの無事、そして強大な放浪魔の撃破ということを祝い、冒険者ギルドでは冒険者たちが集まり宴会を行っている。今回の事に関する報酬は今すぐというわけにはいかず、放浪魔がどれほど厄介であったのか、その危険、個々の活躍次第で決まるものでもある。まあ、多くの冒険者は戦闘に参加はできていないのだが、それでも放浪魔に対抗するために集まったことは事実であり、戦闘には参加できずとも集まることに意味があり、報酬は十分もらえるものである。まあ、報酬に関しては今はともかく、彼らは今回の勝利、生き残りに喜び生を謳歌し楽しんでいる。もっとも、その中に今回の最大の功労者である公也はいない。フーマルは個人で参加はしているものの、公也はヴィローサとともに別の場所でゆっくりとしている。これに関しては冒険者たちの側の公也やヴィローサへの扱いを公也自身が気にしているから、というのがあるだろう。変に気を使われるのも面倒であるし、今回の活躍ゆえに下手に誘われたり馴れ馴れしくされる可能性もあり、そういったことをなんとなく嫌い、参加していない。そもそも騒がしい中を過ごすのも公也はあまり趣味ではない。そういった人間の活動を見るのには面白みがある、と思うところであるが、自分はあくまで観察者としていたい感じであるようだ。
と、冒険者ギルドはそんな状況であるが、冒険者側もギルド側としても、公也が参加していないことには少し戸惑いというか問題があると思わなくもない所である。公也は今回の最大の功労者であり、ある意味でいえば英雄のようなものだ。それがいないというのはやはり盛り上がりに欠けるというか、何のためかの宴会か、と思うところである。まあ、そういうところを公也が嫌っているからこそ避けているのだが、一般的な冒険者にそれを理解しろと言われても困る話だ。もっとも、公也とヴィローサの行き先がわからないのでどうしようもない。フーマルも公也たちがどこに行ったか知らず、聞かれても困った話だ。おかげでフーマルは宴会にあまり参加できずに途中退席せざるをえなかった。
と、そんな感じの宴会だったが、主役がいなくとも宴会は行われているし、問題なく宴会は進む。そうして、冒険者ギルドでの宴会は終わった。
そして翌日。冒険者ギルドに死屍累々と転がっている冒険者がいる中、一部の生きている冒険者や冒険者ギルドの職員が片づけを行っていたり、職員の一部が仕事を行っている冒険者ギルドに公也とヴィローサとフーマルが訪れる。前日のドラゴケンタウロスとの戦い、その戦勝に関わらず、いつも通り公也は仕事をするつもりであった。
「あっ!」
そんな公也を見た冒険者ギルドの職員が叫ぶ。まあ、ドラゴケンタウロスを倒した立役者が来たのだからそうもなるだろう。特に前日行われた宴会には出ていないわけであるし。
「キ、キミヤさん! 少しいいですか?」
「なんだ?」
「その、冒険者ギルドのギルドマスターの所へ行ってください」
「……今すぐか?」
「はい」
前日ギルドの宴会に来ていなかったから、というのもあるが、今回の件で色々と公也の扱いは困る。その話し合いが必要になる、ということだ。
「わかった」
「君がキミヤか。見た限りでは、冒険者ではなく街の人間と言ってもいいくらい見た目で強さがわからないね」
「……それは褒められているのか? それとも貶められているのか?」
「まあ、誉め言葉には聞こえないかな。でも君が強い、凄いということは理解している。放浪魔をほぼ単独で倒しているんだからね」
放浪魔を倒したのは公也である。実際にはヴィローサの手助けや、小さなものではあるが冒険者たちによるちょっかいがあったゆえに公也もその力を振るい戦い続けることができたわけであるが、やはり最終的に決着をつけたのは公也の存在である。
「……それで、俺はなぜここに呼ばれた?」
「君たち……厳密にはキミヤ、君だけだが、君を呼んだのは今回のことについての報酬に関しての話があるからだ」
「報酬か。事前に言われていた通りのもの、というわけではないんだな?」
「そもそも事前の取り決めなどほとんどあってないようなものだ。実際に戦って成果を出しているのはほぼ君だけだ。その君の取り分が一緒に参加したほかの冒険者と同じ、なんてことになればそれこそ問題だろう」
今回のは強制的なものに近い依頼であるとはいえ、冒険者ギルドの依頼であることには変わりはない。当然しっかりと報酬が支払われる。そして、戦果次第ではその報酬は上昇する。仕事そのものは放浪魔の討伐または撃退への参加であるが、その成果如何では報酬が上がる……まあ、当然と言えば当然である。そして今回公也は多大な戦果を出した。放浪魔を討伐、それもほぼ単独で。街への被害も冒険者への被害もほぼない状況に持ち込んだという点において、公也の功績は他に類を見ないものである。まあ、他の冒険者が参加していたならば話は違っていただろうが、残念ながら放浪魔が強すぎて恐ろしいゆえに近づけずこんな結果になっているわけである。もちろん犠牲となった冒険者やその被害を受けている冒険者にも報酬はあるが、これに関しては遺族やその仲間の関係でここで出される報酬とはまた少々別物となる。
「まず、基本となる依頼を受けた時点で貰える報酬。これはまあ、当然かな」
「それを貰えないのはおかしいからな」
「これはどの冒険者も変わりない。あそこにいた時点で全員が貰えるものだ。次に、戦闘への参加に関するもの。これに関しては君やあの放浪魔に向かって言った冒険者、そして周りで放浪魔の気を引く攻撃を行っていた冒険者すべてが対象になる。まあ、成果に関してはどれほどのものかと思わなくもないが、実際に戦闘に参加する気概は認められてしかるべきものだ」
「確かに戦う上で大いに助かったのは事実だ」
「そして。何よりも放浪魔を倒した、という事実。それに関してはほとんどすべて……いや、完全に君の戦果と言っていいだろう。死体に関してはこちらで回収し、解体し、そのうえで査定し素材の代価を払うことになるが、それは構わないか?」
「欲しい物は特にないから別に構わないが……」
「そうか。それならいいんだ。欲しい素材があったら別の所に持っていく前に行ってほしい。流石にすでに売った後でやっぱりほしいと言われると困るからね。この猶予に関しては、三日以内としておこう。倒したという功績に対しての報酬だが、これは……そうだな、かなりのものとなる。具体的な金額を提示するのは難しいが……」
街を守った、また通常では倒せないような魔物を倒した功績。当然ながらその戦果は大きく、まともな支払額にはならない。それこそ街を立て直すために必要な資金をそのまま守り切るようなもの、と考えればその成果の大きさがわかる。そんな成果に対して報酬の安売りはできない。通常の依頼では見られないような、金貨でのかなりの支払額となるだろう。これに関しては素材に関しても同様で、放浪魔の素材という大きな成果ゆえに相当な額が公也へと支払われることになる。
「お金はあって困るものではないからありがたい話だ」
「そうだね。そして、これが一番今回の報酬でこちらにとっても、君にとっても色々な意味で得があり、また面倒なものになるのだが……」
一拍置いて、ロップヘブンの冒険者ギルドのギルドマスターが公也に告げる。
「今回の戦果、功績から君はDランク冒険者へと昇格とする」
ランクの上昇。本来であれば、ギルドの仕事を受けての貢献によりあがるランク、その上昇が今回の報酬として与えられることとなった。
※主人公は別に目立ちたいわけではない。やった事の結果目立っているだけ。隠れてやれるならそれが一番いいらしい。
※主人公の強さは見た目ではわからない。魔法使いとして強いというなら納得できるかもしれない。
※このギルドマスターに名前は付けられていない。基本的に二度と登場しない可能性の高い人物に名前を付けることがない作者である。その性質でキャラの再登場の可能性を推測できる。もっとも確実にそうであるわけではない。高確率でそうであると言うだけだが。




