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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「っ…………!」

「すごく怖いわねキイ様」

「……確かに、少しびくっとはしたけどな。他の周りの冒険者も、動けなくなってるか……」


 公也たちはドラゴケンタウロスの咆哮を浴びても特に変わった様子を見せていない。フーマルがびくりと震え動けなくなったくらいであり、公也とヴィローサは普段と変わりない。なお、ヴィローサは怖いと言っているが表情も様子も全く変化を見せていないあたり、大した影響を受けていないのがわかる。

 しかし、彼らはともかく、周りの冒険者たちはその咆哮の影響を受け、震え、蹲り、硬直して動けなくなる冒険者ばかり。公也やヴィローサのような人外じみた者や人外に触れ合い、その脅威、恐怖、圧倒的な実力者の存在を身近に感じるようなフーマルですら硬直するのだから仕方がないわけであるが、冒険者たちが動けなくなることで戦闘は明らかに悪い方向に進むことは間違いない。


「フーマル!」

「……はっ、し、師匠!? 今の、今のって」

「竜の咆哮は恐怖で身を竦ませるようなもの、って話だが……本当にそういうものだとはな」

「そ、そうみたいっすね……あれで動けなくなるなんて面目ないっす」


 他の冒険者たちと違い、フーマルは公也に声を掛けられ硬直した状態から復帰する。しかし、周りはそうもいかず、このままだとドラゴケンタウロスが何らかの動きを見せるだろうことは間違いない。

 そんな中、公也たちとは違い一部の実力のある冒険者の一人が声を上げ、ドラゴケンタウロスへと向かっていく。その気勢のおかげで硬直から復帰したものもおり、その中の一部はそんな冒険者の熱に引っ張られるように追いかけ、ドラゴケンタウロスへと向かっていく。


「はっ! し、師匠、俺たちもいかないと……」

「やめておけ。フーマルがあれに立ち向かったところでどうにかなる相手じゃないだろ」

「そりゃそうっすけど……いや、でもこのまま見てるだけっすか!?」

「無謀に突っ込むのが良くないってだけだ……とはいえ、このまま何もしないってわけにもいかないが……」


 公也としても別に無為に冒険者たちを死なせたいわけではない。しかし、何の考えもなくただ走って立ち向かうだけの行動にどれほどの意味があるのか。ドラゴケンタウロスの実力は不明なものの、ある程度はみればなんとなくはわかる。ロップヘブンを守るためにこの場に来ている冒険者たちをただの一声にて怯ませ、その巨体、持ち得る武器から身体能力もバカ高いことは間違いない。そのうえ体には竜の鱗まである。少なくともその攻防力は並のものでないことは間違いない。

 しかし、それくらいに相手がやばいとわかっていても、戦わずにすませることはできない。ロップヘブンを見捨てて逃げるのであれば構わないところであるが、少しの間とはいえ過ごした街にちょっとくらいの愛着はある。公也ですらそうなのだからフーマルはそれなりに愛着があるだろう。もっとも、それでも最終的には見捨てて逃げられる程度の愛着であるが、まだそのタイミングではない。

 仮に倒すだけならば公也ならば容易に可能である。暴食の力は相手の強さに関わらず、相手が何であれどんなものでも世界そのものですら食らうことが可能である超がつくほどの異常能力。邪神と呼ばれる存在、数多の世界の中でも最上位に等しい存在から受け取った能力であり、この場で振るえば容易に相手を始末できる。だがそれを使うことはいろいろな意味で難しい。その能力に頼ること自体の問題性、能力を使うことによるこの世界の消耗、そして何よりもこの場所では目撃者が多いというのが問題になる。仮にフーマルだけならばいいのだが、それ以外の冒険者にその能力について知られてしまうとその能力の異常性や奇異さから公也自身に何らかの敵意や悪意を向けられる可能性もある。もちろん公也が使っているとはばれないのだが、今後その能力を使うことで公也との関連性がわかった場合、面倒なことになるかもしれない。可能性の問題ばかりを言ったところで仕方がないわけであるが、様々な可能性を考慮し公也は暴食で片を付けるわけにはいかないと考えている。もっとも、目撃者さえいなくなれば使ってもいいとは考えている。この場に冒険者がいなくなればの話だが。

 と、そんなことを考えている間に一人の冒険者がドラゴケンタウロスへと突っ込んでいき、そのままドラゴケンタウロスによって吹き飛ばされた。


「あ」

「……あれはもうダメね。あれだけの一撃だと死んじゃうよ」

「まだ生きてはいる、か? まあ、流石に治すことができないと無理なのは間違いないな」

「二人ともなに冷静にしてるっすか……」


 冒険者がやられた光景を見ても公也とヴィローサは冷静だ。彼らにとってもドラゴケンタウロスは脅威であるが、未だに遠方におり近づいてくる様子はない。ならばまだ自分たちが出る幕ではない。急いで戦う必要もなく、相手の行動を、意思を見定める。そんなことをしている間に犠牲者は増えるわけであるが、冒険者の生死を少なくすること自体は公也たちの仕事ではない。そもそも彼らを守る必要性は公也たちにはないわけである。まあ、仮に彼らの仲間がいたならばその仲間から早くに動けば死ななかったのにと責められるかもしれない。もっとも、冒険者の行いはその冒険者に委ねられるものであり、その結果どのようなことになろうとも他者に責任を押し付けるのはお門違いの話であるが。


「うわ、火まで吐いてきたっすか!? まさかあれドラゴンと同じくらい強いんじゃないっすか!?」

「……竜と同じか。それにしてはあまりあの火炎強くないな」

「ドラゴンと同じってわけではないでしょうね。竜の特徴を持つからと言って竜と同じくらいの強さを得られるわけではありません。同じ力は使えても、その強さは個々で違うものではないかしら?」

「どちらにしても厄介なことは事実か……近づけば斧で、中距離まで来たところで炎を吐かれる。遠距離からの攻撃は高い防御力で通用しない……と、言うほどでもないか?」


 公也の言葉がきっかけになったわけではないが、冒険者たちの中にいる魔法の才能のある冒険者、あるいは魔法使いとして行動している冒険者が魔法を使う。その魔法はドラゴケンタウロスへと一直線に向かっていく。


「師匠も魔法を使うっすよ!」

「フーマル? キイ様の行動をなぜおまえが決めるのかしら?」

「ひうっ! 怖いっすよヴィローサさん!?」

「威力が足りてないな……せめてもう少し高い威力の魔法を使った方がいいんじゃないか?」

「あれくらいの魔法使いしかいないのではなくて? キイ様とは比べ物にならないわ……キイ様はどうするの?」

「遠距離で行動するか、近づいて攻撃するか……正直あれを抑えられる冒険者がいない以上、直接戦った方がいいかな」


 ドラゴケンタウロスの行動を自由にした場合、高速で移動される危険性がある。別に公也自身はそれ自体は脅威に思わないものの、狙いをつけづらくまた犠牲も増えるのであればできるだけ相手の行動を抑えるよう近づいて戦い制限をかけたほうがいい。遠距離攻撃は他の魔法使いに任せてもいい。まあ、近距離も遠距離も多くの冒険者は使い物にならないと見るべきであるが……


「っ! は、走ってくるっす!?」

「周りがパニックになっちゃってるね。逃げる?」

「逃げるわけにはいかないだろう……まあ、突っ込まれると厄介だから、足止めするぞ」


 公也は持っている杖をドラゴケンタウロスへと向ける。


「其の大地我が声に従い彼の者の風を止めよ、土よ下がり穴開け」


 静かにその声は響き、ドラゴケンタウロスの駆ける大地に陥没した大穴を作る。その結果、ドラゴケンタウロスは穴にひっかかり、勢いのまま大地に転がった。


「……ひええ」

「あれ、馬鹿、絶対に馬鹿、あははははは」


 こけるさまは傍から見ていると馬鹿をやったようにしか見えない……もっとも、そのこけるだけでも周囲の被害は甚大となっているのだが。



※フーマルに咆哮が効果が薄いのは主人公よりもヴィローサの影響力の方が大きいかもしれない。

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